更新日: 2021.07.29 贈与

親の認知症が進行、相続・贈与の手続きを進めたいが

執筆者 : 黒木達也

親の認知症が進行、相続・贈与の手続きを進めたいが
しばらく会わないうちに、一人で暮らしている親の判断能力が落ちていることがあります。現在の土地付きの1戸建て住宅も親名義で、預金の内容もよく調べていません。友人からは「出来るものは手続きしておかないと」と忠告されています。高齢者の5人に1人は認知症になる時代といわれ、誰でも、親の認知症が進んだときの相続問題に直面することになります。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

なるべく早く手をつける

認知症が進行し医師から診断書が出る段階になると、贈与などの財産移転の手続きが困難になります。同じ話を何度も繰り返す、預金通帳の置き場所がわからない、自宅への帰り道に迷う、といった行動が出てきたら、認知症が始まっている可能性があり要注意です。周囲の人は出来ることから始め、将来に備える必要があります。

まず金融資産、中でも銀行預金の扱いです。本人が金融機関まで行けるようなら同行し、定期預金は極力解約し、普通預金に移し替えキャッシュカードで引き出せるようにします。本人が金融機関へ出向けない場合は本人確認が出来ず、定期預金の解約手続きがかな手間どります。最近では「代理人届」を出すことで、親族などが本人に代わって預金を引き出せる「任意代理」制度があり、これも利用できます。老人ホームの入居金など大きな金額でも一度に引き出せます。証券会社に株式や投資信託を保有している場合も同様ですが、自宅に呼んで、本人同席で必要な解約手続きをしておくと将来安心です。

 

成年後見人制度の活用

認知症が重症化し極度に判断能力が衰えてくると、財産管理や移転ができなくなります。親族の1人が財産管理を行うことも可能ですが、兄弟や親戚が多く、相続の際にトラブルが起きそうな場合や、遠方で一人暮らしをしている場合に、本人に代わって財産管理や法的手続きを代行するのが「成年後見人」です。

 成年後見人制度には、法的後見人制度と任意後見人制度があります。法的後見人は、判断能力が衰えてきたときに、本人・家族などから申し立てを受け、家庭裁判所が選定します。選定される人は、親族の場合もありますが、弁護士や司法書士といった専門家がなる場合が多いようです。これに対して任意後見人は、本人が将来の不安に備え、あくまで「本人の意思」で自ら業務を第三者と委託契約をし、それを家庭裁判所が認めるものです。

 成年後見人制度では、本人の判断能力のレベルにより、「後見人」「保佐人」「補助人」の三つに分けられます。それぞれの権限は多少異なります(図表参照)。最も判断能力がない場合は「後見人」、最も軽度な場合は「補助人」となります。財産管理はもちろん、各種の契約や手続きを代行します。

 成年後見人制度を利用する場合は、行政の高齢者支援の窓口となっている「地域包括支援センター」などへ出向き、申立て書類一式、戸籍謄本、住民票、医師の診断書などを用意し申請します。市区町村長、検察官が申請することもできます。家庭裁判所が審理し認可されると後見人が決まります。選定された人が、後見人としての業務を継続して行います。一度選定されると親族との相性が悪くても、後見人を変更することは困難です。

後見人に対する報酬としては、月額2~3万円程度が基準とされています。しかし、管理する財産の金額が多くなるにつれ、報酬も高くなるのが一般的です。また最近では、NPO法人などが、実費以外は無償で引き受けるケースもあります。

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成年後見人制度の長所と短所

成年後見人制度を利用すると、次のメリットがあります。

  1. 各種の法的業務・諸手続きがスムーズにできます。役所への提出書類や年金の現況確認を後見人が代行できます。
  2. 預貯金などが長期に保護されます。預金通帳・印鑑の管理、また実際に預金の引き出しも、後見人が代行します。
  3. 不当に結ばされた契約を解除できます。突然訪ねてきた人から、売りつけられた商品の契約解除ができます。

しかし半面、この制度のデメリットもあります。

  1. 親族が預貯金などの引き出しが出来なくなります。後見人は預貯金の減少は本人の利益に反すると考えるため、親族が必要と考えても応じてもらえません。
  2. 生前贈与ができなくなります。かりに後見人を付けない場合でも、本人に判断能力がないと認定されると難しくなります。
  3. 社会的地位につけなくなります。組織のトップはもちろん、名誉職を含め各種役員、相談役等になることはできません。

 成年後見人制度を利用する場合は、長所・短所を判断して決めましょう。また成年後見人を付けなくても、社会福祉協議会が実施している福祉サービスなど、公的支援を受けることもできます。

執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト


 

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