2016.11.10スペシャルインタビュー

エキスパートに聞く「仕事とおカネのはなし」①

〈ノマドワーカー〉“可動産”への投資が、自由な働き方を実現するのです

Interview Guest : 安藤 美冬

Text : 澤登 彗 / Photo : 岡村 大輔

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Interview Guest

安藤 美冬

安藤 美冬(あんどう みふゆ)

1980年生まれ。東京育ち。株式会社スプリー代表。慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社集英社へ入社。その後フリーランスとして独立し、現職。起業家、コラムニスト、商品企画者、モデレーター、大学講師などさまざまな顔を持ち、肩書きや分野にとらわれずに多面的に活動している。近刊に『行動力の育て方』(SBクリエイティブ)、『ビジネスパーソンのためのセブ英語留学』(東洋経済新報社)、『20代のうちにやりたいこと手帳2017』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。ジュエリーブランドHASUNA代表の白木夏子と共にFB上の有料会員制コミュニティ《Wonderland》主宰。

https://lounge.dmm.com/detail/39/

安藤 美冬 Photo by 岡村大輔01
SNSを駆使しパソコン一台で世界を相手に仕事をする、ノマドワークと言われる働き方の火付け役となったのが安藤美冬さんです。今でこそ浸透しつつあるワークスタイルですが、安藤さんが大手出版社を飛び出してフリーランスの道を歩み始めた6年前は、カフェでパソコン広げて仕事をしている人の姿は今よりもずっと少なく、彼らの市民権も今ほど高くなかった。そんな時代に、場所にも組織にも縛られずに働く事を選択した安藤さんは、自由奔放でありながら仕事やお金には非常にシビアだ。自由な働き方のヒントと、仕事とお金の、切っても切れないお話を聞きました。

執筆業から企画まで、非常に幅広くお仕事をされていますね。仕事選びのポリシーは?

特定の肩書きは使わないようにしています。興味の幅が広く、その時に関心がある対象によって仕事を決めているので、肩書きで限定してしまいたくなくて。最初は「ご縁がつながったらそのときに勝負しよう」というポリシーだったので、「オファーをいただいたら基本的に受ける」というスタンスでした。今も、書籍や連載の執筆にはじまり、新潟の里山×現代アートの祭典「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」オフィシャルサポーターとして広報活動を手伝ったり、内閣府が行う国際交流事業「世界青年の船」と契約して船の上で世界11カ国の青年たちにリーダーシップ研修をしたりと、国内外問わず本当にいろいろやっています。ただし、身軽に働くスタイルだけは一貫していますね。

“ノマド”的なスタイルですか。

ノマドワークというと、カフェを点々とするという小さい規模で語られがちですが、私が目指しているのは地球全体を仕事場にすることです。10代の頃から旅行がとにかく好きだったので、どうにか旅を中心にして生活しながら働くことができないかと考えていました。思い立ったときにいつでも海外に飛び立てるようにということを考えると、在庫を抱えたり、固定費がかかる店舗や大きなオフィスを構えて社員を何人も雇ったりということとはあまり向かないわけです。「今月も80万、来月も80万」という具合に経費がかかると、自由を奪ってしまうと思ったんですよね。とにかく固定費を下げることを考えた結果、たどり着いたのが、今の知的生産の仕事なんです。

旅が多いということですが、住まいはどうしているんですか?

ずっと賃貸です。

家を買おうと思ったことは一度も?

一度だけあります。出版社勤めをしていたときに、会社の先輩に薦められて物件を観に行きました。見栄を張って山手線沿いの7、8000万くらいのかなり高めのマンションを見学しに行ったのですが、ローンの年数を見て目が覚めました(笑)。当時はまだ20代だったので、30年ローンで計算された記憶があります。「30年も同じ給与水準でいることを大前提に、支払いスケジュールを組まれるということ自体が異常」だと思ったんです。資産を持つというのは大事な考えだと思いますが、私は不動産ではなく“可”動産に価値があると思っています。

“可動産”とは?

変動の激しい世の中です。私たち個人にしてみても、今日はこの仕事を楽しいと思っていても来年何をやりたくなるかが分からなくなるのが普通だと思うんです。だから、なるべく固定されたものを作らずに、可動的に生きる。働き方も肩書きも可動的だし、家も賃貸。そのかわり、自己投資は怠りません。知識を増やすためのお金や時間は惜しまないようにしています。一番の資産は自分ですから。そういったポリシーは、基本的に会社員時代から変わりません。これまでも世界60カ国をまわってきていて、今も日本と海外の生活がだいたい半分ずつ。また習慣としては、テレビを捨てて(笑)、毎日一冊本を読むようにしています。

ずいぶんストイックですね。

ストイックじゃないですよ。私をよく知る人は知っていることですけど、遅くまでゲームや漫画で夜更かししますし、朝が苦手で遅刻ばっかりしています(苦笑)。真面目な気質もあるけれど、ぐうたらしちゃう性格なので、独立した今は「自己投資」をやり続けられるように一部の習慣を心がけているだけ。20代前半の働き始めたばかりの頃は、まだ自分の興味も定まっていなかったので、洋服やブランド物に夢中になってお金が全然ないという時期もありましたけれどね(笑)。

独立を決意されたのは30歳の時。大手出版社で収入も安定していたと思うのですが、お金の心配はありませんでしたか。

すごくありました。でも、その不安の根底にあるのは、お金ではなく失敗への不安だったんです。せっかく会社を辞めてまでチャレンジに踏み出したのに、仕事もないまま「安藤さん、あんなに勢い良く会社辞めたのに、いま一体何してるんだろうね」って笑われてしまうんじゃないかということが一番怖かった。だから、会社を辞めてから数年間は、とにかくがむしゃらに、一言では語り尽くせないほど頑張りました。独立したばかりの頃は、フリーランスは立場が弱いと思い込んでいたので、オファーされたら断る立場にないと思っていました。気乗りしなくてもお金がよければ受けるということもありましたし、ギャラがないということもありました。

仕事を受ける側として、ギャラの問題は切実でありながら、持ちかけ辛いトピックかと思います。

特に日本ではその風潮がありますよね。私も苦い経験をしたことがあり、今ではお金の話は初期の段階できちっとするようにしています。以前大学から講師のオファーを受けた時も、最初にお給料の確認をしたのですが、日本で仕事をしている人にその話をすると非常に驚かれます。

日本独特の風潮でしょうか。

海外だと、まずお金の話をしますよね。給料のためにぽんぽん転職するのは普通のことで、転職の面接の際にお金の話を持ち出すのをはしたないとされている日本の風習の話をすると、とても驚かれます。ただ、フリーランスとして発注者と対等な立場に立つためには、指名される人材を目指す必要がありますよね。そのためには、自分の強みを見つけて自己投資の対象を取捨選択し、時間とお金をセットで使うことが大事だと思います。

株に投資したり、資金を運用したりなどは?

私はやらないですね。本気でやろうとしたら、すごく勉強しないといけないことですから。今の私にはそのセンスも関心もないので、やらないようにしています。少しずつ、経済自由人を目指していきたいとは思っていますけれども。

“経済自由人”ですか?

お金のために自分が動かないといけない人は皆、経済“不自由”人です。会社員はもちろん、会社経営者やフリーランスもそうです。もちろん、私も。お金のことを考えずに、好きな事だけをやっていける経済自由人になれたらどんなにいいかとは思います(笑)。ただ、今はあまりそこに注力はしていないですね。あるベストセラー作家さんに「私もあなたみたいに経済自由人として印税だけで暮らしていきたいんだけど、どうすればいいですか」って聞いたことがあります。そうしたら「本100冊書いたら経済自由人になれるよ」と言われました(笑)。まだまだ道のりは遠いですが、40代になったときに本気で目指すかもしれません。

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澤登 彗

Text:澤登 彗(さわのぼり けい)

フリーランス・エディター&ライター

経済、日本文化関係などを中心に活躍中。

 

 

岡村 大輔

Photo:岡村 大輔(おかむら だいすけ)

フリーランス・フォトグラファー