2017.03.10スペシャルインタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑤

〈いけばな作家〉 いけばなは、ひらめきの練習。ビジネスにとてもリンクします。「ビジネスリーダーたちのいけばな展」主催

Interview Guest : 州村 衛香

Text : 藤本典子 / Photo : 新美 勝

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Interview Guest

州村 衛香

州村 衛香(すむら えいこう)

いけばな作家。 いけばな使節として外務省より海外へ派遣されるなど、国内のみならず世界中でいけばなの普及、発展に務める。これまでいけばなで訪れた国は20カ国以上。セルリアンタワー東急ホテルなどのいけばな演出を手がけるほか、作家活動、いけばな指導、指導者育成、植物における空間演出や講演など、多方面で活躍。花びらや落ち葉、街路樹から伐採された枝など、「再生」「命」をテーマに新しい植物の息を吹き込む作品で知られる。 現在、IKEBANA ATRIUM主宰。(財)草月会評議員、草月会師範会理事、草月会本部講師、いけばな芸術協会特別会員、いけばな協会評議員を務める。また、「Flower Japan」を主宰し、日本文化であるいけばなを軸に、より豊かなライフスタイルの創出を展開している。

昨年11月、銀座・ポーラミュージアムで開催された「Flower Japan 2016 ~ビジネスリーダーたちのいけばな展~」。企業経営者、教育者、ジャーナリストなど各分野のトップリーダーたちが、次世代へのエールを込めたテーマに基づく作品を発表し、第2回目となる今回も、花業界内外を問わず注目を集めました。今回は、同展を主宰するFlower Japan実行委員会代表であり、いけばな作家の州村衛香さんにお話を伺いました。

いけばな文化を次世代へ伝えていくために

—第一線で活躍する方々、しかも男性にもいけばなをしてもらうというアイデアはとても斬新でした。どのような経緯で、このいけばな展を企画されたのですか?—

きっかけは、このままだといけばなが廃れてしまうという危機感からでした。9歳の時に草月流の師範だった父に師事し、以来60年以上いけばなに携わってきた中で、特に10年前くらいからでしょうか。いけばな人口の減少だけでなく、人が花を愛でる気持ちも薄れてしまったように感じ、急いでなんとかしなければと焦りが募りました。
もともと貴族社会では男性のたしなみであり、命ある花と対峙し、一輪の花の美しさを追求するいけばなは、かけがえのない日本文化です。その大切さをもう一度、短期間で広く伝えていきたい。でも、私ひとりが素晴らしいと言っても限りがありますから、影響力のある方々のお力を借りて、たくさんの人に発信していけたら、と……。
たまたま趣味のトライアスロンでご一緒させていただいているロート製薬の山田会長にお話をしたら、背中を押してくださって。お力添えのもと、母体となる「FlowerJapanプロジェクト」を2015年に立ち上げたのがはじまりです。

いけばなって瞬発力がとても大事。ひらめきの練習でもあるのです

—昨年の参加者は46人。それだけの数、しかも企業のトップや教育者といった方々を束ねるのは、相当大変だったのではないでしょうか。—

2015年の第一回目は、26人からスタートしました。参加者を募る時に、ひとりひとりにいけばなの現状をお話しし、いけばなを通じて日本人の精神を守り伝える「メッセンジャー」になってくださいとお願いしました。いけばなを知らずして伝えることはできませんから体験していただき、さらに展覧会で発表することで、ご自分なりの感想を持ち、広げてもらうというかたちで。
それが良かったのかもしれません。各分野で同じような喪失感や危機感を抱いていらしたトップリーダーの方達でしたから、想いに賛同していただけ、そこからは早かったですね。会場を探して期日を1年後に設定し、お稽古をスタートしました。具体的にゴールを定めると、物事は動いていくものです。皆さん驚くほど上達が早く、「これはおもしろい。はまりますね!」と楽しんでいただけたのも印象的でした。
でも、実は想像していたことでもありました。いけばなって瞬発力がとても大事。ひらめきの練習でもあるのです。同時に決断力や直感力、創造性なども求められます。カルロス・ゴーンさんが初来日された際に、ビジネスに必要な要素について同じようなことをおっしゃっていました。それを聞いた時に、ビジネスマンにこそぜひいけばなをしていただきたいと思ったのも、このいけばな展を企画した理由のひとつでした。

 

—具体的にはどのようにお話しされたのですか? また、参加者の中で印象に残る作品についてお聞かせいただけますか。—

いけばなには幅と高さ、奥行きがあります。奥行きがあるというのは、より立体を意識しているということ。ですから、どこから見ても美しくなるよう整える俯瞰の眼も必要になります。皆さん、ビジネスの現場では自然と立体的に物事を見て、考え、行動されています。その感覚を今回は見える立体にし、植物で表現してみましょう、と提案しました。
山田会長は「混沌から希望へ」というテーマで、流木を使用した枝で構成されました。会期が海外出張と重なったため、事前に流木と枝(=混沌)をご自身でしっかりといけられて、花(=希望)は当日に、お嬢様がお稽古中の写真を元にいけられました。親子で作られたことで、本当に未来へつながっていく作品になりましたね。花材と構成を決めるのも早くて、迷いがないことに驚かされました。決断力と、イメージしたものを具現化していく集中力。そして構成力。どの角度から見ても表情豊かな作品でしたので、会場の中心に展示し、あらゆる角度からその立体感を見ていただけるようにしました。

山田邦雄氏(ロート製薬代表取締役兼CEO)の出展作品
「今は色々なものが変わりゆく中での混沌とした状態だが、そこから希望の糸が紡ぎあって未来に伸びていく。そんなイメージを込めて作品をいけました。」

花には顔があるのを、知っていますか?

—おけいこを始める前には、ひとりひとりとマンツーマンでお話しされたそうですね。—

そのプロセスがとても大事だと考えました。一番最初に、いけばなの基本の基本である、植物には顔があることをお話ししました。花の中心を見つめながらゆっくりと回転させていくと、花とピタリ、目が合う瞬間があります。その表情の違いを見つけていけていくことが大切です。枝も、日光があたる方は色が濃く、ツヤがあります。これが表。植物は太陽に向かって伸びますから、いけばなでは自分が太陽になり、花と目線を合わせるようにすると、いけ手の思いが伝わっていくと思うのです。顔が分かると命を感じられるようになります。
そして、器とのバランスを考えながら、傾けたり、長短によって表情をどうつけるかで作品も変わってきますし、たった一輪でも力のある作品が生まれます。そういうお話をしてからいけていただくと、皆さん驚くほど個性的にいけ始められて……。数回の御稽古で、本当に素晴らしい作品を作られるようになりましたね。

 

—まさに、「花と向き合う」のですね。物事の真理にも通じます。型の存在がいけばなの敷居を高くしてしまっていましたが、そう伺うと、なんだか自分にもできそうな気がしてきました。—

いけばなは、たくさん花材を使った立派なものばかりではありません。家に一輪、花を飾ることから始めてみてはいかがでしょうか。花があると、場の空気感が変わります。「お水を足してあげましょう!」など、家族の会話も生まれるでしょう。固い蕾がすこーし膨らんできて、開き始めるとすごく嬉しいじゃないですか。枯れてしまったのかしら? と思うと新芽が出てきたり、水切りしてあげると生き返ったり……。そうしたささやかな変化や心の動きを、ぜひ植物から学んで欲しいですね。

東京オリンピックまでに一家一輪

—「ビジネスリーダーたちのいけばな展」は、今年も開催されると聞きました。今後の予定をお聞かせください。—

まずは5年続けること。5年間である一定の広がりが生まれたら、また新しいことに挑戦できます。私は草月流ですが、これは日本文化のいけばなを広げるプロジェクトですので、流派を問わず広がり、将来的にはいろんな流派も入って欲しいと思っています。
四季に恵まれた日本は、その移ろいに味わいがあります。レッスンにいらっしゃるタイの方は日本の冬が好きで、雪が珍しいのかと思ったら、「粉雪は桜が散るようだ、木枝に積もる雪も花が咲いたようで美しい」と、すべて花に例えられます。また、ヨーロッパから時々グループでいらっしゃる方達は、冬の寒い時期に梅がちょっとほころんだと、本当に嬉しそうに教えてくださいます。

昔はいけばなや日本の心が外国人にわかるのかと言われたものですが、残念ながら今では逆です。いけばなを教えていても外国の方のほうがよく理解し、ニュアンスを汲み取ってくださいます。自然が豊かだからこそ、私達日本人もそうした微妙な変化を植物や自然から感じとっていたはずが、今は心に潤いがないというのでしょうか? 寂しいですね。
ですからもう一度、本気で。東京オリンピックの開催までに、家に花を飾る習慣を再び根付かせることが、私の夢であり、今の目標です。外国の方が日本を訪れた時に、どのお家にも花がいけてあったら素敵ですよね。あと3年です。急がなければなりませんね(笑)。

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藤本典子

Text:藤本典子(ふじもと のりこ)

フリーランス・エディター&ライター

 

 

新美 勝

Photo:新美 勝(にいみ まさる)

フリーランス・フォトグラファー