2017.04.07スペシャルインタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑦

日本を元気にする経済効果を次々発表する経済学者。次はスポーツ界でのスター選手に注目!

Interview Guest : 宮本 勝浩(関西大学名誉教授)

Text : 山下 まり子

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Interview Guest

宮本 勝浩(関西大学名誉教授)

宮本 勝浩(関西大学名誉教授)

宮本勝浩(みやもと かつひろ)
関西大学名誉教授。理論経済学、関西経済論、スポーツ経済学などを専門とする経済学者。2003年「阪神タイガース優勝の経済効果」の発表で一躍有名に。その後もスポーツ選手・著名人の活動や各種イベントがもたらす経済効果を分析・発表。テレビやラジオ番組など各種メディアでも活躍している。主な著書に『移行経済の理論』(中央経済社)、『「経済効果」ってなんだろう?』(中央経済社)などがある。

ネコノミクスの経済効果、AKB48の経済効果など、さまざまな経済効果を分析・発表している宮本勝浩先生。「ちちんぷいぷい(MBSテレビ)」や「おはよう朝日土曜日です(ABCテレビ)」に出演するなど、メディアでも注目を集めています。遠い存在のようで、実は私たちの生活に密接している経済効果。今回は先生に、経済効果とは一体なんなのか、またこれからの日本の経済を回すために必要なことは何か、経済学初心者にもわかりやすく、丁寧に説明していただきました。

初めて発表したのは「阪神タイガース優勝の経済効果」

——これまでに100件以上の経済効果を発表してきたという宮本先生。経済効果の分析を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

初めて経済効果の分析を試みたのは2003年の夏。星野仙一監督のもと、阪神タイガースが開幕直後から首位を独走していたときのことです。このままいけば、18年ぶりのセ・リーグ優勝になるのでは……?と思った私は、ゼミの学生に「阪神タイガースが優勝したとき、どのくらいの経済効果が生まれるのかを計算しよう」と持ち掛けました。当時のゼミ生は15人ほど。早速全員で、球場の入場料、阪神百貨店でのタイガースグッズの売り上げ、尼崎商店街の売り上げなど、データを集めてまわりました。
そのとき非常に面白かったのは、予想に反して“近畿圏外の経済効果が大きい”ことでした。阪神百貨店のタイガースグッズ売り場に来ていたファンの約半数は、近畿圏外からのお客さんだったのです。一番遠くは帯広からで、そのほか、熊本や東京、信州、名古屋など……。そのとき、阪神タイガースは全国区の人気球団なのだと実感しましたね。
結果、私が打ち出した阪神優勝の経済効果は、1481.3億円。その年、見事に阪神タイガースは優勝を飾りました。

一番大切なのは、丁寧に、正確なデータを集めること

—–経済効果は一体、どのようにして導き出されるのですか。

経済効果を計算する際、必要になるのは正確で詳細なデータです。そして、「経済効果」とは、3つの効果、つまり一つは「直接効果」、次に「一次波及効果」、最後に「二次波及効果」の合計のことです。
この3つの効果を阪神タイガース優勝のケースで例えましょう。タイガースファンが、球場でカレーライスを食べたとします。このときのカレーの売り上げは、直接効果です。さらに、米や野菜など、カレーに必要となる材料の売り上げは、一次波及効果と呼ばれるものです。そして最後の二次波及効果は、カレーやカレーの材料を売る人たちの所得増加による消費行動です。例えばカレーを販売するレストランは、カレーライスがよく売れることによって忙しくなる。その店のアルバイトは出勤の日数が増え、給料が増える。結果、「次の休みは少し高価なお店で彼女と食事でもしようかな」という風に消費活動が生まれるでしょう。これが、二次波及効果です。経済効果はこの3つの効果を合計することで求められます。
これまで一番苦労したのは、東京のテレビ局から依頼されたゴルフの石川遼選手の経済効果です。石川遼選手の経済効果を算出するには、石川遼選手がプロになる前と、なった後との直接効果の金額の差額を求めなければいけません。ゴルフの試合の来場者数、ゴルフの雑誌やゴルフグッズの売り上げなどのデータはすぐ手に入ります。しかし、石川選手が出演していたCMのギャラは企業秘密なので、テレビ局はなかなか教えてくれません。最後には、知り合いの芸能担当記者に相場を聞き出し、推測するほかありませんでした(笑)。経済効果を計算するうえで、個人の所得や芸能人のギャラなどは、ネックになりますね。
 

次に注目しているのは、WBCと甲子園の経済効果

—–宮本先生は、これまで面白い経済効果を次々発表してきました。いま、最も注目している経済効果は何ですか。

私はやっぱりスポーツが好きなんです。最近ではワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の経済効果を発表しました。日本ハムの大谷翔平投手が、足首の故障のため第4回WBCへの出場を断念したのはご存知でしょう。これは、経済効果に大きな影響をもたらすと思いますよ。大谷選手の欠場は野球ファンにとって相当なショックですから。
あとは、選抜高等学校野球大会の経済効果。なんといっても今春は、早稲田実業学校の清宮幸太郎選手が出場します。今年は、過去の甲子園で大スターが誕生した年に匹敵する経済効果が生まれると踏んでいます。

日本を救う経済効果は、こうして生まれる

—–あらゆる事象が経済効果の要因となり得ます。例えばイベントの開催や、ドラマの放映、●●ブームなど……。なかなかデフレから脱却できないでいる日本ですが、この状況を打破するためには、どのような経済効果が必要だと思われますか?

新しくイベントを企画するときに、それが永続性のあるものかどうか、ということが一番大切だと思います。例えば市民マラソンを例にとります。地域活性化のために、日本ではさまざまな市民マラソンが企画されています。東京マラソンや大阪マラソンのように大成功している市民マラソンがありますが、一方で採算がとれずに廃止されたマラソン大会も多くあります。ランナーの数は限られているので、マラソン大会の数が増えれば当然のことです。いくらイベントを企画しても、1回きりの開催では、出費がかさむだけでは採算がとれません。イベントを継続するには、マスコミを使って人を集める工夫が常に必要でしょう。
また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、建設に多大な費用がかかりましたが、次々に新しい企画を展開することで、来場者数のアップを実現しています。このように、来たる東京オリンピックでは、長年にわたって活用できる施設をつくることが大切だと思います。オリンピック開催には、どうしても出費がかさみますから。
あと私が考えるのは、いかにお年寄りを動かすか、ということです。年をとるとどうしても出不精になりがちですが、お年寄りって意外とお金を持っているんです。少し前のデータでは、日本人の一人平均の遺産は約3000万円あるとも出ています。若い人は放っておいてもあちこちに出かけ、消費活動をしてくれます。今後は、お年寄り向けのイベントなど、消費を促す仕組みづくりが必要ではないでしょうか。

日本が明るくなる経済効果を発表していきたい

—–先生のモットーは人を活気づける経済効果しか出さないこと、と伺いました。それはなぜですか。また、他に大切にしていることがあれば教えてください。

芸能人の不祥事など、マイナスの経済効果についてもよく計算の依頼がきます。できるにはできるのですが、それはすべて断るようにしています。反省している人たちに対して追い打ちをかけるような計算はしたくないからです。
あと私が大切にしているのは、経済効果の計算は、その計算結果に利害関係を持たない第三者が計算することです。イベントの開催側など、当事者はどうしても経済効果を大きく見積ろうとしてしまいますからね(笑)。客観的な分析が必要です。そして、予想値と実測値の違いの検証はできるだけ行うこと。これらを大切にしながら、これからも、みんなが元気になる経済効果を発表していきたいと思っています。

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山下 まり子

Text:山下 まり子(やました まりこ)

エディター&ライター。(株)ひでみ企画所属