2017.05.02スペシャルインタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑨

笑顔の接客は、本当によいサービス? 鮨屋で感じる緊張感に、サービスの価値が隠されています

Interview Guest : 山内裕(京都大学経営管理大学院・准教授)

Text : 山下 まり子 / Photo : 貝原 弘次

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Interview Guest

山内裕(京都大学経営管理大学院・准教授)

山内裕(京都大学経営管理大学院・准教授)

京都大学経営管理大学院・准教授。京都大学工学部卒業、同情報学研究科修士、UCLA 経営学博士等を経て、現職。江戸前鮨、京都の料理屋、ファストフード店、バーなど、さまざまな分野のサービス形態を研究。著書に、『「闘争」としてのサービス: 顧客インタラクションの研究』(中央経済社)。
 http://yamauchi.net 

よいサービスとは、一体何なのか。一般的には、笑顔あふれる接客で顧客のニーズを満たすことをめざした、いわば「お客様第一」のサービスがよしとされています。それでは、親方がニコリとも笑わない高級な鮨屋はどうでしょう。看板もなければメニュー表もない。値段もわからないまま、最後に合計だけを知らされる空間は、決して居心地のよいものではありません。ではなぜ、高いお金を払ってまで、人々は鮨屋へ足を運ぶのでしょうか……? 身近にあるサービスのカラクリを、京都大学准教授・山内裕先生が解説します。

気まずい空間にこそ、サービスの価値が生まれる

——鮨屋をはじめ、京都の料亭やフレンチレストランなど、高級な飲食店であるほど、店内には気まずい空気が流れている気がします。これは、なぜなのでしょうか。

変な話ですが、客を満足させようとするほど、客はそのサービスに満足しない傾向があります。例えば、笑顔の親方がこちらの反応を伺いながら握ったお寿司と、不愛想な親方が無言で握ったお寿司、どちらがおいしいと感じるでしょうか。職人が客のためではなく、自分のために仕事をしているからこそ、客はその仕事を高く評価するのです。逆に、客を喜ばそうとする提供者は、客から若干低く見られることになります。高級な場になればなるほど、笑顔、情報量、迅速さ、親しみやすさなどの、いわゆる「サービス」が減少するのはこのためです。
サービスの価値は、客にとって特別なもの、非日常的なものにこそあり、店側はあえて客の日常を否定し、緊張感を与えることでサービスの価値を高めます。この、いわば挑戦ともいえる店側の対応に、客は背伸びをして挑んでいかなければなりません。こういった意味で、私は「サービスとは闘争である」と提唱しています。

——この気まずさは、店側が故意に演出しているものなのでしょうか?

もちろん、意識していると思います。ある鮨屋の親方は「鮨屋は客との勝負だ。だいたいは、はじめのやりとりで勝負が決まる」と言いました。研究のために鮨屋のカウンター席を撮影したビデオを見ると、客の緊張がよく伝わってきます。親方はまず、席に着くやいなや「お飲み物いかがいたしましょうか」と声をかけます。メニュー表がないなかで、いきなり注文を求められるとドキッとしますよね。笑って誤魔化す人や、なかには答えられなくなる人も。逆に慣れている人は、「ビールで」などと、親方が言い終わる前に答えてしまいます。私はこの質問を予期していた、という風に。

——スターバックスにも、このようなサービスの姿勢を感じるのですが。

おっしゃる通り、店員はにこやかな対応ではありますが、スターバックスにも独特の緊張感や高級感がありますよね。サイズの表記も一般的なS・M・Lではなく、ショート、トール、グランデ、ベンティと、非常にわかりにくい。そもそもアメリカ発のカフェのメニューに、なぜグランテやベンティといったイタリア語を使用するのか。客に知らない言葉を見せつけ、さらにそれをオーダーさせるのは、まさに店側からの挑戦だといえるでしょう。
そもそもスターバックスの前身は、各国の多種多様な豆に合わせた焙煎法でコーヒーを提供する、一部の文化的なエリートを対象にしたカフェでした。このエリート主義的な雰囲気を残しながらも、大衆が気軽に飲めるカフェとしてデザインされたのが、いまのスターバックスです。スターバックス流行の裏には、明確なブランド戦略があったわけですね。

ファーストフード店、テーマパークの価値は、非日常的な空間にこそあった。

—–マクドナルドをはじめ、ファーストフード店ではお客様第一の接客が基本です。このようなサービスが流行したのはなぜでしょうか?

マクドナルドが流行した理由は、安さ・速さ・画一的な味にあると言われることがありますが、私はそれ以上に、ひとつの時代の象徴を作り上げたところにそれがあると思います。
第二次世界大戦後、近代化の一途をたどる社会のなかで、マクドナルドは全く新しいサービスの形態を掲示しました。当時、マクドナルドに行く人は、従来からの伝統的な社会から抜け出し新しい近代に入ることに相当緊張したはずです。
その後もマクドナルドが成長を続けたのは、メインターゲットを子どもに設定したからでしょう。マクドナルドの価格帯なら、子どもたちだけでも食事をとることができる。幼い頃、マクドナルドに行って、緊張しながらもどこか大人になったような気持ちになった……そんな記憶はありませんか?子どもにとってマクドナルドは非日常であり、新しい体験なのだと思います。

—–ディズニーランドなどのテーマパークや、コンビニでのケースはどうでしょうか? これも緊張感を演出するサービスなのでしょうか?

ディズニーランドなどのテーマパークは、非日常な空間を完璧に作り上げたよい例でしょう。先にも話しましたが、客を満足させるには非日常的な体験が必要です。客が知らない世界をつきつけ、客の日常を否定しなければ、サービスに価値は生まれません。
一方で、コンビニはそういった側面を一切排除したサービスだといえます。コンビニは客の日常にできるだけ寄り添うことを大切にしています。
しかし、少しでもサービスに付加価値があり、対価を支払うのであれば、やはり先述した非日常のサービスが求められます。客は満足させられるだけでは飽き足らない。ある意味、恋愛が成就しないほど盛り上がることに似ているのかもしれません。

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山下 まり子

Text:山下 まり子(やました まりこ)

エディター&ライター。(株)ひでみ企画所属

 

 

貝原 弘次

Photo:貝原 弘次(かいばら こうじ)

フリーランス・フォトグラファー