2017.09.07スペシャルインタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑮

お得な結果につながる良い製品を選ぶためには、「自分とは何か?」を考えることが必要になります

Interview Guest : 武正 秀治(多摩美術大学教授)

Text : 村田 保子 / Photo : 岩田 えり

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Interview Guest

武正 秀治(多摩美術大学教授)

武正 秀治(多摩美術大学教授)

多摩美術大学美術学部生産デザイン学科 教授。1957年東京都生まれ。80年NECに入社、情報機器のデザインに従事。89年同社チーフデザイナーとしてアドバンスデザイン部へ。93年より現職。第一回国際デザインコンペティション・国際デザイン交流協会会長賞など受賞多数。グッドデザイン賞等の審査員、雑誌への執筆などデザインの世界で幅広く活躍中。

 
 多摩美術大学でプロダクトデザインを専門にご担当されている武正秀治先生。自動車や家電など、生活に身近な製品の歴史や変換にも詳しく、時代ごとの「三種の神器」を紹介する展覧会の企画なども手掛けています。そんな武正先生に「暮らしとデザイン」をテーマにお話をお聞きしました。結果的にお得なことにつながるという、満足度の高い製品を選ぶための考え方を、デザインという視点から詳しく教えていただきました。
 

日本の美意識は「伊勢神宮」と「歌舞伎」の対極の面をもつ

 

——私たちがものを購入する時、できるだけ良いデザインで、機能も優れている製品を選び、満足感を高めるにはどうすればいいとお考えになりますか?

 

 見た目や佇まいも一つの機能だと思います。デザインが飽きないものであることはとても大切です。たとえば流行に左右されない、スタンダードなデザインなどが一例と言えます。多少価格が高くても長く使えるものはエコなデザインということになります。「安物買いの銭失い」という言葉がありますが、その逆もまた然りで、飽きないデザインの製品を選ぶことは、結果的にお得な買い物になるのではないでしょうか。また、そういった製品は使っていて気分がいいです。大事にして愛着もわくから、壊れても修理して使おうという気になる。そこにも付加価値があり、永きにわたり満足度も高くなると思います。

——日本のプロダクトはハイスペックなものが多く、機能性は重視されていますが、飽きないとか長く使えるデザインのものは少ないと感じます。

 

 日本の根源的な美意識は、伊勢神宮などの神社に代表される、本当に必要なもの以外をそぎ落とした究極のシンプルさだと思います。そこに身を置いてみると、風の動きや木々の葉がゆれる気配を感じる。自然のちょっとした動きが増幅されて伝わってくるような施設です。そのような空間は神道の世界観によって生み出されていて、すべてのものに魂が宿るというアニミズムが根底にあります。

 一方で、歌舞伎のような絢爛豪華な世界も日本の美意識の一つですね。この二つは対極ですが、日本にはその両方があって、どちらが良い悪いというものではないんだと思います。これは私の個人的な見解ですが、現代の日本の車や家電などのプロダクトは、どちらかというと歌舞伎系の流れがきているのではないかと感じています。新型プリウスを見るたびにガンダムを連想してしまいます。機能的には必要ないけど、寂しいから付け足してしまって、どうしても装飾的になってしまう。でもそれは昔からずっとそうなのかもしれません。江戸時代には、歌舞伎は庶民の文化でしたから、マスである大衆は装飾的なものを求めてきたとも言えます。しかし、根底はアニミズムですから、どちらかに振れるだけで、美意識としては両方あって、シンプルなものを求める人は一定数います。また、家電などの分野では、日本のメーカーもスタンダードなシンプルさに目を向けはじめ、デザイン性が高く、機能的にも工夫を凝らした製品などを、送り出している傾向もあると感じています。

 消費者側も一昔前は、ソファはバリ風、家具は北欧風、家はスペイン風みたいな、選び方をする人がいましたが、最近は減ってきていて、セレクトするセンスが整理されつつあるのを感じます。さらに今は実態のあるものではなく、インフラやサービスなどを選ぶ時代になりましたから、ますます「何がいいものなのか」は言いきれなくなってきていると思います。

 

 

スマートフォンのデザインは、ソフトを引き立てるための額縁

 

——実態がないもの、形がないものについて、消費者は何を基準に選べばいいのでしょうか?

 

 「ダイバーシティ」という言葉も盛んに聞こえてきていますが、多様化する製品やサービスのなから、自分に合ったものを見つけることが大切になってくるでしょうね。しかし、そうなってくると多くの人は「自分って何なの?」という疑問にぶち当たってしまうのです。

たとえば、スマートフォンやダブレットのデザインは額縁ですよね。デザイナーもソフトウェアがよく見えるようにあえてシンプルな額縁にしているのに、キラキラしたシールを張ったり、デコレーションしたりする人もいます。わざわざ歌舞伎の世界にしている人というのは、自分が求めるものを知っているということだと思います。

 スマートフォンのアプリなどソフトウェアは、使う人がアレンジして、手を入れられるようになっていますよね。結果としてハードもそうなってしまっている。そのような状況だから、ものをつくり出すデザイナーの側も、ユーザーを想定しきれなくなってきています。どんな装飾をされてもいいものを送り出さないといけなくなってきますから。

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村田 保子

Text:村田 保子(むらた やすこ)

Financial Field エディター

 

 

岩田 えり

Photo:岩田 えり(いわた えり)

フリーランス・フォトグラファー

日本舞台写真家協会・会員。タレント・舞台俳優など人物写真を得意とする。