2017.08.31年金

国民年金。強制徴収で保険料納付率が向上

Text : 中嶋 正広

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 年金は、現役世代が支払う保険料に支えられている要素があり、保険料の納付が不可欠です。2017年度から、国民年金に加入している人たちへの、徴収方法が強化されました。年金に対する信頼性を高めることが、大きな目的です。
 

国民年金の納付率はなぜ低いか

 

 会社員や公務員が加入している厚生年金は、給与から天引きされ、事業所負担分とあわせて事業所が納めているため、本人の意志に関係なく納付率は高くなります。事業所が厚生年金に加入しない場合を除いて、非常に高い加入率になっています。
 それに対して、自営業者やフリーターなどが加入する国民年金は、天引きではなく個人が直接納付する仕組みのため、納付の手続きをしない人が多くなると、納付率は下がります。厚生年金と比較すると大きな差が出ます。実際の納付しようと思っている人であっても「ついつい忘れる」「面倒だから納付しない」「生活に追われ納められない」といった要因があると、納付率は大きく低くなっています。

 

強制徴収で納付率は改善

 

 そのため2017年度から、国民年金保険料を納めない人に対する徴収方法が、これまでより厳しくなりました。強制徴収はこれまでも実施されてきました。これは延滞料金の加算や財産の差押えを視野に入れて行う強制力をもった徴収方法です。
 2016年度までは、この強制徴収の対象者は「年間所得が350万円以上、未納月数が7ヵ月以上」でしたが、2017年度からは「年間所得が300万円以上、未納月数が13ヵ月以上」に変更されました。これにより対象者も、これまでの約27万人から約36万人となりました。約9万人増加しました。

 国民年金保険料の納付率は、1990年代には80%を超えていましたが、それから下がり続け、2011年度がこれまでの最低で約58%まで低下しました。そのため危機感をもって強制徴収を進めたことにより年々納付率が上昇し、2015年度には約64%まで回復しました。今後も今回の措置により納付率のさらなる改善が見込まれます。

 ただし一方で、経済的な理由などで申請ができる「免除」の手続きをとっている人も増加しています。納付率が改善しても、免除者が多くなれば、納付総額が額面通りに増えてはいきません。どの程度納付額が増えたかは、今後検証する必要がありそうです。

 

未納者をどれだけ減らせるか

 

 保険料を正しく納めている人にとっては、未納者の増加は、自分が一見損をしている気分になり、決して歓迎できる事態ではありません。強制徴収は「特別催告状」という書類を、該当する未納者に送り納付を強く促すもので、非常に大きな強制力をもちます。強制徴収が実施可能になった背景は、社会保険庁時代に起きた不祥事の記憶がしだいに薄くなりつつあり、独立法人として日本年金機構に衣替えし、徴収強化に乗り出した姿勢を見せているといえます。

 厚生年金のように天引きであれば、自分があまり十分意識しなくても結果として納付できますが、直接納付となる経済的事情などで、納付をためらうケースも出てしまいます。公平の観点から見ても、また将来の年金制度への信頼感をもたせる観点から見ても、納付率の上昇は、これからも必要不可欠です。

 

少子高齢化が制度への不安を増幅

 

 国民年金の納付率がこれほど低がったのは、保険料を納めている人が、国民年金を含む日本の年金制度への不信感が、根強くあったことは間違いありません。
 その不信感を生む要因として、第1に挙げられるのは、少子高齢化の進行で年金制度自体が今後も存続できるのか、という不安が大きいことです。とくに若い世代には、保険料を支払ったけれども、支払った額に応じた年金を将来本当に受け取れるのか、という不安感は大きいといえます。

 日本の年金制度の基本は賦課方式という、現役世代が高齢世代を支える仕組みで成り立っており、支払った年金がそのまま返ってくる仕組みではありません。年金を支える若い世代の減少は、制度維持の観点からいっても大きな痛手になります。自分たちが現在の高齢者を支えていても、実際に自分たちが高齢者になったときに、どれだけの年金が保証されるのか、と考える若者は多いはずです。現在の高齢者が、支払額以上の十分な年金を受け取り、現在の若年層が支払った額を貰えないのでは、と疑問をもつ世代間格差の存在は大きいといえます。

 

非正規雇用の増大が納付率を下げる

 

 次に挙げられるのが、非正規雇用者の増加などによる納付者の経済状況が悪化し、保険料を支払う余裕がない人が増加したことです。とくに政府が労働環境の改善よりも、経済の成長戦略を重視した結果、ここ数年、正規雇用が減り非正規雇用の拡大を招きました。

 例えば厚生年金加入者だった人が転職などで、非正規雇用に変わってしまった場合、厚生年金の加入者から外れるケースが出てきます。そうなると、とても国民年金の保険料まで気が回らなくなることは十分に考えられます。とくに天引きに慣れてしまっていると、保険料を自分で納付に出向くことは、結構大変な仕事になります。

 年金保険料を支払う側が、将来支給される年金に安心感がもてる努力が、国や日本年金機構に求められます。

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中嶋 正広

Text:中嶋 正広(なかじま まさひろ)

社会保険労務士