執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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失速の1つめの理由はトランプ大統領の政策運営
先進各国の金融政策が脱緩和から大きく動かないのは、以前にもお伝えした物価が上がらないからだと思われます。なぜ物価が上昇しないのか?
物価指標を構成している資源価格が当初の思惑ほど上昇しないからです。トランプ大統領就任当時の二大目玉施策である大規模インフラ投資と大幅減税。これをうけて、当初はインフラ投資が進めば資材となる資源の需要が盛り上がると見込んだ投資家が先回りする格好で買いあがり、資源価格は上昇しました。しかしロシアゲートに続き、オバマケアの代替案が1度ならず2度までも頓挫し、トランプ大統領の政権運営力に疑問符がつきはじめると、期待剥落とともに資源価格も弱含みで推移しています。また原油価格もアラブ諸国の減産にも拘わらずロシアやシェール・オイルの「隙あらば増産」という流れで需給は緩み、5・6月は下落しています。
基調としては円の独歩安であることには変わりはないので、追い風には間違いないですが、当初予想が30mであれば10mぐらいと失速した感じですね。
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2つめの理由は、健全ではない業績伸長の実態、賃金上昇を犠牲にして好調を維持
2つめの理由として、最終的な株価の行方を占う企業業績の見通しについて言及したいと思います。世界的に言えることだと思いますが、「企業は収益を上げている、儲かっている」というニュースはよく耳にしますが、街角景気ウォッチャー調査や一般の人々の間の景況感との間には乖離があるように感じませんか?
先進各国に程度の差こそあれ共通してみられることかと思いますが、世界的な需要が盛り上がっているというよりは、企業各社が人件費などのコスト抑制によって増益を維持している実態を確認する必要があります。本来、企業は売上を伸ばすことによって利益を上げていくのが健全な成長です。しかしながら増収を記録しているのは、IoT(インターネット・オブ・シングス)、AI(人工知能)といった一部の業種に限られています。人手不足からくる省力化投資関連やスマホの容量拡大で需要が伸びているためです。世界のGDPの4分の1を占める米国の状況がこれですから、他の先進各国についても言わずもがなです。
日本で顕著にみられる人手不足の報道についても付け加えたいと思います。2017年5月の有効求人倍率は、1990年7月に記録したバブル期の最高値1.46を上回り1.48倍と報道されています。しかし、業種別でみると介護職や保育士・建設現場作業員は圧倒的な人手不足ですが、一般事務職では0.4倍です。ここにも、成長産業とこれから機械にとってかわられるであろう産業・職種とのアンバランスな側面が潜んでいます。
ごく一部の業界だけが増収増益という本来の企業成長モデルに沿ってビジネスが展開されていますが、それ以外は、コストを絞ることで利益を無理やり捻出しているともいえるでしょう。このような状態は健全な経済成長とはおよそ言い難く、それゆえ、相場全体が上昇するというサイクルにはいらないのです。
3つめの理由は日本の政策混乱
3つめは、日本独自の事情です。最近の相場の上げに持続性がないのは、都議会議員選挙での自民党大敗北からはじまった日本政権屋台骨のもろさです。加えて、国会では稲田防衛大臣への向かい風、加計学園問題などで揺れ、安倍内閣の雲行きが怪しくなっています。その結果、連日、報道各社で実施している世論調査でも、自民党不支持が圧倒的多数に及んでいます。
国の政治基盤が盤石なことが、経済成長・社会システムの整備の前提です。これまで外国人の買いを呼び込んでいたのも、安倍政権の安定性によるところが大きかっただけに、外国人による買いが入らないことにより日経平均2万円を挟んでのもみあい相場を形成しています。8月に内閣改造を予定しているとのことで、今回はかなりドラスティックな人事刷新を断行するでしょうが、それで支持率が回復というには傷は大きくなりすぎたかなと思います。
したがって、ここからは日本株については、「円安による為替押し上げ効果でのみ上昇するものの、それ以外の支援材料が見当たらないため、ニュースによる一時的な下げが発生したときに買いを入れて、21,000円など、皆さまがそれぞれに設定したゴールに到達したら「利益確定する」という冷ややかな神輿担ぎ戦略が有効かと思われます。長居は無用です。