更新日: 2021.01.27 贈与

大改革の前触れ?令和3年度贈与税非課税特例の改正点

執筆者 : 酒井 乙

大改革の前触れ?令和3年度贈与税非課税特例の改正点
子や孫が「住宅購入」や「教育」「結婚・子育て」にかかる費用を、親などが無税で贈与できる贈与税の非課税特例制度。令和2年12月、政府が「令和3年度税制改正大綱」を発表し、令和3年度も引き続きこれらの特例制度を利用できることになりました。
 
しかし、政府からは将来的な贈与・相続税の抜本改正を匂わせる声もあり、これらの制度が今後も続くかは不透明です。そこで本記事では、贈与税の非課税特例制度の令和3年度改正点と、将来の展望をご説明します。

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酒井 乙

執筆者:酒井 乙(さかい きのと)

CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。  
 
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。  
 
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。 
 

「住宅資金贈与」は、限度額や床面積要件を緩和

親や祖父母などが、20歳以上の子や孫へ住宅購入資金を限度額まで無税で贈与できる、いわゆる「住宅取得等資金の贈与税非課税の特例」。
 
令和3年度の改正では、令和3年4月1日から令和3年12月31日までの間に購入契約を結んだ住宅の購入に充てる贈与の非課税限度額が200万~300万円上がりました(図1)。
 


 
さらに、令和3年1月1日以降、同制度における住宅の床面積要件が50平方メートルから40平方メートルに引き下げられました。単身者や夫婦2人に適した広さのマンション購入を考えている方にとっては朗報です。
 
ただし、新築マンションを購入の際は、広告に表示される床面積で判断せず、実際の面積が制度の要件を満たすかについて、不動産会社へ確認したほうがよいでしょう。
 
広告に掲載された床面積は、制度の判定に使用される登記簿上の床面積よりも広い場合が多いからです(※1)。
 

「教育資金一括贈与」は2年延長の上、相続財産となる年数制限を撤廃

親や祖父母などが、子や孫の教育費に充てる資金を1500万円まで非課税で一括贈与できる「教育資金一括贈与の非課税特例」。
 
教育資金を必要なときにその都度渡す場合はもともと贈与税がかかりませんが、将来必要なときのために一括で渡すことができるこの制度は、利用数(累計)が年々伸びています。
 


 
平成31年度の税制改正で2年延長されたのに引き続き、本制度は、令和3年度からも再度2年延長されることになりました。さらに、本制度が相続税の節税に使われている現状への対策として、次の改正が行われます。
 
子や孫に贈与したものの、贈与した親や祖父母が死亡した時点で教育費に使っていない残額がある場合、改正前は「死亡前3年以内の贈与に限って相続または遺贈として」扱われましたが、改正後は「死亡前の年数に関わらず、相続または遺贈として」扱われます。
 
つまり、贈与から3年がたてば、未使用の残額は親が死亡しても相続財産とならない(=相続税がかからない)とされていたものが、何年前の贈与であっても相続財産に加えることになります(図3)。
 

 
ただし、贈与者の死亡時、贈与を受けた人が23歳未満であったり、学校などに在籍していたりする場合は、この改正の対象外となります。
 
さらに、残額を孫が相続する場合、子が相続する場合と比べて相続税が2割アップする「相続税の2割加算」が適用されます(後述の「結婚・子育て資金の一括贈与」も同様の措置)。
 

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「結婚・子育て資金の一括贈与」は、贈与を受ける側の年齢要件引き下げ

親や祖父母などが、20歳以上50歳未満の子や孫の挙式費用、新居の家賃、生まれた子の保育料などに充てる資金を1000万円まで無税で一括贈与できる、いわゆる「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例」。
 
改正後の令和4年(2022年)4月1日から、成人年齢引き下げにより贈与を受ける子や孫の年齢要件が、18歳以上となります。
 
また、生まれた子供を定員5人以下の認可外保育施設に預ける場合、その費用はこれまで非課税の対象外でしたが、改正後は、一定基準を満たす旨の証明書を都道府県から交付を受けた施設であれば、定員5人以下でも対象となります。
 
現在5人以下の認可外保育施設の数は多くはありませんが(※2)、待機児童の問題を考えれば、子育て中の方にとっては朗報といえるでしょう。
 

近い将来、贈与・相続税の大きな改革は否定できない

これまでご説明した3つの非課税制度はすべて時限立法です。従って、いずれ廃止されたり、社会情勢の変化によって制度が大きく緩和または制限されたりする可能性があります。今後、これらの制度はどのように変わるのでしょうか?
 
これらの非課税制度に共通するキーワードは、「世代間の所得移転」です。高齢世代が保有している貯蓄を、住宅購入や子育てなどお金が必要な若い世代へ早期に配分する仕組み作りは政府の重要課題です。
 
しかし政府は、現在の贈与税非課税措置が「家族内の資産移転」を助長し所得格差を広げることにつながるため、「機会平等確保の観点」から贈与と相続税の一体改革が必要と指摘しています(※3)。
 
他方で、同じく政府内では教育資金贈与の恒久化を求める声もあり(※4)、政府内でもさまざまな意見があることが伺えます。
 
そこへ来たコロナ禍。大きな打撃を受けた日本の財政や私たちの暮らしを考えると、近い将来、贈与や相続税の大きな改革があっても不思議ではありません。現在、贈与を検討している方は、今後の税制の動きに注目しておくべきでしょう。
 

(出典および注釈)

(※1)(一社)大阪府宅地建物取引業協会「ご存じですか? 不動産広告の見方」
不動産の表示に関する公正競争規約第15条第21号に基づき、不動産広告では、建物面積は原則として壁の中心から測った壁芯面積で表示される。ただし、中古マンションは、原則として壁の内側から測った内法面積(=登記簿の面積)で表示される。
 

(※2)東京都福祉保健局「ベビーホテル、事業所内保育施設、院内保育施設、その他施設一覧」
東京都の例では、認可外保育施設の総数1115に対し、定員5人以下の数は48となっている(令和2年12月1日現在)。
 

(※3)内閣府(税制調査会)(答申)「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」P13

(※4)金融庁「平成31年度税制改正要望項目」P8

 
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。