更新日: 2021.03.02 その他相続

相続登記が義務化に?増える所有者不明の土地、何が問題なの?

執筆者 : 西山広高

相続登記が義務化に?増える所有者不明の土地、何が問題なの?
「所有者不明の土地が増えている」という話を聞かれたことのある方も多いでしょう。
 
「所有者不明」つまり、すでにその方が亡くなっていて現在の所有権者がわからない、登記簿に記載されている所有者と連絡がつかない、といった土地の面積は2016年の時点で九州本土の面積(約368万ヘクタール=3万6800平方キロメートル=日本の国土全体の約10%)を超える410万ヘクタールに達し、何らかの対策を打たなければ2040年には720万ヘクタールにも達すると予測されています。
 
所有者不明の土地がなぜ増えるのか、何が問題なのかと併せ、現在検討されている対策案を通じ相続登記の大切さについて考えます。

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西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

所有者不明の土地はなぜ増える?

不動産を取得したときには登記するのが一般的です。特に売買で不動産を取得した場合は、登記は正式に所有者になったことを第三者に主張できる根拠となります。
 
住宅ローンを組む場合には、金融機関から担保提供を求められます。金融機関は債務者からの返済が滞った場合にはその不動産を売却し、そこから資金を回収することができる権利を登記(=抵当権設定登記)します。
 
抵当権を設定するためには、不動産の所有者がその不動産に抵当権を設定することに同意していることが必要です。
 
このような手続きがあることから、売買の場合にはほとんどの場合、所有権移転登記を行いますが、売買以外の原因で所有権が移転した場合には移転登記が行われないケースがあります。その代表的なケースが「相続」です。
 
相続が発生、すなわちその土地の所有者が亡くなったとき、相続人同士での話し合いがつかず、不動産の継承者が決まらないということもあるでしょう。都市圏の不動産は価格も高く、その不動産が欲しいという人が複数いて折り合いがつかないこともあります。
 
一方、地方の不動産は相続しても使う予定がなく相続人間で押し付けあいになり、そのまま放置されてしまうこともあります。
 
所有者が亡くなったとき、遺言でその所有権を引き継ぐ人が指定されていれば、その人が引き継ぐことが多いでしょう。遺言書がない場合や、遺言書があったとしても相続人全員が遺言書とは違う遺産の分割方法を希望し、遺産分割協議が成立した場合には、その分割案で遺産を分けることもできます。
 
相続人同士でトラブルなく遺産分割が成立したとしても、当事者間では争いがないことから「そのうち登記すればよい」として、登記しないままにされてしまうことがあります。
 
相続による所有権移転登記の場合、遺産分割協議書に相続の対象である不動産の情報が漏れなく記載され、相続人全員が実印で押印し、なおかつその実印が本人のものであることを証明する「印鑑証明書」が必要になります。
 
遺産分割協議書に不備があったり、印鑑証明書がなかったりする場合などはその遺産分割協議書での相続登記ができず、改めてその当時の相続人全員の同意を得る必要なども出てきます。
 
相続人全員とすぐに連絡が取れ、スムーズに同意がとれればよいですが、時間の経過とともにその相続人の1人とでも連絡が取れなくなってしまうと、相続登記ができなくなります。当時の相続人のいずれかが亡くなってさらなる相続が発生すると、その相続人が権利者となりますが、その権利者の数が増えてしまい、全員の同意をとることはますます困難になります。
 
また、登記簿に記載される所有者情報は氏名と住所のみです。住所変更されて時間が経過し、移転先がわからなくなってしまった場合も所有者不明土地を生み、大きな原因になっています。
 
所有者不明の土地は、所有権移転登記や住所などの登記事項変更登記が義務ではなく、当事者も急ぐ必要がない結果、なんとなく後回しにされているものがあるほか、何年もの時間が経過した結果、相続登記をしようにもできないという事態も数多く発生しています。なかには、自分に権利がある土地があることを知らなかった、などというケースも発生しています。
 
登記には費用(登録免許税や司法書士報酬の支払いなど)もかかります。しかし、地方の土地はそもそも価格が安く、登記費用が割高になることから「わざわざ費用をかけて登記しなくてもよい」と考える人が少なくないことも登記が進まない一因になっています。
 

所有者不明の土地が増えることの問題点

所有者不明の土地が増えていることが、大きな問題として取り上げられるきっかけは「東日本大震災」でした。
 
東日本大震災では大規模な津波が発生し、海沿いを中心に大きな被害が出たことはご存じのとおりです。震災からの復興のために大きな堤防を作ったり、改めて土地の区画整理をして街の復興と震災・津波に強い街づくりを進めるために、国や自治体はその用地の買収などを行う必要がありました。
 
ところが、登記簿に記載されている不動産所有者と連絡が取れない事態が多発し、必要な復興事業がなかなか進められない状況になりました。
 
それ以前から、道路を作るなどの公共事業や、大規模な開発のための用地買収などの際にもこの問題はあったはずですが、改めて東日本大震災で所有者不明土地の増加が大きな問題としてクローズアップされることになりました。
 
このほかにも固定資産税などの課税の問題もあります。地方の土地などは評価額が低く課税されていない土地も少なくありません。登記が変更されていなくても運用上は市区町村税事務所が実質の所有者、居住者などに納付書を送るなどして対応しています。
 
しかし、空き家なども増えている現状を考えれば、いずれ所有者不明土地の納税義務者を特定することができなくなるでしょう。
 
所有者不明の土地が増えるとこのようなさまざまな問題があるほか、実際そうした土地の中には空き家や管理されていない土地も少なくないため、治安や環境の悪化につながる恐れもあります。
 
日本では所有権は非常に強い権利であるため、国や地方自治体といえどもその所有権を強制的に奪うことはできません。しかし、こうした問題が増えている中では、土地の有効な活用が進まず弊害も発生します。登記を義務化することは必要だろうと思います。
 

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現在検討されている対策

現在、法制審議会では「取得を知ってから3年以内に登記することを義務化し、違反した場合には過料を科す」「合わせて登記にかかる費用を減額する」という方向で話が進んでいるようです。また、「10年間届け出がなければ法定相続割合で相続されたものと見なす」という見当もされています。
 
しかしながら、実務の現場では、現在住んでいる家の登記がずいぶん昔に亡くなったご先祖の名義のままになっていて、当時の相続人の関係者と連絡が取れず相続登記ができないというケースもあります。このような場合には、相続発生当時にさかのぼって法定相続割合で共有になってしまうと、現在の所有者の権利が脅かされます。
 
遺産分割協議書が残っていれば、登記に必要な要件を満たしていなくても合意があったものと見なし、登記官の権限で登記できることとするなども検討すべきでしょう。遺産分割協議書がなくても〇年間争いなく占有していた場合には、正当な権利者と見なすとすることも検討すべきでしょう。登記官の権限強化なども、併せて検討する必要があります。
 
現在の検討では、新たに法制化し、その法律が施行されて以降に登記変更原因が発生した場合が対象とされていますが、いずれは法制化以前にさかのぼって登記を促し、所有者不明土地を減らすための施策を講じることになると考えられます。
 
所有権という強い権利に公的権限が介入することになるため、さまざまなケースを想定し、慎重な検討が必要になります。
 

まとめ

特に相続が発生したときの登記は、そのときには不都合はなくてものちに大きな問題になることがあります。相続人間、親族間でその当時は争いなく合意できたとしても、さらに時間がたったのちに争いの種になることもあります。
 
こうした争いのもとになりかねない状況を生まないためにも、相続が発生したときには相続登記までしっかり行い、次の世代への円滑な継承を完了することが、当事者だけでなく社会のためにも求められていることを認識しておく必要があるでしょう。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
 

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