更新日: 2023.03.16 相続税

「相続税」の納付 意外に多い「過払い」をどう防ぐか

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

「相続税」の納付 意外に多い「過払い」をどう防ぐか
相続税の納税は、一生のうちに何度も遭遇するものではありません。土地だけでなく、現預金、株式などもかなりあると、その申告と納付は一大作業になります。
 
経験したことがない作業のために、一歩間違えると相続税の「過払い」となるケースもみられます。

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黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

税務署は「過払い」でも返金はしない

相続税は亡くなった方が所有していた資産を、相続人同士で話し合いのうえ分割後に、それぞれ相続した方が自分の分を計算し、納付します。相続人が多い、トラブルを抱えているなどの事情で、遺産分割に多くの時間を費やすと、納付の手続きに集中できなくなります。仮に1億円を超える財産を相続した場合は、個人で相続税の計算をするのは大変で、多くは税理士などの専門家に作業を依頼します。
 
税理士に依頼する際に、専門知識があるので「誰に依頼しても同じ」と、考えるかもしれません。しかし、専門家である税理士に依頼しても、相続税の過少申告や過払い申告が、実際にはあります。特に相続税制があまり得意でない税理士に依頼すると、そのような事態になるかもしれません。
 
もし相続税を過少に申告すると、税務署のチェックが入り、修正申告を求められ追徴課税されてしまいます。しかし反対に、相続税の「過払い」申告になっていたとしても、税務署が再計算をして払い過ぎた事実を通知したり、返金したりはしてくれません。そのため「過払い」に気づかずに過ごしてしまうことになります。
 

相続税のもつ特性

相続税は、他の税とは少し異なる性質をもっています。通常、所得税や消費税などの納付時期は春先に集中しています。ところが相続税の納付期限は1年中あるため、税務署のチェックが入りやすい税金です。
 
納税期限が相続発生後10ヶ月以内と決まっており、分割協議の時間が長くなると、短期間に申告書を作成し納税しなければなりません。類似の贈与税が、翌年の春に納付と時期が決まっていることと比べても違いがあります。
 
さらに納税の件数も、所得税や消費税などと比較すると少数です。しかし1件あたりの納税金額が億単位となることもあり、税務署の過少申告に対する厳しい目が注がれています。税務調査も、季節を限定することなく1年中実施できる利点があり、目をつけやすい税金かもしれません。
 
しかし反対に、過払いの申告があってもそのまま受理され、納付した側から手間のかかる「過払い請求」をしないかぎり、納付金は戻ってはきません。
 

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過払いを防止するための注意点

では、なぜ相続税の過払いが起こってしまうのでしょうか。ここでは、主に2つの要因を挙げておきます。
 

<第1の要因>

手堅い税額で申告すれば、税務調査や追徴課税を受けないという「安全志向」が納税側に働くことです。納税者自身もサポートする税理士も、税務調査により過少申告を指摘され、多額の追徴課税を受けることは、ぜひとも避けたい事態です。税務調査を受けないために、多少疑問点があっても、安全第一を優先して申告する傾向がみられます。
 
中でも現預金や株式などの評価より、土地の評価が難題です。土地は資産価値も高く相続税の納税額も高額なのですが、評価減も数多く認められています。特に専門の税理士であっても、安全志向が強く働きます。土地に関しては、小規模宅地の減額特例の適用や、不整形地や急な傾斜地など詳細にわたり評価減となるケースがあり、相続税の減額余地があります。
 
しかし減額特例を過大に織り込んだ申告書になることを恐れ、結果として「過払い」となる申告書を作成してしまうのです。税理士に依頼する際には、土地の減額特例の確認などを、注意喚起することが大切です。
 

<第2の要因>

相続税に精通した税理士が少ないことです。依頼する側は「税理士に任せさえすれば安心!」と当然考えますが、税理士が受ける業務は、主に所得税、法人税、消費税といった税に関するもの中心で、これらに精通した税理士が多いのです。相続税制や土地評価を専門とする税理士は少数派で、ましてや高額美術品の査定などは苦手な傾向にあります。
 
特に春先、他の税金の確定申告時期と重なると、多忙がゆえに細かいポイントなどに目が届かなくなる可能性があります。相続した土地は多種多様で、土地の減額特例など具体的な項目について細かく調べる余裕がなく、実際の土地を見ないなど実態を十分に確認しないまま、申告書を作成してしまうこともあり得ます。
 
しかし相続税の申告は、金額が多くなるため、専門家のサポートなしに申告書を作成することは難しいと思います。特に土地が多く含まれている相続については、相続発生以前からご自身で土地評価について調べ、疑問点があれば依頼した税理士に率直に問いかけることが大切です。そのことで税理士の作業も緻密になり、過払い申告書の作成を防ぐことができるかもしれません。
 
「すべてお任せ」の姿勢では後悔するかもしれませんので留意しましょう。
 

過払いに気づいた際の対応

もし相続税の納付後に過払い申告と思われる場合は、過払い請求の手続きができます。実際に、土地評価の減額要因を考慮できる土地を相続したケースによくあります。過払い請求の期限は5年10ヶ月以内ですが、そのためにそろえる書類はかなりの分量です。  
 
具体的には、「更生のための請求書」「証明用の添付書類」を準備するなど、非常に手間と時間がかります。途中で挫折してしまう方も出るかもしれません。通常は、最初の提出に関わった方とは異なる第三者の税理士に依頼し、必要書類を税務署に提出します。審査で認められれば、還付金が返却されます。
 
現在では、土地を相続し相続税を納税する方に向けて、実際の申告書が過払いの内容になるかを、無料で検索できるサービスもあります。すでに相続税を納付した方でも、利用してみてもよいかと思われます。
 
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。