更新日: 2023.02.24 その他保険

会社員でありながら個人事業主、会社を退職したら雇用保険の掛け損?

執筆者 : 林智慮

会社員でありながら個人事業主、会社を退職したら雇用保険の掛け損?
会社を退職後、求職中の生活を支えるのが、雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)です。しかし、退職後に求職活動をされる方ばかりではありません。退職を機に開業を考えている場合や、会社員の傍ら個人事業主である場合もあります。では、その場合、基本手当はどうなるのでしょうか。
林智慮

執筆者:林智慮(はやし ちりよ)

CFP(R)認定者

確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。

退職すれは誰でももらえる?

まず、基本手当は、退職すれば誰でも受給できるものではないことを知っておきましょう。受け取るためには以下の要件を満たさなければなりません。
 

○離職前2年間に12ヶ月以上の雇用保険の被保険者期間があること(倒産・解雇などのやむを得ない場合は、離職前1年間に被保険者期間が6ヶ月以上)
○雇用の予約や就職が内定や決定していない失業の状態であること

 
「失業」とは、以下の条件をすべて満たす場合をいいます。
 

●就職しようとする積極的な意思があること
●いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること
●積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと

 
(厚生労働省「Q&A〜労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)〜」より引用)
 
働く意思があり、能力があるのに働けない状態をいいます。よって、開業すると職に就くことになり、失業になりません。すでに開業している場合は職業に就いているので、会社を退職しても失業にはなりません。
 

開業も再就職手当の対象に

また、手当を受け取る流れを知っておきましょう。
 
離職して、ハローワークへ必要書類を提出し、受給資格の確認・決定がされます。その後、1週間の「待機期間」があります。自己都合であるか倒産やリストラであるか理由は関係なくすべての人に該当します。
 
待機期間の後、自己都合での離職の場合は、さらに2ヶ月間(過去5年間に2回以上の自己都合離職の場合は3ヶ月)、懲戒解雇の場合はさらに3ヶ月間の「給付制限」があります。
 
待機期間や給付制限の後、失業の認定を受けてやっと受給開始です。4週間ごとに認定日が指定されます。認定日では、就労したかどうか、求職活動の実績等を確認されて、失業の認定がされます。
 
受け取れる期間は、離職日の翌日から1年間。給付日数は、雇用保険の被保険者期間、失業の理由や年齢により異なりますが、一般の離職者(障害者等の「就職困難者」、倒産や解雇等の「特定受給資格者」以外の者)の場合、雇用保険の被保険者期間が10年未満は90日、10年以上20年未満は120日、20年以上は150日です。
 
基本手当の給付率は45~80%で賃金と年齢により異なりますが、例えば60歳未満の場合、月額15万円程の給料では月額11万円程度の支給額、月額30万円程の給料の場合は16万5000円程度の支給額が目安です。
 
雇用保険からの給付は基本手当だけではありません。早期の再就職を後押しするため、待機期間満了後、基本手当の所定給付日数を3分の1以上残して再就職した場合は基本手当の60%、3分の2以上の場合は基本手当の70%の再就職手当が支給されます。
 
また、基本手当の受給資格があり、再就職手当の支給対象とならない常用雇用等以外で就業した場合は、基本手当の残日数が3分の1かつ45日以上あり一定の要件に該当する場合に、就業手当が支給されます。
 
自己都合での退職は、待機期間から1ヶ月間はハローワークや職業紹介事業者により就職した場合に再就職手当を受け取れますが、以降はそれ以外での就職も対象です。自営業を開始した場合も、待機期間1ヶ月後より対象となります。
 
開業をすると基本手当の受給対象でなくなりますが、要件を満たせば再就職手当の対象になるのです。
 

雇用保険受給期間の特例

では、会社員をしながら開業していた場合は、会社を退職しても雇用保険からは何ももらえないのでしょうか。
 
2022年7月1日から、開業等して事業を行っている期間等は、最大3年間、受給期間に算入しないという特例が新設されました。これにより、2022年7月1日以降に会社を退職して事業に専念後、その事業を休廃業する場合、雇用保険受給期間の特例の対象となります。
 
本来、受給期間は離職日の翌日より1年間ですが、特例申請により起業から廃業までの期間(最大3年間)とで4年間まで延長されるのです。期間内に廃業して失業状態になった時は、基本手当を受けられます。
 
特例申請は、次の要件をすべて満たす事業であることが必要です。
 

●事業の実施期間が30日以上であること

●「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれから起算して30日を経過する日が受給期間の末日以前であること

●当該事業について、就業手当や再就職手当の支給を受けていないこと

●当該事業により自立することができないと認められる事業ではないこと(雇用保険の事業主となっている場合、登記事項証明書や開業届などで事業の開始・内容・実在が確認できる場合)

●離職日の翌日以降に開始した事業であること(離職日以前に開業し、離職日の翌日以降にその事業に専念する場合を含む)

 
(厚生労働省「離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」より引用)
 
特例申請は、事業の開始から2ヶ月以内に行いますが、就業手当や再就職手当を申請して不支給となった場合は、2ヶ月を超えても申請ができます。
 
詳細はお近くのハローワークへおたずねください。
 

出典

厚生労働省 Q&A〜労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)〜

厚生労働省 離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます

厚生労働省 再就職手当のご案内

 
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者

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