更新日: 2019.02.05 インタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑫

投資におけるリスクは危険を冒すことではない。「リスクを取らないリスク」による将来の損失を知ることが大切

Interview Guest : 堀古英司(ホリコ・キャピタル・マネジメント最高運用責任者)

執筆者 : 柴沼直美 / Photo : 新美勝

Interview Guest

堀古英司(ホリコ・キャピタル・マネジメント最高運用責任者)

堀古英司(ホリコ・キャピタル・マネジメント最高運用責任者)

ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメント最高運用責任者。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)為替資金部ドル・円ディーラー、部長代理、同ニューヨーク支店バイス・プレジデントを歴任した後、ニューヨークにてファンドマネジャーとしてヘッジファンドの運用に携わる。
 
関西学院大学経済学部卒、ニューヨーク大学大学院(ビジネススクール)にて金融工学を専攻、経営学修士(MBA)。2006年、アメリカで最も優れたアジア系ビジネスマン50人の1人として、アジア・アメリカ・ビジネス賞受賞。テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、テレビやラジオに多数出演。著書に『リスクを取らないリスク』(クロスメディア・パブリッシング)。楽天証券「新ホリコ・フォーカス・ファンド」の運用を担当。
 
ホリコ・キャピタル・マネジメント
https://www.horikocapital.com

投資におけるリスクは危険を冒すことではない。「リスクを取らないリスク」による将来の損失を知ることが大切
テレビの経済番組などのわかりやすい解説でお馴染のホリコ・キャピタル・マネジメント社長の堀古英司さん。昨今では、日本でも資産運用の必要性が叫ばれるようになりましたが、堀古さんは20年近くも前にその流れを読み取り、世界金融の中心であるNYのウォール街で、自らヘッジファンドを立ち上げました。
 
堀古さんの資産運用の考え方、投資哲学や今後の経済の見通しなどについて、ファイナンシャルプランナーの柴沼直美さんがお話を聞きました。
 
柴沼直美

執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)

CFP(R)認定者

大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
http://www.caripri.com

新美勝

Photo:新美勝(にいみ まさる)

フリーランス・フォトグラファー

 

 

投資対象を測る基準は成長性とコーポレート・ガバナンス

——2000年に米国でヘッジファンドを立ち上げられ、バリュー投資(※1)で運用を続けられていますが、現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
 
大学卒業後、外国為替に強い大手銀行に就職し、為替ディーラーとして99年まで勤務していました。その間、93年にニューヨーク支店に転勤になりました。当時はコンプライアンスが今ほど厳格でなく、金融機関に勤務しながら自分でも(もちろん合法的に)株式に投資していました。
 
そんな中、99年に欧州での通貨統合が実現することになり、為替ディーラーという職業市場の先行きが怪しくなってきたこともあり、独立を思い立ちました。独立にあたって、運用対象を自分でも経験していた「株」にしようと考えました。株式市場は銘柄数も多く、株価はさまざまな情報で形成されることから、チャンスも多いと思ったのです。
 
拠点をニューヨークにしたのは、ウォール街が金融業界における世界の中心地であることやヘッジファンドを日本で設立することは事実上不可能であったことからです。さらに、市場の成長性とコーポレート・ガバナンス(※2)の観点から魅力的であると考えました。
 
市場の成長性については、人口動態が決め手となりました。生産性の上昇も然りですが、人口が増加していることは、米国に投資妙味があると判断する大きな理由です。コーポレート・ガバナンスについてですが、企業経営のわかりやすさは、投資にあたっての大きな魅力になります。日本でも最近はコーポレート・ガバナンスの重要性について論じられていますが、まだまだ米国に対して大きく遅れをとっていると言わざるを得ません。
 
米国では、「企業経営は株主の利益のために行われるべきである」という考え方が徹底しており、企業経営の透明性が高く、「株主が経営に対して意見を言う」スタンスが定着しています。例えば、投資家として、ホテル業の成長に将来性を感じて投資したはずなのに、ゴルフ場運営が好調で軸足がそちらに移ってしまった、といった投資家不在の企業経営に株主として意見を言わず、そのまま追従するということは米国では考えられません。株主主体であるという点で投資環境が整っている米国が、自ずから運用の中心となっています。
 
※1 バリュー投資=割安な株を見極めて投資し、値上がりを待つ投資法。
※2 コーポレート・ガバナンス=企業統治と訳される。企業の健全な活動を維持するため、ステークホルダー(企業経営にかかわる利害関係者=株主、従業員、消費者、取引先、地域社会等)により企業を統制し、監視する仕組み。
 

「おかね」をタブー視する日本に受け継がれる美徳の弊害

——実際に米国で活動されていて、「おかね」に関する考え方に国民性の違いなどを実感されますか?
 
米国、特にウォール街と日本人の「おかね」に対する考え方の違いは、宗教も含め長い歴史の中で少しずつ形成されてきたのだと思います。
 
ウォール街で活躍している人の中にはユダヤ系民族が多く、歴史的に厳しい経験をしています。そこには「有事の時に持って逃げられるもの=おかね」を大事にするという考え方が浸透したのではと考えています。そのため、幼いころから「おかね」に関する教育も徹底しています。他方日本では儒教の教えが脈々と受け継がれ、士農工商という厳格な身分制度のもと、「主君のために(おかねという代償を要求するのではなく)骨身を削って仕える」「おかねのことを口にするのは卑しい」という考え方が刷り込まれてきていると言われています。
 
しかしそうやって「おかねのことを口にしない」「おかねについて話すことをタブー視する」といった美徳が、弊害をもたらしている面もあると思うんです。現在、経済活動の主役ともいえる40代働き盛りの男性ですら、胡散臭い儲け話で自分の資産を棄損してしまうような詐欺被害に遭うなど、おかねに苦労している話をよく耳にします。
 
「おかねについて知っているけれど口にしない」と「おかねのことを知らないから口にしない」というのは全く違います。もっとお金について勉強し、おかねについての知識を身につけてほしいと感じています。最近、中学生や高校生の間でも「おかねの教育」を実施しているという話を聞きますが、とても良いことだと思います。
 
——日本人は「おかね」についてまだまだ無防備で無知と言えるかもしれませんが、最近変わってきたと感じられることはありますか?
一時期、村上ファンドの村上世彰氏や堀江貴文氏など、「モノ言う投資家」が現れてきた時は「日本も変わるかな」と期待しました。結局、あの盛り上がりは一時で終わってしまいましたが、「投資家主体」というスタンスに向けての流れは継続してほしかったと思っています。規制が厳しすぎることや、世の中の流れはメディアが報道するポイントに大きく左右されることもあるでしょう。経済の専門家と金融の専門家は違うというところも日本全体でもっと感じてほしいと思います。
 

リスクとは価額の上下のことであり、危険を冒すことではない

——運用されているポートフォリオについての考え方をお聞かせください。特に最近は、パッシブ運用がアクティブ運用のパフォーマンスを凌駕している(※3)という報道も目にしますが、この報道についてのお考えもお聞かせください。
我々のファンドはアクティブ運用です。具体的にはSpecial Situation Value(「スペシャル・シチュエーション・バリュー」企業の内在的価値・市場価値や将来性を鑑みて、現在割安に放置されているため大きく上昇することが見込まれる銘柄に投資する方法)という投資哲学に基づいて運用していますが、長期では極めて好調な結果を実現しています。
 
リスクを取る覚悟があることと、長期で預けるというのであれば、我々のファンドにお預けいただければ、資産を成長させることができると確信しています。ただし、注意していただきたいのは、「リスク=価額の上下」のことで「リスク≠危険を冒す」ではないということです。金融資産ですから、価額が上下に動くのは当然のことです。このことを理解していただいたうえで長期間保有するのであれば、価額の上下のブレを平準化することはできますから、資産を成長させることは十分可能であるということを強調したいと思います。
 
昨今のパッシブ運用優位論についてですが、一般にリセッション(景気後退局面)ではアクティブ運用の成績はパッシブ運用に劣後しますが、通常そう長く続くものではありません。ところが今回は金融危機を経て経済は立ち直ってきているものの、投資家の「リスクを取る」というスタンスがまだ金融危機以前の状態までには戻っていないため、一時的にパッシブが優位になっているだけです。当然のことながら、時間の経過と共に再びアクティブが優位になるでしょう。「時間軸を長く取る」投資スタンスが重要であることの理由がここにあります。一般的に個人投資家の間では短期で結果を出そうとする傾向が強いのですが、長く保有するほどよい結果をもたらすことは認識すべきだと思います。
 
※3 アクティブ運用とパッシブ運用=アクティブ運用は調査結果や予測を基にして、市場の平均的な収益率を上回る運用成果をあげようとする運用スタイル。インデックスファンドに代表される日経225などの市場と同じような収益を獲得する、パッシブ運用のスタイルとは対極の手法。パッシブ運用については、調査にかかるコストを抑えられることもメリットとしてとらえる考え方もある。
 
——ご著書の『リスクを取らないリスク』というタイトルには、堀古さんのお考えが集約されていますね。
特に日本人はリスクに対して敏感だと思います。最近「高いリターン(収益)を獲得できます」というよりも「リスク(本来は価額のブレ幅のことですが、日本人は資産を失うという意味で解釈する)ゼロの商品です」といった謳い文句を目にすることがありますが、まさに日本人の「リスクを冒したくない」という気持ちには訴求力が大きいのでしょう。
 
私の仕事は、クライアントにリスク(価額の変動幅という投資における本当の意味)を取ってもらうことでもあります。一定の条件の下ではリスクの大きいものほどリターン(収益)が大きく、リスクの小さいものほどリターンも小さいということを、特に日本の個人投資家の皆さんには理解していただきたいですね。リスクを取らないという選択をした時点で、将来のリターンも小さくなることが確定してしまいます。「リスクを取ること」により考えられるデメリットと同時に、「リスクを取らないリスク」による将来の損失を知ることが大切だと思います。
 

リスクを取れる投資家が増えれば、国全体の経済が成長する

——今後の世界経済の見通しについてお聞かせください。
 
世界的に、リスクを取れない投資家が増えていると思いますが、共和党が目指していること(※4)が実現できればリスクを取れる投資家が増え、企業の内在価値である生産性の上昇を株主として後押しし、ひいては国全体の経済成長の上昇が期待できると思います。メディアによるトランプ大統領への評価はあまりに近視眼的で、時に穿った見方でセンセーショナルに報道され、行き過ぎではないかと感じることもあります。我々はそういった報道を一方的に鵜呑みにするのではなく、政策運営担当者は「何を目指しているのか」をきちんと理解し、「どのような政策運営を行おうとしているのか」を冷静に見極めなければならないと思います。
 
最近はフィンテックという言葉もよく目にするようになりました。ロボットによって運用できるところはロボットにまかせ、その結果生産性が上昇するのであれば素晴らしいことだと思います。そこで人間の出番がなくなるというのではなく、人間はもっと高付加価値を生み出す仕事を担うべきです。
 
日本も柔軟に外から新しい風を受け入れ、固定的な考え方から解放され、経済が大きく変わることを期待しています。
 
※4 共和党が目指していること=規制緩和・減税によって自由度と裁量の幅を上げ、活性化された民間の力によって経済を成長させることを目指している。

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑫

  • 1: 投資におけるリスクは危険を冒すことではない。「リスクを取らないリスク」による将来の損失を知ることが大切