更新日: 2019.08.19 その他暮らし

<身近な電気の話>どう違うの? 直流と交流 

執筆者 : 藤森禮一郎

<身近な電気の話>どう違うの? 直流と交流 
私たちが身近に使っている電気には2つの種類あります。直流(DC)と交流(AC)です。目に見えない商品ですから、その違いは実感できませんね。
藤森禮一郎

執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

直流と交流の違いは

■直流
直流とは、電線の中を流れる電気の流れの向きや大きさ(電流)と流れの勢い(電圧)がいつも一定な電気のことです。
 
懐中電灯を光らせるときに流れている電気は直流、常に電気は一方通行で流れています。乾電池やバッテリーには「+」「-」の表示がありますが、あれは電気の流れが一定であることを示しています。
 
■交流
交流とは、電気の流れる電流の向きと電圧が周期的に変化しながら流れている電気のことです。電線の中を流れる電気は一定のリズム(周期)で流れの向きを交互に変えながら流れていています。
 
家庭のコンセントからの電気や照明に使われる電気は交流です。プラグをどちら向きに変えてコンセントに差し込んでも不自由なく使えます。これが交流の特徴です。
交流の電気には実は2種類あります。
 
50Hz(ヘルツ)と60Hzです。紛らわしいですね。詳しくは改めて説明しますが、単位のHzとは周波数のことで、電線の中をプラスとマイナスが1秒間に何回入れ替わるか、その回数を表しています。
 

パソコンや通信機器、太陽光発電などは直流

家庭内で使用している家電製品は冷蔵庫、エアコン、洗濯機など大型家電はほとんどが交流ですが、パソコンや通信機器、電子機器など小型の家電製品は直流です。交流のままでは使用できません。
 
このためACアダプターと呼ぶ付属の変換装置や機器に内蔵する装置で直流に変換し、電圧も100Vの電圧では過大ですから5~24V程度に電圧を落として使っています。
 
身近な存在になってきた太陽光発電は直流で発電しています。そのまま使える機器がありますが交流に変換しています。
 
電力会社の交流の系統電力と接続しているので、そのままでは家庭では使えないし、電力会社に売電することもできません。系統電力と接続できるよう変換装調整装置(パワーコンディショナー)を使って交・直変換し電圧と周波数を調整して品質を合わせています。
 

電気がものを動かす力=動力に変わる

ところで直流と交流の話題になると小学校の理科の授業で豆電球と乾電池を使った実験を思い出しますね。豆電球についている電線の両端を乾電池のプラスとマイナスの極に押し当てると豆電球がパッと明るく光りました。
 
電気が光に変わることを学習しました。次は乾電池とモーターの実験です。やはり電線の両端を電池に押し当てるとモーターは勢いよく回り出しました。電気がものを動かす力=動力に変わることを学びました。エネルギーの問題を考える上ではとても重要なポイントですね。
 

電力は、高度成長期には「産業の米」、今は「ライフライン」と呼ばれる

百数十年前、電気事業が生まれたころは、蒸気機関が全盛で電気は人々に安全で安心な「灯(あかり)」を提供する文明の利器として重宝されていました。
 
次第にガス灯に代わって闇夜を照らす電灯(ライト)が普及していきました。時代が進んで20世紀に入ると、産業用の動力として電気盛んに使われるようになり、新しい産業が次々と起り工業化が進み第二次産業革命をもたらしました。
 
日本では1970年代、経済の高度成長期には電力のことを「産業のコメ」と呼んでいました。21世紀に入ると、電力利用が多様化して人々の生活に深く入り込んで、最近では人々の暮らしを守る「ライフライン」と呼ばれるようになりましたね。医療や介護、福祉の分野では欠かせなくなりましたね。
 
電気事業者をかつての電灯会社や配電会社から電力会社と呼ぶようになったのも電気の使われ方の変化を映し出しているのかもしれませんね。
 

電圧を上げたり下げたりする変圧は交流電気の得意技

工場やオフィスで使うコンピューターや情報・通信機器、家庭で使う電化製品の多くは交流を直流に変換して使っているなら、いっそのこと発電所からすべての電気を直流で送電すれば、という声も聞こえてきますが、そう簡単なことではありません。
 
世界中どこの国・地域でも張り巡らされた電力ネットワークはすべて交流の電気です。
 
交流送電には電線が3本必要ですが直流送電なら2本で済みます。機器を使う段階で直流に変換しているのですから最初から直流で送電すれば変換の手間も省けて、経済的にも安上がりではと思います。しかし専門家に伺うと、直流送電は高電圧・大量送電には不向きで、運転や保守に交流送電以上にコストがかかってしまうそうです。例えば、直流電気の電圧を上げたり下げたりする場合は、まず直流から交流に変換して電圧を下げます。
 
そして直流を交流に再変換して送電します。これではかえって高コストになってしまいます。その点、電圧を上げたり下げたりする変圧は交流電気の得意技であり交流送電の最大のメリットです。また、送電中の電圧や周波数の変化を検出しやすく大量の電気を遠くまで安定して送電するには交流の方が優れているのです。
 
でも物事には例外があります。わが国でも直流技術が電力ネットワークの中で利用されています。
 

周波数の違う東日本と西日本を繋ぐ「周波数変換装置」

日本では静岡県の富士川を境にして東側が50Hz地域で西側が60Hz地域です。そこで周波数が異なる東日本と西日本の電気をつなぐため、周波数変換施設で交流を直流に変換して連携しています。
 
周波数変換装置はJパワーの佐久間周波数変換所(浜松市天竜区)、東京電力の新信濃変電所(長野県朝日村)、中部電力の東清水変電所(静岡市清水区)の3施設があります。ご存知でしたか。
 
その他、北海道と本州を結ぶ「北本連系線」と四国と本州を結ぶ「本四連系線」は海底ケーブルで送電していますが、ここでは交流を潮流に変換し送電しています。直流送電が高電圧海底ケーブルに向いているからです。
 
直流の得意な技術を生かして使っているのです。交流のネットワークにところどころ直流を挟むと、いざ事故が発生した際に、事故波及を局所化できるメリットもあります。
 

変圧器は高品質の電気を供給する重要なツール

発電所から送り出す電気は通常数十万ボルトの超高圧ですが、送電途中でいくつかの変電所を経由し16万V、6万V、6000Vへと降圧していきます。最後は配電線の電柱に据え付けられているバケツのような形の変圧器で使いやすい200・100Vに下げて供給しています。
 
マンションなど高層の集合住宅で超高層ビルの場合は6000Vの高圧で受電し、地下室や途中階に設置している変圧器で各家庭に200・100Vの電気を供給しています。
 
高品質の電気とは電圧と周波数が安定していることです。変圧器は消費者の求めに応じた電圧に調整し高品質の電気を供給する重要なツールです。交流の電気が圧倒的に電力ネットワークを支配していまも発展し続けています。
 
半面、発電の分野では太陽光や燃料電池が実用化され、利用分野ではICT、AI技術の進歩により直流技術がますます広がってきています。直流と交流は共存共栄ですね。