更新日: 2019.01.08 その他暮らし

身近な電気の話 電気自動車は、古い?新しい?

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話  電気自動車は、古い?新しい?
電気自動車は「これから普及していく次世代の自動車」だと思っている人が多いと思いますが、実は、その歴史は古いのです。いつか来た道のような気がしています。およそ100年ぶりに主役復活を目指す電気自動車の技術開発は、いま猛スピードで進んでいます。そんな中、究極の電気自動車を目指して、画期的な技術がこのほど日本で実証されました。車輪に内蔵されたモーター(インホイールモーター)に走行中の道路からワイアレス直接給電するという夢の技術の走行実験に日本の大学と企業が世界で初めて成功しました。
藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで電気自動車を本格導入

 

いくつかある次世代自動車の中で、電気自動車(EV、PHV)はCO2排出削減効果が大きく、災害時には非常用電源として活用できるなどから、従来のガソリン車にはない新しい価値が期待されるクルマです。東京都は2020年の東京オリンピック・パラリンピックで電気自動車を本格的に導入することにしています。街中に電気自動車が走っているのをよく見かけるようになりました。「パリ協定」をキッカケに世界国々が相次いで電気自動車に大きく舵を切り足並みがそろってきました。

政府も電気自動車の実用化に本腰を入れています。「日本再興戦略改定2015」(2016年閣議決定)の中で、「2030年までに新車販売における次世代自動車の割合を5割から7割とすることを目標とする」ことにし、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)については20~30%を目標にしています。この目標は政府のエネルギー基本計画に組み入れているほか、CO2削減を目指す国際的枠組み「パリ協定」の実現に向けた国際公約にも掲げています。

 

本格的電気自動車の登場までにはたくさんの課題も

 

電気自動車に取り組んできた日・米とは距離を置いてディーゼル車開発に軸足を置いてきたドイツも、フォルクスワーゲンによるディーゼルエンジンの不正プログラム問題で大きなダメージを受け販売不振が続き今年の春、電気自動車へと舵を切りました。フランス、イギリスが続いています。巨大市場として期待される中国も大気汚染対策として電気自動車に大きな期待を寄せています。大きな潮目の変化が市場には見られます。

そうはいってもガソリン車をしのぐ本格的電気自動車の登場までにはたくさんの課題もあります。例えば航続距離、コスト、電池寿命、充電インフラの整備―などです。この中で最大のテーマの航続距離問題を解決する手段として期待されているのが「ワイアレス給電システム」です。

東京大学大学院、東洋電機製造、日本精工による研究グループがこのほど走行実験に成功した「走行中給電システム」は、道路を走行する電気自動車のインホイール(車輪内蔵)モーターに直接ワイアレス給電する画期的な技術です。道路から車体に給電するワイアレス給電はほぼ実証されていますが、独立したインホイールモーターに路上から走行中に直接ワイアレス給電する技術実証は世界で初めてです。これは朗報です。完全なワイアレス化が実現したことにより従来法に比べ給電効率が向上するだけでなく車体とモーター間のケーブル切断リスクもなくなるということです。

 

新しい電気自動車に期待は膨らむ

 

実用化には、高性能のリチウムイオンキャパシタ〈ワイアレス受電装置〉の開発と内蔵法、インホイールモーター4輪を制御する高度なエネルギーマネジメント技術などが必要ですから私たちが運転できるようになるまでにはもう少し時間が必要です。ワイアレス給電の電気自動車に当然、最新のAI技術が搭載されると思います。どんなコンセプトカーが登場してくるのでしょうか。楽しみですね、ワクワクします。
インフラ整備にも期待が集まります。高速道路や自動車道だけでなく主要な道路には車に電気を送る伝送装置が埋め込まれることになります。都市部の駐車場や集客力のあるスーパーやコンビニ、ホテル、ゴルフ場等などの駐車場では「ワイアレス給電可」が当たり前になるかも知れません。

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