更新日: 2019.01.11 その他暮らし

身近な電気の話 ㊲最近のデータを読む

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話 ㊲最近のデータを読む
電気事業が供給市場・小売市場ともに全面自由化され、電力取引が複雑になってきました。時代とともに電力の使われ方、供給の仕方にも変化が見られます。
 
電力需給に関する需要、供給、気象など広範なデータが提供されていますので、このデータを読んで変化を先取りしてみませんか。
 

藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

1月の電力取引

電力・ガス取引監視委員会が発表した1月の取引報によると、総販売電力量は前年に比べて4.7%増えて825億2754万キロワット時、前月に比べても12.3%増えています。厳冬による暖房需要の増加によるものと思われます。
 
住宅や商店など、低圧部門の新電力も含めた販売電力に占める「自由料金」の割合は電灯が43.6%、電力が42.5%で前月に比べて微増でした。半分以上は従来からの規制料金が維持されていますが、料金メニューの切り替えは着実に進んでいます。
 
東電、関電など旧一般電気事業者の小売り部門である「みなし小売電気事業者」の、1キロワット時当たりの平均販売単価は16円88銭で、前年より93銭高でした。一方、新電力は1円25銭高の17円13銭でした。新電力に割高感が出てきました。
 
供給先事業者を変更するスイッチング件数は、1月単月では前月比6万769件増の37万7100件でした。スイッチング率は前月と横ばいの14.8%でした。
 
内訳を見てみると、みなし小売事業者から新電力が25万9367件(前月比2万6883件増)、逆に新電力からみなし小売事業者が4万2079件(前月比2万9698件増)、新電力からほかの新電力が7万5654件(前月比5万7945件増)でした。
 
みなし小売事業者の出入りはほぼ均衡していますが、新電力から新電力へのスイッチング率が高いですね。これは大東エナジー撤退の影響が大きかったのでは、と見られています。
 

低圧のスイッチング件が倍増 2年間で700万件突破

電力小売り全面自由化が始まって2年。電力・ガス取引監視委員会によると電気のスイッチング(供給先変更)の申込件数が3月末で709万6400件となりました。昨年の3月末が342万7900件でしたから、件数は倍増したことになります。
 
全国の契約件数に対する申込件数の割合は、前年度末5.48%から11.35%に拡大しました。
 
エリア別に見ると、申込件数の半分近くは東京エリアで占められています。申込比率も全国トップで15.2%、関西の14.8%、北海道の12.6%が続いています。逆に少ないのは沖縄の0.61%、中国の6.8%、東北の5.1%です。
 
今のところ、週に8万件ペースでスイッチングは続いているそうです。このペースはどこまで続くでしょうか。
 

冬季電力需給 ヒヤリハット

この冬は厳冬の影響で、電力需給にも少しだけ緊張が走りました。電力広域的運営推進機関(広域機関)がまとめた2017年冬季(昨年12月〜今年2月)の電力需給実績によると、厳冬による暖房需要の増加で電力需要が大きく伸びました。
 
電気事業者は10年に1度の厳冬を想定して計画を立てますが、全国10エリアの最大電力の合計値(送電端)は、想定を703万キロ上回りました。これは原発7基分に相当する規模です。
 
電力広域的運営推進機関では、気温の影響が492万kW、経済成長分238万kWと分析しています。
 
供給予備力については、火力発電所のトラブル、融雪による太陽光発電の出力不足などが重なり東京エリアで需給ピンチになりましたが、他社からの融通支援があり、停電の事態は回避できました。
 
安定供給上は最低限必要だとされている「3%供給予備力」を上回り、全国台では8.4%の供給予備力を確保できました。
 
ちなみに、東京エリアでは、緊急時の需要抑制策として、需要家の協力を得て行うデマンドレスポンス(DR)が発動され、27万kWの需要押し下げ効果があったそうです。
 

電源廃止で予備力に懸念?

電力広域的運営推進機関が、今後10年間の電力供給計画をまとめました。全国1125社の供給計画(発電所運営計画)を10年先の需要想定、需給バランスなどの面から評価しています。
 
それによると、18年度は適性予備率を確保できる見通しですが、新電力への顧客流出により旧一般電気事業者(東電、関電など地域の電力会社)で発電所の休廃止が進み、2021年8月の夏季ピーク時には、北海道と沖縄を除く全国8地域で、電力会社間の連系線を活用しても、適性予備率8%を下回る時間帯が出てくる可能性があると指摘しています。
 
2021年以降は、各社の電源リプレース(建て替え)や新設が進むので、全国の予備率は増加に向かうとのことです。
 
2021年の夏需給が心配されますが、広域機関では、供給力を確保する新しい市場の仕組みが出来上がること、計画には計上されていない設備があることなどから、大きな心配はないと説明しています。
 
今回の計画評価では夏場の昼間のピーク時の需給状況だけでなく、太陽光発電の出力が出なくなる夕方5時の予備力や、最少需要発生の夜間の予備率についても評価しています。
 
再生可能エネルギーの運用設備量が増えてくると、供給予備率に対する評価の仕方も変わってくるのです。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

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