公開日: 2019.08.16 老後

誰も指摘しない。「老後2000万」報告書の大きな問題提起

執筆者 : 村井英一

「老後に2000万円の貯蓄が必要」という部分がクローズアップされた金融庁の報告書は、参院選の争点にまでなりました。話が年金の問題に飛び火して、政治や経済、社会問題など、さまざまな議論を呼びました。
 
マスコミやネットでも、専門家から一般の人まで多くの人が、実にいろいろな問題を指摘しており、今でも話題に事欠きません。にもかかわらず、この報告書の提起している大きな問題点が、まったく取り上げられていないのです。
 
今回は、誰も指摘しない、この報告書の大きな問題提起について考えます。
 
 
村井英一

執筆者:

執筆者:村井英一(むらい えいいち)

国際公認投資アナリスト

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本証券アナリスト検定会員
大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、ライフプランニング、資産運用、住宅ローンなどを得意分野とする。近年は、ひきこもりや精神障害者家族の生活設計、高齢者介護の問題などに注力している。

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村井英一

執筆者:

執筆者:村井英一(むらい えいいち)

国際公認投資アナリスト

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本証券アナリスト検定会員
大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、ライフプランニング、資産運用、住宅ローンなどを得意分野とする。近年は、ひきこもりや精神障害者家族の生活設計、高齢者介護の問題などに注力している。

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高齢社会における資産形成と資産管理

話題となったこの報告書は、金融庁が設けている有識者会議の報告書です。「高齢社会における資産形成・管理」というタイトルで、金融業界や広く国民全般に対する問題提起といったものです。
 
その問題提起は、大きく分けると2つあり、1つは「高齢社会に備える資産形成」です。平均寿命が延びているのだから、年金では不足する部分を各自が準備しておく必要がある。それには、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産運用によって資産を形成することを勧めています。
 
もう1つは、「高齢期の資産管理」です。今後、高齢者が増えていきますから、高齢者が自身の財産をどのように管理していくのかが問題となります。
 
報告書では、個々人の理解力に応じた、きめ細やかな対応をするよう金融業界に求めています。また、成年後見制度を取り上げ、この制度における資産管理のあり方について、今後検討していく必要があるとしています。
 
この最後の部分が、今まで語られることのなかった、まったく新しい問題提起です。今後の検討次第では、大きな議論を呼ぶ可能性があります。具体的に見てみましょう。
 

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現行の成年後見制度に対する問題提起

成年後見制度は、認知症などで判断能力が衰えた人に代わって、成年後見人が資産の管理や介護サービスの契約などをする制度です。
 
成年後見人になる人は、家庭裁判所が選任します。子や配偶者などの親族が選ばれることもありますが、数百万円以上の資産がある場合などは、弁護士や司法書士、社会福祉士などの士業専門家が就任するケースが多くなっています。
 
成年後見人は、本人に代わって財産の管理をしますので、金融資産の手続きも成年後見人の判断でできます。しかし、基本的には預貯金などしか利用できないようになっており、原則として資産運用をすることは禁じられています。
 
財産管理の状況は裁判所への報告事項であり、本人(被後見人)の財産で新たな資産運用をしたことがわかれば、成年後見人を解任される可能性すらあります。
 
報告書ではこの点を問題視しており、「本人が望む場合には、認知・判断能力の低下・喪失後も資産運用を続けられることが望ましい」(※)としています。そして、アメリカでの「プルーデント・インベスタールール」の考え方を紹介しています。
 
プルーデント・インベスターとは、「思慮深い投資家」という意味で、アメリカでは成年後見制度における後見人も、資産管理に分散投資が義務付けられている、と説明しています。
 
成年後見人も資産運用をするべきであるというのは、今の成年後見制度の考え方を真っ向から否定する新たな考え方です。報告書ではさらに、今後関係省庁が連携して検討していくべきだと提言しています。
 

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資産運用に対する考え方の違い

今回、年金の問題ばかりに関心が向き、この点は話題にもなりませんでした。よって、成年後見制度を管轄している法務省や制度の関係者は、このようなことが書かれていると気付いていないのでしょう。
 
もし、金融庁が本当に法務省などに問題提起をしたら、大変な反発を受けるに違いありません。法曹関係者や福祉の世界では、「資産運用は悪」という考え方があるからです。
 
資産運用は資産を殖やしたい人がするものであり、自己責任で行う分には許されますが、成年後見人が他人である本人(被後見人)の財産で行うことは許されません。
 
ましてや運用をした結果、少しでも財産が減ってしまうようなことがあれば、成年後見人としての責務を果たしていないと考えられます。たとえ金利が付かなくても、財産額を減らさないことが重要なのです。
 
これに対して、金融庁の報告書を作成した有識者は、慎重な判断のもとであれば、資産運用を行うのは良いことであると考えています。預貯金の金利が今のまま変わらずに、インフレ率が上昇した場合、金額は減らなくても、実質的な財産価値が目減りしてしまう可能性があるからです。
 
もちろん、リスクの大きい、積極的な資産運用を推奨しているわけではありません。財産価値を低下させないための運用であれば、本人(被後見人)のためになるという考えです。
 
どちらの考え方が正しいとは、一概に言えません。成年後見制度を管轄しているのは法務省ですから、成年後見人による資産運用が認められる可能性は低いでしょう。ただ、「資産運用」というものの善悪、必要性を考えるためにも、一度は話題になってほしいと思います。
 
※金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
 
執筆者:村井英一
国際公認投資アナリスト
 



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