更新日: 2020.04.02 その他年金

年金受給率のモデルは「専業主婦世帯」、今や少数派に転落

執筆者 : 黒木達也

年金受給率のモデルは「専業主婦世帯」、今や少数派に転落
年金が現役時に比較してどの程度もらえるか、多くの人にとっての関心事です。とくに現役時代の収入と比較して、受け取る年金額の給付水準を表す「所得代替率」は、重要な指標です。
 
その場合、公表されるモデル世帯は専業主婦世帯です。示された所得代替率があまり低い数字だと、年金に対する不信感が今以上に高まり、年金制度自体を揺るがす事態になりかねません。

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黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

公表されるモデル世帯は「専業主婦世帯」

厚生労働省や日本年金機構などが示す年金受給率の見解は、年金受給の目安となる所得代替率は「2019年度で62%、将来的にも50%を下回らない」というものです。
 
この場合、あくまでモデルとなるのが「夫が会社員で妻が専業主婦」という世帯です。夫婦共働きの世帯や、単身者世帯の数値がどうなるかは、ほとんど公表されません。
 
共働き世帯は専業主婦世帯に比べ、平均の世帯収入が高くなると推測できます。実際に受け取る年金額では多くなると思われますが、所得代替率は低くなることが確実です。
 
もちろん専業主婦世帯が圧倒的に多いのであれば、このモデル世帯の公表だけで問題ないかもしれません。確かに1960年代には、専業主婦世帯の数が共働き世帯の約2倍はありましたが、1997年頃にその数は逆転し、2018年には共働き世帯が専業主婦世帯の約2倍となり、その差がさらに広がる傾向にあります。
 
世帯構造が変化しているにもかかわらず、専業主婦世帯を年金受給時のモデルとして議論することは、やや「時代遅れ」となりつつあります。

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専業主婦世帯の所得代替率は高い

なぜ、専業主婦世帯をモデルケースとして使われるのでしょうか。それは年金制度が最初に設計された時期が「夫が外で働き、妻が家庭を守る」という生活様式を基本としてスタートしたからにほかなりません。当時は、夫だけが仕事をする専業主婦世帯こそが、標準的な世帯像だったわけです。
 
しかし近年では、専業主婦世帯は完全に少数派に転落し、共働き世帯が圧倒的に多くなっており、さらに単身者世帯が男女とも増えています。
 
年金受給を議論する際のモデルが専業主婦世帯であり、しかも所得代替率の公表も、他の世帯については十分に行われていないことが問題となってきました。
 
一般的に見た所得代替率は、専業主婦世帯が最も高く、次いで共働き世帯で、最も低いのが単身者世帯になると推測できます。また現役時代の収入水準で見ると、収入が高い人ほど所得代替率は低く、収入が低い人ほど代替率は高くなります。
 
厚生労働省がモデルとして公表している「所得代替率が将来的にも50%を下回らない」という世帯は、現実には非常に少数派になり、標準モデルとは言い難くなってきました。各種の研究機関の試算によれば、とくに単身者世帯では、現在でも40%を下回っているといわれています。
 
政府は、受け取る年金額に対する不安感の増大と、年金制度自体への批判を避けるため、所得代替率のモデルとして提示するのは、専業主婦世帯としています。
 
しかし国民1人ひとりが、自分の受け取る年金の将来像を正しくイメージできるためにも、共働き世帯や単身者世帯の所得代替率も、公表することが望ましい時期に来ているといえます。

非正規雇用や自営業者の事情

会社員や公務員などの給与生活者ですら、現役時代の収入の50%を下回る可能性が現実です。これらの人たちは、原則厚生年金に加入していますが、非正規雇用の人や自営業者の人は、このモデルからも大きく外れています。
 
非正規雇用の人はここ20年で急速に増え、正規雇用者の約4割に達しています。一部の人は厚生年金に加入していますが、事業所の規模や勤続期間などの関係で、厚生年金に加入できない人もいます。さらに個人の事情で、国民年金の保険料を納められない人もいます。
 
こうした人たちは、就業が困難になった時点で、受け取れる年金額がまったくないか、あっても微々たる額で、年金制度の恩恵を十分に受けられません。
 
自営業者の場合は、厚生年金には加入せずに国民年金への加入になります。国民年金は基礎年金ともいわれる年金で、40年間納め満額受け取れたとしても、年額80万円ほどの金額です。
 
確かに自営業者は定年がなく、高齢になっても働くことは可能ですが、病気などにより就業が困難になったときには苦しい状態に直面します。厚生年金に加入していないために、年金はわずかです。こうした人たちの不安が増大すると、社会問題になるかもしれません。

重みを増す「自助努力」の必要性

それなりの年金を受給できる人であっても、将来的に年金減額の可能性が大きいわけですから、当然「自助努力」が必要になります。「厚生年金に加入していたので安心!」とは言えません。
 
年金は頼りにできない、と考えるべきです。定年も60歳ではなく、65歳や、場合によっては70歳まで延びています。給与水準は下がりますが、高齢者が就業できる機会は確実に広がりつつあります。
 
定年後も厚生年金加入職場で働くことができれば、その後に受け取る年金額も多くなります。就業が可能な人は、リタイアの時期を少しでも遅らせる努力はすべきです。
 
その一方で「人生100年時代」とも言われ、平均寿命も大きく延びています。70歳を迎えた男性は、90歳を超えて長生きする可能性も高まっています。女性の場合は、さらに長生きする人が多いのではないでしょうか。
 
そのため、年金だけに依存するのではなく、工夫した自助努力が必要な時代といえます。「老後資金は2000万円必要!」とのレポートは、かなり衝撃的でしたが、年金制度の問題点を突いた内容だったといえるかもしれません。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト