更新日: 2021.04.02 その他年金

年金繰り下げで決断する前に注意すべきこと その2 在職老齢年金

執筆者 : 浦上登

年金繰り下げで決断する前に注意すべきこと その2 在職老齢年金
その2では在職老齢年金をもらっている場合、年金繰り下げにどんな影響を与えるのかについて説明したいと思います。最近定年が延長され、年金受給年齢の65歳を超えても働き続ける方が増えています。
 
その場合、勤労収入が大きくなると年金が支給停止になりますが、支給停止が年金の繰り下げに影響を与えることになります。
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

在職老齢厚生年金とは? 支給停止の仕組み

厚生年金に加入しながら、すなわち、働きながら受け取る老齢厚生年金を在職老齢年金といいます。在職老齢年金は、一定以上の収入があると年金の一部または全部が支給停止になります。
 
65歳からの在職老齢厚生年金の調整の仕組みは以下のとおりです。
 

(1)老齢基礎年金は給料の額にかかわらず全額支給される。
 
(2)老齢厚生年金の基本月額(年金月額)と月収(総報酬月額相当額)の合計額が47万円に達するまでは、老齢厚生年金は全額支給される。
 
(3)老齢厚生年金の基本月額(年金月額)と月収(総報酬月額相当額)の合計額が47万円を超える場合は、その超過分の2分の1に相当する年金額が支給停止される。
 
支給停止額 = (年金月額+総報酬月額相当額-47万円)× 1/2 × 12ヶ月分

    

年金繰り下げと支給停止額の関係

年金の繰り下げをすると、1ヶ月繰り下げるごとに繰り下げ額の0.7%が増加します。それが年金繰り下げのメリットですが、支給停止額がある場合は、その分は繰り下げ額として計算されません。
ですから、支給停止額が多いほど、年金繰り下げのメリットは小さくなることになります。
 

支給停止額があるとどれだけ年金が減るか?

次の前提をベースに計算してみます。
 

前提

年金受給者 
2021年4月で65歳  65歳から69歳まで働く
65歳時点における月収   37万円(年収444万円)
65歳からの老齢厚生年金月額  20万円(年金年額 240万円)

 

ケース1:老齢厚生年金の支給開始年齢を65歳から70歳に繰り下げない場合

A. 65歳から69歳までの年間収入計
(1) 65歳から69歳までの年収  444万円
(2) 65歳から69歳までの厚生年金年額 
本来の年金受給月額 20万円
支給停止月額 (20+37-47)×1/2=5万円
実際の年金受給月額 20-5=15万円
   65歳から69歳までの厚生年金年額 15万円×12ヶ月=180万円
 
65歳から69歳までの年間収入計 444万円+180万円=624万円
 
B. 70歳以降の年金年間収入
20万円×12ヶ月=240万円
 

ケース2:老齢厚生年金の支給開始年齢を65歳から70歳に繰り下げた場合

A. 65歳から69歳までの年間収入計
(1) 65歳から69歳までの年収  444万円
(2) 65歳から69歳までの厚生年金年額 0万円
65歳から69歳までの年間収入計   444万円
 
B. 70歳以降の年金年間収入
本来の年金受給月額
20万円×(1+0.7%×12ヶ月×5年)=28.4万円
支給停止月額
(20+37-47)×1/2=5万円
支給停止額による減額分
5万円×0.7%×12ヶ月×5年
=2.1万円
実際の年金受給月額
28.4-2.1=26.3万円
 
70歳以降の年金年間収入
26.3万円×12ヶ月=315.6万円
 

老齢厚生年金の支給開始年齢を65歳から70歳に繰り下げない場合と繰り下げた場合の比較

      

年間収入比較
 

65歳から69歳の年間収入 70歳以降の年間収入
繰り下げをしない 624万円 240万円
繰り下げをする 444万円 315.6万円

 
65歳から69歳の年間収入差 
(624 -444)×5年=900万円  繰り下げしない方が有利
70歳以降の年間収入差
240万円-315.6万円=マイナス75.6万円  繰り下げた方が有利
繰り下げた場合、累計収入金額で繰り下げない場合に追いつく年数
900万円÷75.6万円=11.9年
繰り下げた場合、累計収入金額で繰り下げない場合に追いつく年齢
70歳+11.9年=81.9歳
 

まとめ

在職老齢年金を繰り下げた場合と繰り下げない場合を比較すると、繰り下げた場合が繰り下げない場合に追いつく年齢は、81.9歳となります。ほぼ男性の平均寿命です。どちらが得かというと、年金自体の繰り下げの場合と同じことになります。自分自身が何歳まで生きられるかは、誰にも分からないので、もらえるときにもらっておいた方がいい。
 
すなわち、在職老齢年金の場合も繰り下げない方が有利ということになりそうです。
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

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