更新日: 2019.05.17 その他税金

株や投資信託の配当金・譲渡益など「いいとこ取り」とは?!実はこんな税制改正がされています

執筆者 : 上野慎一

株や投資信託の配当金・譲渡益など「いいとこ取り」とは?!実はこんな税制改正がされています
「いいとこ取り」は、複数のものやサービスなどの特徴や使い勝手などのいいところだけを集めたり採用したりすることです。
 
「一挙両得」とか「一石二鳥」に読み替えるとポジティブな意味合いになります。
 
上野慎一

Text:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

税制改正で明確化された「いいとこ取り」とは・・・

今回は、税制改正で明確化された「いいとこ取り」についてご案内いたします。
 
具体的には【株や投資信託の配当金・譲渡益などの所得に対して源泉徴収された税金が、本来納めるべき税額よりも多いケース】に関してです。
 
これらの所得について、源泉徴収は次の税率でされていて、このまま課税関係を終了して申告不要とすることができます。
 
◇国 税:所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」)税率15.315%
◇地方税:住民税                   税率 5%
 
一方、確定申告して総合課税(または申告分離課税)とすれば、納税者の課税所得金額などによっては上記の税率が〝取り過ぎ〟となっていて減税となる場合があるわけです。
 

減税だけでなく、デメリットがある場合も

減税だけではなく、次のようなデメリットも考えられます。
 
(1)確定申告するとその分所得が増えるため、配偶者控除や扶養控除が受けられなくなり、一家トータルでは税負担が増える場合がある。

(2)国税の所得税等は減税となっても、地方税の住民税は申告不要の場合よりも総合課税率が高いため、住民税では税負担が増える場合がある。
(所得税等・住民税のトータルで税負担が増える場合がある)

(3)国税の所得税等は減税となっても、地方税の住民税が増える場合に国民健康保険料も増額となるので、国民健康保険加入者にとっては住民税のほかに健康保険料の負担が増える場合がある。
(所得税等・住民税・健康保険料のトータルで負担が増える場合がある)
 
上記のデメリットのうち(2)と(3)については、総合課税の住民税率が10%(都道府県民税4%+市町村民税6%)と地方税法で定められていて、控除措置を考慮しても源泉徴収の住民税率(5%)を上回ることによって生じるものだといえます。
 
もしも、所得税等だけ確定申告をして住民税は源泉徴収のままで申告不要とするような「いいとこ取り」ができるとすれば、このような問題はクリアされるのでしょうが・・・。
 

実は、今までも排除はされていなかった「いいとこ取り」

確定申告をする場合の国税庁の手引書には、「所得税等の確定申告書を提出した方は、その確定申告書等が地方公共団体へデータで送信されますので、改めて住民税や事業税の申告書を提出する必要はありません。」と明記されていて、確定申告はあたかも国税と地方税でセットでなければならないかのように思えてしまいます。
 
しかし、実はこれまでも所得税等を確定申告する一方で住民税は申告不要とするやり方は排除されていませんでした。
 
とはいえそのことは、手続きの整備が十分でないためなのでしょうか、各自治体からも積極的には周知されずにまるで日陰者のような扱いで、そのため所得税等で選択した課税方式を住民税でも自動的に選択するような運用になってしまっていたのが実態でしょう。
 
そのような状況下、平成29年度税制改正の大綱(財務省)において「 上場株式等に係る配当所得等について、市町村が納税義務者の意思等を勘案し、所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることを明確化する。」と明記され、総務省でも「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)の一部改正について」(平成29年4月1日 総税市第26号)を各自治体に通知し、このことが明文化されました。
 
つまり、先ほど述べたような「いいとこ取り」がある意味でオーソライズされるに至ったのです。
 

実際にやってみる場合の留意点は?

このような確定申告の「いいとこ取り」すなわち所得税等と住民税での異なる課税方式の選択ですが、実際にやってみる場合、次のような点に留意しておくべきでしょう。
 
◇住民税の申告を改めてする必要がある。
◇異なる課税方式を選択するかどうかは所得税等の多寡だけで判断できるが、各種控除などを反映してキチンとした試算と検証をする必要がある。(国税庁サイトの「確定申告書等作成コーナー」などでも試算ができますし、必要に応じて専門家の手を借りて事前検証をしておくとより無難でしょう)
 
あくまでも一例ですが【上場株式等の種類=日本株、年間配当総額=30万円】のケースで試算すると、国税と地方税の合計税額は次のように変わります。
 
・申告不要制度の税額           6万0945円 ・・・(1)
・異なる課税方式の税額
[課税所得金額695万円超900万円以下] 5万4819円((1)よりも ▲6126円)
[課税所得金額330万円超695万円以下] 4万5630円((1)よりも▲1万5315円)
[課税所得金額195万円超330万円以下] 1万5000円((1)よりも▲4万5945円)
(注)いずれも配当控除以外の税額控除はない場合の試算値。
 
なお、課税所得金額によって所得税率が変わることに加えて上場株式等もその種類によって配当控除率が変わるため、異なる課税方式が必ずしも有利でないケースもありますのでご注意ください。
 
得られるメリット(所得税等の還付額)が掛ける手間に見合うかどうかは、人それぞれの判断になるでしょうが、このやり方であれば【所得税等が減るのは良いけれど、住民税や国民健康保険料などの負担増でかえってデメリットになってしまう】といった心配はありませんので、「いいとこ取り」を実際にやってみるかどうかの判断はしやすいのではないかと思われます。
 
Text:上野 慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士,不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー