更新日: 2023.01.12 その他税金

「増税」は将来への解決策にならないって本当? 「経済成長こそ解決の糸口」の意味を解説

執筆者 : 古田靖昭

「増税」は将来への解決策にならないって本当? 「経済成長こそ解決の糸口」の意味を解説
岸田首相が防衛力を強化するために1兆円分の増税を表明したことにより、異論が相次ぐなど騒然となりました。その後、党内の反対もあったことから増税の日程を決めないことで沈静化しています。しかし防衛力強化に限らず、増税は将来への解決策にはならないのではないでしょうか。

また所得や消費に対して税金がかかるため、経済成長をないがしろにして増税しても税収が簡単に増えるわけではありません。本記事では、なぜ増税が将来への解決策にならないか、また経済成長が解決の糸口となることについて解説します。
古田靖昭

執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

経済成長をないがしろにした増税は無意味

ロシアのウクライナへの侵攻を受けて日本を取り巻く周辺環境に変化が生じたことから、岸田政権において「安保三文書」と呼ばれる「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」が2022年12月16日に閣議決定されました。また2023年度の政府予算において、防衛費の増額も盛り込まれています。
 
防衛増税は一時与党内で異論が噴出するなどしたものの、2022年12月16日に与党内で取りまとめられた2023年度与党税制改正大綱に防衛費増額に向けた増税方針が盛り込まれました。税制改正大綱には、防衛力強化に必要な財源として2027年度に1兆円強を確保するために、法人税や所得税、たばこ税を複数年かけて増税することが明記されています。
 
どの国でも大きな予算としてかかる項目に、「防衛費」や「社会保障費」があります。しかし経済成長をないがしろにして増税を続けていては、いずれ立ち行かなくなってしまうでしょう。
 

税収はGDPに連動する

税金は個人や法人所得、消費したものに対して課税されるものです。つまり、所得や消費が拡大すれば増収となるため、経済と連動していることがわかります。経済を示す指標として、GDPがあります。GDPとは、「Gross Domestic Product」の略称で「国内総生産」と呼ばれるものです。国内総生産は国内において、一定期間に生み出された付加価値の総額となります。
 
税収とGDPの連動については、図表1で示すとおりです。
 
図表1 国内総生産と一般会計税収の比較
 

 
内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA) 国内総生産(支出側)名目 年度
財務省 税収に関する資料 昭和54年度(1979年度)以降の税収の推移 より筆者作成
 
図表1を見ると、2007年から2009年にかけて落ち込んでいる部分は、2008年に起きたリーマンショックによる影響が大きいでしょう。GDPの落ち込みに合わせて、税収も落ち込んでいることがわかります。また、2013年から始まるアベノミクスの実施によってGDPが拡大し、併せて税収も増えています。
 
次に税収の大きな項目に「所得税」「法人税」「消費税」があります。3つの税目とGDPの比較は図表2のとおりです。
 
図表2 国内総生産と所得税収・法人税収・消費税収の比較
 

 
内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA) 国内総生産(支出側)名目 年度
財務省 税収に関する資料 昭和54年度(1979年度)以降の税収の推移 より筆者作成
 
図表2を見ると、法人税と所得税がGDPに連動しており、景気に影響されています。しかし消費税は横ばいとなるため、景気に影響されにくい税目といえます。消費税が伸びている箇所として、「1996年から1997年」「2013年から2014年」「2019年から2020年」の3つがありますが、これはそれぞれ消費税が「3%から5%」「5%から8%」「8%から10%」に増税されたことが要因です。
 
消費税が5%になった際は消費税の増収となったものの、GDPや所得税と法人税の両方が大きく下降しており、デフレ不況が深刻化しています。一方で消費税8%と10%の時期は、アベノミクスの効果もあってデフレの深刻化にはならなかったものの、所得税と法人税は緩やかに上昇したり下降したりをくり返しました。
 

経済成長こそ税収を増加させる

GDPと税収は図表1のように連動するため、経済成長を考えずに増税すれば景気にも影響を与えてしまうと思われます。さらには、目標とする増収分まで足りないといったことも起こり得るでしょう。もし増税して足りなければ、さらに増税するという、いわば負のループに陥ってしまう可能性があります。
 
増税による負のループに陥らないためには、適切な経済成長を目指して個人所得や法人収益の増加、消費の拡大に頼る必要があるでしょう。経済成長を促す金融・財政政策こそ、将来への解決策につながるといえるのではないでしょうか。
 

出典

内閣官房 国家安全保障戦略について

自由民主党 令和5年度与党税制改正大綱

内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA) 国内総生産(支出側)名目 年度

財務省 税収に関する資料 昭和54年度(1979年度)以降の税収の推移

 
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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