更新日: 2023.01.27 確定申告

【チェックしてみる価値あるかも】今回の確定申告が最後の機会の「いいとこ取り」制度とは?

執筆者 : 上野慎一

【チェックしてみる価値あるかも】今回の確定申告が最後の機会の「いいとこ取り」制度とは?
「これが最後の機会!」。まるで店じまい前の最終バーゲンみたいなフレーズですね。令和4(2022)年度の税制改正で、ある「いいとこ取り」制度がなくなることが決まっています(※)。
 
ただし、この改正が実際に適用されるのは、所得税が2023年分(2024年1月以降に確定申告する分)から。住民税は2024度年分(2023年分所得額等によって決定される分)から。
 
つまり、今年・2023年に行う確定申告までは、この制度が使えるわけです。実際に使うメリットがあるかどうか、チェックしてみる価値はあるでしょう。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

「いいとこ取り」できる内容とは

<対象となるのは>

◇株式の配当金や投資信託の普通分配金、また株式や投資信託を譲渡(売却)したときの利益です。
 

<「いいとこ取り」できるって、どんなこと>

◇こうした所得には、所得税等(国税)と住民税(地方税)がかかります。課税のやり方は次の3つがあります。
 

(1)総合課税
(2)分離課税
(3)申告不要制度(源泉徴収ありの特定口座)
   ⇒ 税率は所得税等(国税)[15.315%](復興特別所得税0.315%を含む)、住民税(地方税)は[5%]で源泉徴収されて課税が完了したことになって、確定申告は不要になります。

 
◇納税者は、所得に応じた課税方式をそれぞれの中から選択することができます。
 

「配当所得」(株式の配当金など) ⇒ (1)、(2)、(3)
「譲渡所得」(株式などの売却益) ⇒ (2)、(3)

 
ここで【図表1】をご覧ください。
 

 
配当所得の場合、(1)総合課税では課税所得金額によって所得税率が変わります。配当所得を加算しても課税所得金額が低い場合、(2)申告分離課税や(3)申告不要制度の15%(所得税率のみ)よりも低い税率となり、配当控除も受けられるため、所得税等の額が(2)(3)よりも低くなる可能性があります。
 
一方、住民税率は(2)(3)ならば5%で済むのに、(1)では10%に倍増です。住民税が増えると国民健康保険料等の負担も増額します。トータルでどちらがトクなのか、悩ましいところです。
 
しかし解決は簡単です。所得税等だけを確定申告して、住民税は源泉徴収のまま申告不要にする。つまり課税方式の「いいとこ取り」をすればよいのです。このやり方は、2017年4月から制度として明確化(明文化)されています。
 
ただし、先述のようにこの制度が使えるのは、今年・2023年に行う確定申告が最後となります。
 

でも、手続きが面倒なのでは

特定口座を持っていると、証券会社などから「特定口座年間取引報告書」が書類やネットデータで年明け1月に届きます。もしも複数の特定口座(源泉徴収あり)があっても、国税庁サイトの「確定申告書等作成コーナー」を使って画面案内に従えば、シミュレーションは意外と簡単です。
 
各特定口座を申告する場合としない場合や、申告する場合の課税方法(総合か申告分離か)での所得税等の額の違いも、手軽に試算できます。その結果を見て、各特定口座を申告するかどうか、申告する場合どちらの課税方法にするかを決めればよいのです。
 
(3)申告不要制度は、確定申告を「しなくてもよい」だけで、決して「してはいけない」ものではありません。さらに、確定申告する場合でも、複数の特定口座(源泉徴収あり)の中から「するもの」と「しないもの」を任意でピックアップできるのです。
 
また、地方税だけ申告不要にする手続きはかなり面倒なのではないか。そう感じる人も多いかもしれません。しかし、制度が明確化(明文化)されて以降、手続きもどんどん簡素化されていて、簡単な用紙1枚の提出だけで済むケースが多いです。
 

まとめ

以前にも言及しましたが、今回の制度、ある時点で「明確化」されたということは、それ以前にも申し出等があれば個別に認められるケースがあったのでしょう。せっかく明確化されて日の目を見るようになったのに、それからわずか6年(確定申告6回)で廃止されることには、朝令暮改のイメージすら付きまといます。
 
それはさて置き、制度として使える最後のチャンス。シミュレーションも意外と簡単です。試算してみてメリットがあると思えるならば、やってみる価値はありそうです。短命だったこの制度への送別にもなるのではないでしょうか。
 

出典

(※)「令和4年度税制改正の大綱」(本件関連は76ページから77ページを参照)

 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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