2017.04.04相続

相続税対策 安易なアパート建設は要注意

Text : 黒木 達也

キーワード :

相続財産は金融資産で持つよりも、不動産で持つほうが税法上は有利です。とくに基礎控除額の引下げにより課税対象が広がり、相続税を支払う人が増えました。「金融資産から不動産へ」という流れは確かに強まっています。近年では、相続税対策の一環としてアパート建設をする人が増えています。ただし、その危険性も十分認識したうえで、進めたいものです。

急増する金融機関の不動産向け融資

2016年の金融機関による不動産向け融資は、過去最高の12兆円を超えています。とくに目立つのが、相続税対策の一環として、所有する土地にアパートなど貸家建設を進める人が多く、これに対する融資の増加です。空き地のままでおくよりは、貸家があったほうが、相続時に土地の評価額は下がります。通常の住宅が建っている土地は「宅地」として評価されますが、貸家の建っている土地は「貸家建付地」と評価され、相続時の評価額は宅地と比べ3割近く下がります。 
その意味では、相続税対策としての効果は十分にあります。アパート建設に関しては、金融機関が低金利の融資などに積極的になっており、住宅メーカーもアパート建設や貸間付きの戸建て住宅の建設を、ビジネスチャンスとみて熱心に推進しています。
とくに金融機関はマイナス金利が定着するなか、有力な貸出先の一つとして、アパート建設の希望者に的を絞り融資に積極的です。大都市など人口の多い地域だけでなく、比較的広い空き地の多い人口過疎の地域でも、こうした動きが強まっています。とくに土地を担保に取れば融資も進めやすいため、メガバンクだけでなく、地方銀行や信用金庫も不動産向けの融資残高を増やしています。

家賃保証をめぐるトラブルが起こる

アパート建設が増えるにつれ、建設後のトラブルも目立ちます。最も多いトラブルは「家賃保証」契約に関連して起こります。不動産会社や住宅メーカーは、建設時に「一定期間の家賃を保証するので、安定した収入になる」という契約を提案し、建築主の空室への不安感を払拭します。こうした「家賃保証」契約は、建築主サイドでも、入居者の斡旋を依頼する手間が省けるため、歓迎する傾向にあります。建築主が自分で入居者を募集するケースは減少しています。
しかし、入居が順調に続いていれば問題は起こりませんが、すべての物件が上手くいくわけではありません。人気の高い物件を除いて、実際はかなりの部屋が空室になることが多く、それを理由に、建設時に保証した家賃の減額を提案してきます。このことがトラブルになりやすいのです。
「最初の約束と違う」と建築主が反発します。建築主にしてみれば、決まった家賃収入を計算して、入居者の要望に応じた室内の設備など、メインテナンスにかかわる経費も負担しているため、アパート経営は苦しくなります。築年数が経過するほど、メインテナンスの費用は増加し、逆に家賃収入は減額となる宿命も抱えています。各種の経費を差し引いた実際の手取り収入が、金融機関への返済額を下回るケースも増えてきます。

余裕資金でアパート建設なら安心

手許の余裕資金だけでアパート建設をしたなら、あまり問題にならないかもしれません。「入居者が減った」「家賃が下がった」という事態が起こっても、借入金の返済に追われる心配がないからです。すべて自己資金なら、アパート建設後に、時期を見て子どもに贈与することも可能で、相続財産自体を減らす効果もあります。こうした条件でのアパート建設ならば、相続税対策としても効果的です。
しかし、金融機関からの融資を受けてアパートを建て、その家賃収入で融資返済と生活資金も賄う、と考えていた人にとっては、家賃保証の減額は大きな痛手です。アパート建設を考えている土地の条件を考慮せずに、金融機関や住宅メーカーから発せられる「おいしい話」に乗るのではなく、自分で冷静に考え判断することが大切です。
定年退職を契機に、退職金と自己資金だけで賄うならいいのですが、金融機関からの多大な融資を受け、大型アパートの建設を行うことは要注意です。甘い収支計画のもと、無謀な建設を進めることは禁物です。

若い世代は今後減少する

日本社会はすでに人口減少社会に入りつつあります。過疎化が進む地域はもとより、大都市であっても、今後人口の増加は望めそうにありません。とくに、若い世代の人口減少は進んでおり、深刻になりつつあります。
そのため、どこにアパートを建設するかが重要になります。例えば、駅まで徒歩10分圏内で通勤・通学に便利、住みたい街として評価が高く若い世代に人気、大学・企業の工場が近い、といった住宅ニーズが多い地域かどうかが問題です。最近は、大都市でも、アパートの空室率は上昇しており、築年数を経た建物ほど入居者が敬遠しがちです。すでに供給増と需要減の構造が、出来上がりつつあります。
もちろん旧い木造アパートなどは取り壊されていますが、それ以上に、新規の建設が進んでいます。とくに地方都市では、空室率問題は大都市に比べ深刻です。一方で、ニーズを確認しないままの無理なアパート建設も盛んに進んでいます。よほどの好条件が揃わないかぎり、安定的な入居は望めないと理解したほうがよさそうです。

安易な建設に歯止めをかける動きも

アパート建設に歯止めをかける動きも出てきました。首都圏近郊の自治体の中には、水道などのインフラ整備が追いつかないとして、アパート建設を条例で規制しようとする動きがあります。水道は自治体が運営主体のところが多く、供給力にも限界があります。アパートの急増は行政には好ましい事態ではないため、今後もインフラの未整備を理由に、この動きは強まると予想されます。
相続税対策として「金融資産よりは不動産」という考えは間違いではありません。しかし、現時点でも供給過剰の傾向が顕著なわけですから、今後のアパート建設には細心の注意が必要です。相続税対策に有効だからと思い込まずに、将来的に住宅ニーズが減らない立地かどうか、自己資金が中心で融資を最小限に抑えられるのか、などを考慮することが大切になります。

ファイナンシャルフィールドの最新記事を
毎日お届けします

黒木 達也

Text:黒木 達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職