対策として保険やNISAなど、さまざまな選択肢がありますが、特におすすめなのは、退職、事業廃業時等の退職金になる小規模企業共済です。小規模企業共済なら、将来に備えつつ節税効果などさまざまなメリットを受けられます。
今回は自身も小規模企業共済に20年以上加入している筆者が魅力を解説します。
執筆者:水上克朗(みずかみ かつろう)
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
小規模企業共済の魅力とは?メリット・デメリットもあわせて解説
数年前に大きな話題となった、老後2,000万円問題や人生100年時代。よりよい生活を送るには、公的年金とは別に多額の資金を自分で準備しなければならないという調査結果でした。目安として30年間で約2,000万円が必要という試算が示されましたが、それほどの金額を貯めるのは大変だと思った方も多いでしょう。
企業の中には経営者の退職金として役員退職慰労金制度がありますが、個人事業主、小規模企業の経営者や役員は、自分で用意する必要があります。日々の事業に追われるなか、何十年も先のことを考える優先度はどうしても低くなってしまいます。
そこで利用したいのが、退職、事業廃業時等に経営者や個人事業主の生活安定資金を積み立てて準備する「退職金制度」である小規模企業共済です。
小規模企業共済は昭和40年に開始した制度で、現在約166万人の小規模事業者の方々が利用しています。加入できるのは個人事業主、個人事業主と一緒に仕事をしている共同経営者、法人化している場合は小規模企業の役員です。小規模企業というのは従業員数が少ない企業のことで、従業員数は業種によって違います。例として、商業・サービス業なら5人以下、製造業や建設業などの業種は20人以下です。
小規模企業共済は国の機関である中小企業基盤整備機構(中小機構)が運用しているため、安心確実な運営が魅力です。掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲内から500円単位で自由に選べます。事業には浮き沈みがありますから、途中で掛金の増減が自由にできるのは助かります。掛金は指定した口座から毎月引き落とされますが、年1回払いや半期ごとに年2回払いも可能です。
小規模企業共済のメリットは掛金の全額を課税対象となる所得から控除できる点で、筆者自身も加入した時の動機は掛金の全額所得控除でした。掛金の運用は中小機構が行うため、自ら運用する必要がなく、事業に集中しながら老後の資金を蓄えることができました。
間もなく65歳となり、事業をやめる時期がそろそろ近づいてきた今では、若い時の自分を「よく加入した」と褒めたい気分になります。
共済金は退職、事業廃業時等の時に受け取りますが、一括・分割などを選ぶことができます。一括で共済金を受け取る場合は退職所得扱いに、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになるため、税制メリットもあります。
万が一、経営がうまくいかず自己破産した時も、小規模企業共済は差し押さえ禁止になっています。自己破産すると借金の返済義務からは免れますが、保有財産は差し押さえとなり生命保険等は処分されます。
しかし小規模企業共済については、小規模企業共済法で法的に差し押さえができないため、生活の支えとなってくれるのです。
小規模企業共済の退職金は例外扱いで、その額にかかわらず全額を残すことができますので、セーフティーネットの一つとして加入しておくことをおすすめします。
また掛金納付月数が240か月(20年)未満で、自己都合による任意解約や、12カ月以上掛金を滞納して機構による契約解除になった場合は解約手当金の支払いとなり、掛金合計額を下回りますのでご注意ください。
しかし最低でも80%以上は戻り、毎月の掛金全額が所得控除されることによる節税分と合わせると、元を取ることができ、最低額の月1,000円でも20年以上掛け続ければ全額戻ってきます。
個人事業主が法人成りすると個人事業を廃業して、新たに法人設立になりますが、小規模企業共済は法人成りしても会社等の役員に就任した場合等は、それまでの掛金納付月数を通算して共済契約を続けられます。
反対に会社等の役員の地位で加入されている方が、会社等の解散または役員を退任し新たに個人事業を始めた場合も同様に続けることができます。
小規模企業共済に加入するとどれだけお得?
確定申告で住宅ローン控除や医療費控除をした経験がある方も多いでしょうが、確定申告書の同じ控除欄に小規模企業共済等掛金控除という欄があり、掛金を控除できます。
月7万円を掛けていれば年間84万円を控除できます。生命保険料控除の最大が12万円なので、大変お得です。また控除された額が課税所得として計算されますので、課税所得に基づいて計算される市民税や住民税なども節税できます。
例えば、40歳で開業したフリーランスが65歳で廃業するケースを考えてみましょう。
小規模企業共済:年間課税所得が800万円、毎月4.5万円を25年間掛けた場合
掛金合計 1,350万円
受け取れる共済金 1,629万900円
差し引き 279万900円になります。
また年間課税所得が800万円とすると以下のようになり、年18万800円節税できます。
所得税 122万9,200円→110万2,400円(12万6,800円節税)
住民税 80万5,000円→75万1,000円(5万4,000円節税)
※共済金試算シミュレーション(https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai1/simulator/index.php)により算出
つまりこの場合、掛金を年間54万円支払っても、所得控除により掛金に対して約20万円を節税できる計算になります。課税所得額によって変動しますが、事業者にとって大きなメリットになります。
小規模企業共済・iDeCo・新NISAの違いは?
小規模企業共済以外の選択肢としてiDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISA(少額投資非課税制度)があります。
iDeCoは、公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度で、小規模企業共済と同じく高い節税効果を持つ制度です。20歳以上65歳未満の方が加入できますが、小規模企業共済の場合は年齢制限がありません。
新NISAは、投資で得られた売却益や配当金などの利益に20.315%の税金が課されず、非課税にすることができます。それぞれの違いは以下の通りです。
小規模企業共済 | iDeCo | 新NISA | |
---|---|---|---|
目的 | 退職金 or 年金(分割) | 年金 | 資産形成 |
年齢制限 | なし | 20歳以上65歳未満 | なし |
税制メリット | 税額控除 | 税額控除 | 非課税 |
個人事業主など第1号被保険者のiDeCoの掛金上限は、小規模企業共済を併用している場合、月額6万8,000円(年間81万6,000円)です。つまり小規模企業共済とあわせて最大で年間165万6,000円(84万円+81万6,000円)まで税額控除できます。
小規模企業共済が老後・将来を支える
創業してすぐは資金的に大変な時ですが、少額でも良いので小規模企業共済に加入することをおすすめします。財形貯蓄のように毎月掛金が口座から引き落とされるので着実に掛金が積み立てられます。また、事業がさらに伸びて掛金を増額できるようになれば、さらに高い節税効果が期待できます。
少額から加入できる小規模企業共済なら、無理のない範囲でコツコツ長期間積み立てが可能です。実際に筆者の知人は34年間、月2万円で小規模企業共済をかけていました。最終的に掛金で約800万円を積み立てましたが、先日、廃業して共済金を請求したら約1,100万円になりました。これだけでもかなり得をしたと考えられるでしょう。
経営には上り坂と下り坂、そして「まさか」という3つの坂があると、よく言われます。小規模企業共済では掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で事業資金等の借入れが可能になるため、「まさか」に備えることもできます。
貸付制度は借り入れの目的によって限度額や借入期間、利率などが異なりますが、事業資金の貸付である一般貸付の貸付利率は年利1.5%です。
まとめ
昨今の物価上昇や円高など、将来に不安を覚える方も多いでしょう。小規模企業共済は、経営基盤が弱い個人事業主、小規模企業の経営者や役員の方のために国が用意した退職金制度です。掛金納付月数が長ければ長いほどお得なので、ぜひ今から加入を検討してみてはいかがでしょうか?
執筆者:水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー