2018.06.09 暮らし

イノシシや鹿は地方の新たな収入源に ジビエは鳥獣害対策の切り札

今、全国各地で鳥獣害が発生しています。食害や田畑を荒らすなどで、農業関係だけで毎年200億円の損害が出ています。
 
欧州のようにジビエ料理が一般的になれば、解決に結びつくかもしれません。
 
ジビエ利用の実態を探ってみましょう。
 

農家は鳥獣害に参っています

10年ほど前、宮崎県日南市にある棚田に行きました。道中、びっくりするほど大きなニホンザルが何頭も道を横切りました。数台の車が立ち往生している中、悠々と。
 
同乗していた宮崎県職員の人は、「ここ数年、何を作ってもサルに食べられてしまって。今ここで被害がなく栽培できるのはフキぐらいです。
 
どうやら、サルはフキの匂いが苦手らしくて」と言うのです。現在、日南市ではサルの食害以外にも、イノシシの食害や農地荒らしも増えて、当時よりも事態は深刻になっているそうです。
 
山間部の果物や野菜の産地に行くとほぼ毎回、このような鳥獣害の話が出て、一様に「お手上げ」だと言います。
 
防護柵を設置してもほとんど効果がないところが多く、農家は収入減だけでなく、耕作意欲までなくしているのです。鳥獣害が原因の耕作放棄地も増え続けています。
 
野生鳥獣による農作物被害額は、耕作放棄地の分を除いても年間200億円もあるのです。
 
里に降りざるを得なくなった動物たちに罪はありませんが、鳥獣害で経済的に打撃を受け続ける農家を思うと、切なくなります。
 

野生鳥獣の肉・ジビエは低脂肪でおいしい?

そこで、農家からの期待を集めているのが、鹿やイノシシなどの野生鳥獣の肉を食べるジビエ料理です。鹿肉やイノシシ肉を食べるということに、抵抗感があるかもしれません。
 
しかし、両方とも平安時代から室町時代から食べられていました。
 
今、牛も豚も鶏も、おいしい肉がたくさんあるのだから、無理してジビエを食べる必要はないというのは、もっともなご指摘です。
 
でも現実に、農作物への鳥獣害が増え続けているのを何とかしなければいけないと考えると、ジビエ利用は現実的な対策ではないかと思います。
 
環境省と農林水産省は、2023年度までに捕獲などで生息頭数を半減させようとしています。捕獲数は年間、鹿58万頭、イノシシ55万頭ほどあるのですが、生息数はわずかに減少という程度で、効果はほとんど上がっていません。
 
では、捕獲獣はどうなっているのでしょうか。実は、ほとんどが焼却や山で埋設されており、食べられているのは1割程度しかないのです。
 
野山を駆け回っていた“筋肉質”の鹿やイノシシの肉は、低脂肪でミネラルも豊富ですから、ただ捨てられてしまうのは実にもったいない! 
 
また、家畜のように人間の管理下になかったため、成長ホルモンや抗生物質の残留を気にしなくてよい肉であることも魅力的です。
 
気になるのはやっぱり味ですね。最近はもみじ鍋や猪鍋の専門店だけでなく、フランス料理のレストランや地方の飲食店でも、目にするようになりました。
 
旅行や出張で地方に行った時に食べたという人もいると思います。
 
日本政策金融公庫が今年1月に行ったインターネットでの聞き取り調査(対象2000人)によると、ジビエを食べたことのある人の76%は「再度食べたい」と回答しています。
 
その理由は「おいしい」から。どうです、ジビエに興味がそそられませんか。
 

あたなも鹿やイノシシのお世話になっている、かも

国はジビエの普及を推進しています。ジビエの利用範囲も広がっています。その1つが、イノシシの肉骨粉(骨、皮、内臓を乾燥させて粉状にしたもの)の利用です。
 
2001年に牛海綿状脳症(BSE)の原因が肉骨粉だったことから、どんな動物であっても肉骨粉の利用は禁じられていました。
 
しかし、「捕獲前に死亡したもの、異常のあるものは使わない」「銃弾を完全に取り除く」「ほかの野生鳥獣と混じらない処理工程を確保する」などの基準をクリアした、イノシシの肉骨粉の利用はすでに始まっているのです。
 
14年にはペットフードに、16年には豚・鶏・魚の飼料に、17年には肥料にも使えるようになりました。ただし、鹿の肉骨粉は今でも禁止されています。
 
また、鹿とイノシシを使ったペットフードとしては「肉と内臓のジャーキー」「骨のおしゃぶり」なども解禁されています。私たちも、知らないうちにジビエのお世話になっているかもしれませんね。
 
鳥獣害を減らすには、ジビエの振興が鍵になります。そのため政府は、市町村が運営する食肉処理施設の整備を進めようとしています。
 
捕獲後、すぐに血抜きしないとジビエの味が落ちるために、地域ごとに迅速に搬入できる施設が必要になります。衛生的に解体し、精肉にして、適温で保存できる保冷施設も必要です。
 
これが各地にできて、うまく回り始めれば、害獣だった鹿もイノシシも資源になります。
 
消費者もおいしく食べられるようになり、地方の新たな収入源にもなって、農家を長年悩ませてきた鳥獣害が減少する、というサイクルがうまく回り始めればいいなあと思っています。
 
Text:毛利 菁子(もうり せいこ)
宮城県の穀倉地帯で生まれ育った農業・食育ライター。

毛利 菁子

Text:毛利 菁子(もうり せいこ)

農業・食育ライター

宮城県の穀倉地帯で生まれ育った。
北海道から九州までの米作・畑作・野菜・果樹農家を訪問して、営農情報誌などに多数執筆。市場や小売り、研究の現場にも足を運び、農業の今を取材。主婦として生協に関わり、生協ごとの農産物の基準や産地にも詳しい。大人の食育、大学生の食育に関する執筆も多数。

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