企業の株主への還元策重視。投資判断の基準として注目を!
配信日: 2022.05.18
以前はあまり熱心に取り組まない日本企業もありましたが、グローバル化が進展する中で、多くの企業が株主還元を重視する傾向にあります。投資家目線でも、投資判断の材料として注目したいものです。
上場企業は株主還元策を重視
株主還元を重視する上場企業が、増加傾向にあります。その理由は
・自社の株式を多くの人に買ってもらう
・株主になった人になるべく長期間株主でいてもらう
・多くの人に自社の製品に興味をもってもらう
といったことを通して、自社の株価を安定させ、さらに上昇させることが可能になるからです。その株主還元の主要な柱は
(1)好調な業績を前提に配当額を増やす
(2)株主向けの優待制度を設け自社製品やサービスを提供する
(3)自社株を市場で買い自社株の価値を高める
の3つがあります。
企業により重視する政策は異なりますが、例えば、配当政策を重視するのであれば、可能な限り高額配当の維持に努める、株主優待を重視するのであれば、魅力ある自社製品や食事券・金券を贈る、などを実施し、株主にアピールします。
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堅実配当の実施・株主還元策その1
「配当」とは、企業が事業活動で得た収益を、株主に対して分配する仕組みです。金銭で支給されることが大部分で、決算期などを基準日として支払われます。
配当を受け取るには、決算期日に株式を保有していることが前提です。年1回配当の企業もありますが、多く企業は2回で、期末配当と中間配当を行います。投資判断の基準としても、同じような業績の企業であれば、高配当企業の株式取得を優先するのが定石といえます。
日本企業は3月決算の企業が最も多く、3月末日時点で株式を持っている株主に対して、2~3ヶ月後に開く株主総会などでの承認を経て「配当」が支払われます。3月決算で中間配当を実施している企業は、9月末に中間配当が支払われます。
堅実に配当を実施するには、企業が安定的に事業を展開し、収益を上げることが前提となります。事業の進捗状況や業績を公開し、予定配当を明示することも、企業にとって大切な役割です。
配当水準を測る尺度として「配当利回り」があります。その時点の株価に対して年間の配当額がどの程度になるかの目安です。
例えば、現在の株価が1000円、1株あたりの年間配当額が50円だとすると、配当利回りは5%です。通常は100株単位で株式を購入しますので、このケースでみると、最低購入価格が10万円(手数料は除く)で、年間の配当は5000円になります。
この配当利回りは企業の姿勢によって変わってきます。業績が向上していても、新規投資や内部留保に回し、配当増には消極的な企業もあります。投資家の立場では、業績に応じて配当を増やしていく企業が、株主への還元を重視している企業です。
堅実な配当の実施は投資判断の基本となるため、企業の業績に影響を与える業界の動向や、社会情勢の変化(コロナの蔓延、原油価格の変動、戦争の勃発など)を、投資家目線で常に注視することも大切です。
株主優待の実施・株主還元策その2
「株主優待」は、株式を保有する株主に対して、保有株数や保有期間に応じて、自社製品や各種サービス、食事券などを提供する制度です。
欧米企業では配当が重視されるため、あまりみられませんが、日本企業では個人株主を獲得する目的で、多くの企業が採用しています。知名度の上昇や株主の定着にもつながるため、特に食品メーカーや外食企業が積極的に取り組んでいます。
個人投資家の中にも、株主優待に期待して株式を保有する方がいらっしゃいます。その会社の製品が欲しい、近所にその会社が経営するレストランがある、といった方々には好評です。
企業も、個人株主に株式を長期保有をしてほしいと考え、この優待を実施しています。しかし、企業業績の悪化により優待の内容を縮小・廃止することもあります。ただし、業績が悪化し無配当になった企業でも、この株主優待だけは継続させる企業もあります。
一方で、機関投資家(企業や投資ファンド)や海外の株主には、この株主優待は魅力がないため、不評となることがあります。かなり多くの株式を保有しており、その企業の製品などを大量に贈られても、使い道に困るためです。
そのため、優待品の金額相当を、寄付などの社会貢献活動に変更する仕組みを提供する企業もあります。本音をいえば、株主優待をするくらいなら、その分配当を増やしてほしいと感じているかもしれません。
自社株買いの実施・株主還元策その3
「自社株買い」とは、企業が自社の発行済み株式を、通常の市場で買い付け購入することで、市場に出回る株数を減らして1株あたりの市場価値を高める政策をいいます。出回る株数が減るため、1株あたりの株価の価値が上がることにつながります。
自社株買いの手順は、まず当該企業が、取得する株数の上限、その価格、取得に要する期間を公表し、その上で通常市場での買い付けや公開買い付け(TOB)を行い、株式を取得します。
取得した株式は、通常の株価関連の指標から除外されるため、需給バランスが変化し、1株利益などが押し上げられる効果をもち、株価を支える効果が期待されます。
機関投資家には、自社株買いは流通する株式数が減少することで、所有株式の価値が上がる好評の政策です。株価の動きで投資先を判断するため、株価が上昇トレンドに乗っている企業を好感します。
しかし、売買をせずに長期保有し続ける個人投資家にとっては、当面の株価値下がりのリスクは軽減されますが、すぐに恩恵が出るとはいえないかもしれません。投資家に対して、堅実な配当、魅力ある株主優待、適切な自社株買いを実施している企業が、今後は評価されていくのではないかと思われます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。