株主総会資料の電子提供制度。いつから始まる? 何が変わるの?
配信日: 2022.05.26
そのタイトルは「株主総会資料が原則ウェブ化されます」。一体、どんな内容なのでしょうか。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
株主総会資料のウェブ化とは
このリーフレット、発行しているのは一般社団法人信託協会で、要点は次の3つです。
●今までの紙の株主総会資料の代わりに、ウェブサイトへのアクセス方法等を記載した招集通知書面が送付されるようになる。
●株主総会資料の全文は、ウェブサイトにアクセスすることで確認できる。
●議決権行使書は原則、今まで通り送付される。
●2023年3月以降の株主総会より
●書面で受領するための手続き(書面交付請求)が2022年9月1日以降に可能。
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ウェブ化は、実は「強制」
株主総会は、株主の3大権利の1つ「議決権」(株主総会に参加して議決に加わる権利)を行使する場です。会社にとってもその意思決定をする最高レベルの機会であり、株主が出席して(質疑応答も交えながら)議決に参加することは、とても意義のあることです。
とはいえ、コロナ禍で「3密」は避けなければなりません。「新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、書面またはインターネットにより事前に議決権を行使いただき、株主総会当日のご出席はお控えくださいますようお願い申し上げます」。これは、近時の招集通知書に実際に記載されていたメッセージですが、現実の状況はこのように一変しています。
2019年12月に成立し公布された会社法の一部を改正する法律は、その大部分が2021年3月から施行されています。今回の株主総会資料の電子提供制度は、準備期間を考慮し1年半遅れの2022年9月から施行。法務省の説明資料(※)によれば、この制度のメリットは次のおりです。
●従来は、株主総会資料は株主総会の2週間前までに招集通知とともに発送することとされてきた。
●電子提供制度の創設によって、遅くとも株主総会の3週間前までにウェブサイト上で閲覧できるようになる。
●印刷や郵送のための時間や費用が削減できる。
●従来よりも充実した内容の資料を早期に提供されることも期待できる。
インターネット利用が困難な株主が救済措置として、施行日以降に書面交付請求できるのは当然でしょう。電子データという選択肢が増えただけにも思えますが、実は上場会社などは電子提供制度を利用しなければならない。つまり、強制なのです。
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株主にとって、何が変わるの
株主総会資料の電子提供制度、スケジュール的にはまず今年9月から。会社法で関連する部分が施行されることに伴い、紙ベースの書面交付請求手続きが始まります。そして、来年2023年3月以降の株主総会から電子提供(ウェブ化)が開始となるのです。
例えば、投資信託の「交付運用報告書」や証券会社などに開設した特定口座の「年間取引報告書」でも、紙データではなく電子データで交付されている方には見慣れた光景でしょう。ネット環境さえあれば、大きな不便や不都合は特に感じないかもしれません。
手元に届くタイミングが紙ベースよりも早くなるので、資料をしっかりと読み込んで各議案への賛否を今までよりじっくりと検討できる。そんなメリットもあるでしょう。
まとめ
今回の変更が始まる前から、株主総会資料を紙ベースと並行して電子データでも提供している企業は少なくありません。
議決権行使書でも、紙ベース(郵送)以外にウェブ化(ネット行使)もかなり普及しています。改正された会社法では、議決権行使書も電子提供の対象に含まれます。今回の変更後も今までどおり原則は紙ベースで送付されますが、いずれは原則電子提供になっても不思議ではありません。
また、実際に出席しなくても株主総会をインターネットでライブ配信したり、一定の手続きをしてオンラインで質疑応答や議決権行使ができるケースも増えています。総会に参加する方法も、「リアル」から実質的に「バーチャル」が当たり前になる。そんな時期も、そう先ではないかもしれません。
IT技術等がどんどん発達し、社会の構造や人びとの意識・価値観も大きく変化しています。株主総会をめぐる動きを見ても、そんな時代の流れを感じずにはいられません。
出典
(※)法務省民事局参事官室「会社法の一部を改正する法律のパンフレット(令和4年9月施行部分)」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士