更新日: 2022.10.25 その他資産運用

日帰り温泉の店内で案内していた! あまり見かけない「私募債」とは?

日帰り温泉の店内で案内していた! あまり見かけない「私募債」とは?
先般、信州方面を旅したときのこと。初めて訪れた飯田の街で日帰り温泉に立ち寄ったら、店内で風変わりな掲示を目にしました。その内容は、こうした施設の店内ではあまり見かけないように思われるもの。実は、「私募債」の案内だったのです。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

日帰り温泉の「私募債」の内容とは

飯田は、長野県の南端近くに位置する城下町です。市街地はJR飯田駅からなだらかに下りながら広がっているのに、両端部で見ると削られた川岸の上に高くそびえています。この「丘の上」というエリアの南端が飯田城跡で、その一角に日帰り温泉がありました。
 
正確には観光ホテルに併設された施設ですが、ホテルとは出入り口も別で食事やマッサージなどの機能も備わっています。日帰り入浴料は800円。高台で窓一面の南アルプスや天竜川の眺望が素晴らしかったです。筆者は平日の昼下がりに利用しましたが、地元の常連客等で賑わっていました。
 
出入り口付近にひっそりと掲示されていた「私募債」の案内は、こんな概要です。
 

 ◇募集単位   1口200万円(後日確認したところ、上限20口)
 
 ◇利率      年1.1%
 
 ◇プレミアム   日帰り温泉無料入浴券を1口当たり年間60枚提供
 
 ◇償還      随時可能

 
観光ホテルや日帰り温泉施設を経営する会社(株式会社)が発行する社債(会社の借金証書)です。プレミアムを1枚800円で計算すると、金利(税引き前)と合わせて年間に受け取れる経済メリットは7万円。元本に対して3.5%となります。
 
償還は随時可能となっていますが、会社の信用度合いをどう見るのか。償還のリスク(将来の不確実さ)と比べて金利水準をどう評価するか。また、週1回以上のペースで通えるくらい大量の入浴券をどう使い切るか。投資を検討するとしても、地元の方に限られてくるような気がしました。(後日確認したところ、完売となったそうです)
 

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あまり見かけない「少人数私募債」とは

社債は、通常は証券会社などで募集している。発行するのはかなり大きな会社だ。そんなイメージもあります。先述のように、ローカルで比較的小さな会社が直接募集し、総額も4000万円ほどというのは、特殊な気がしませんか。
 
実はこれ、「少人数私募債」といわれるもの。中小企業の資金調達手段の1つになっています。社債を発行するにはいろいろな規制がありますが、次のような条件を満たす場合に規制緩和され、小規模な資金調達をしやすくしたものです。
 

(1)株式会社など会社法人であること
(2)引き受けるのは49名以下(自社の役員、従業員、親戚、友人、取引先といった縁故者など) 
(3)1口が発行総額の50分の1以上(社債発行口数が49以下)
(4)発行総額1億円未満

 
企業が投資家から直接資金調達をする「直接金融」のやり方の1つですが、発行する側にとっては次のような特徴が挙げられます。
 

<メリット>

●銀行借り入れよりも有利で長期的な資金調達になる場合がある。
(元利の毎月返済や担保設定が不要になり、より低利になる可能性もあるなど)
●発行する際の安心感がある。
(株式発行と違って株主を増やすわけではないので、経営権が保持できる。また、資金の出し手は縁故者など気心の知れた相手先に限られる)

 

<デメリット>

●募集総額や発行口数が限られる。
●元本償還請求に備えた資金の準備や手当てが必要になる。
●詳細な事業計画の提示が必要。

 

まとめ

比較的小口の資金調達手段としては、「クラウドファンディング」とか「ソーシャルレンディング」といった名を最近よく聞きます。「クラウドファンディング」(crowdfunding)とは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して不特定多数の人たちが少しずつ資金を出し合う形態です。
 
日本で始まってから、まだ10年ちょっと。新興のシステムでネットを通じて誰でも参加でき、金額単位も1万円くらいから可能。資金を提供する立場でも調達する立場でも、従来のやり方よりも幅広い対象や展開が期待できて、市場規模も大きく拡大しています。
 
一方、少人数私募債は、ある程度の歴史がある制度。ローカルな縁故社会に根ざし、必要金額と口数制限の関係から1口の金額が百万円単位にかさむことも珍しくありません。
 
先述のような素晴らしい眺望と温泉を満喫した湯上がりに、ふと見かけた私募債の案内。その内容や展開環境を見ると、最近はやりの新世代ではなくて旧世代のような存在に思えました。
 
実際に出会う機会があるかどうかはともかく、こんな資金運用手段もあることを覚えておいてもよいかもしれません。
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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