「転職するのが当たり前の時代」と聞いたけど、転職を繰り返すことで起こる「金銭面」でのデメリットはないのでしょうか?
配信日: 2025.04.16

そこで本記事では、転職によるメリット・デメリット・注意点について解説します。

執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
転職者と転職希望者
終身雇用制度が薄れつつある現代では、一つの企業にとどまるよりも、複数の職場を経験しキャリアアップを図る人が着実に増えています。
総務省で実施した過去10年間の四半期ごとの調査(正規従業員)をみると、転職者は、コロナ禍にいったん減少した後に回復基調にあり、全体としてなだらかな右肩上がりであることが分かります(※1)。
(総務省統計局労働力人口統計室「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」)
一方、転職希望を持つ人の比率は、就業者の6人に1人の割合まで大きく増加してきました。今後、転職希望比率の高まりに引っ張られるように、転職者数も上昇を続けることが予想できます。
転職を繰り返すことによるデメリットとリスク
ここでは、転職を繰り返すことで発生するデメリットとリスクをみていきましょう。以下で、主なデメリットとリスクについて説明します。
(1)退職一時金が増えない
自己都合退職では、本来の退職金額に減額率が設定されている場合や、一定以下の勤続年数だと退職金を支給しない会社が多くみられます。必ずしも勤続年数分はもらえる、というわけではないのです。自己責任で不足分の老後資金を準備する必要があります。
(2)企業年金がもらえない
確定給付企業年金の場合、年金で受け取れるのは、通常一定以上の勤続年数がある社員です。要件が満たない場合、脱退一時金として受け取ります。脱退一時金を他で運用することは可能ですが、退職でもらうたびに日常の支出に充ててしまうと、大切な老後資金を失います。
(3)年金の空白期間
かつて、「年金記録問題」が社会問題になりましたが、年金記録の「もれ」や「誤り」が生じる主な事例の一つに、転職時の手続きが挙げられます(※2)。転職の多い方は、「ねんきん定期便」で毎年必ず年金記録を確認しましょう。
(4)有給休暇が増えない
有給休暇の残日数は、次の会社に持ち越せません。勤続年数がリセットされるので、転職を続けている間は、有給休暇日数の少ないことが多いでしょう。
(5)住宅ローン審査への影響
金融機関への調査では、「融資を行う際に考慮する項目」の上位5番目に「勤続年数」が入りました(※3)。転職が多い方にとっては気になるでしょう。金融機関により判断に差はありますが、転職直後であれば、勤続年数の短さを補うプラス要素を挙げておきたいものです。
転職を重ねて得られるもの
次に、転職を重ねる働き方のメリットの例と、それを支えるような周囲の変化について解説します。
(1)給与アップの可能性
より高い報酬の企業へ移ることで、生涯年収の増加が期待できます。
(2)キャリアアップの実現
適切な時期に経験を積むことで、次により高度で役割の大きいポジションに就きやすく、他社からオファーを受けるチャンスも増えます。
(3)働きやすさ
転職により企業規模が大きくなる場合、福利厚生の充実や諸手当、休暇、柔軟な働き方、先進的なオフィスや機材など、よりよい環境を享受することが期待できます。
(4)働きがい
自分のキャリアデザインに沿った企業に合流し、その企業が培った業績や有形無形の資産、人材等を活用して、より大きな仕事を成し遂げるチャンスを得られます。自分でも気付かなかった能力や適性を開拓し、キャリアの選択肢が広がるかもしれません。
(5)転職の決め手は自分の能力
転職者の報酬やポジションの決定に、「経験・能力・知識」が重視されているとの調査結果があります(※4)。前職の賃金や役職より実力本位で処遇が決まる傾向は、転職でキャリアアップを目指す追い風といえます。
(厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」)
転職を成功につなげる
ここ最近、働く人の環境が大きく変化してきています。政府のいわゆる「骨太の方針」に示された労働市場改革(※5)では、リスキリングによる労働者自身の職務選択や、成長分野への労働移動、ジョブ型雇用の推進などが挙げられており、すでに具体的な施策が企業レベルに降りてきています。
また、副業や兼業へのハードルも大きく下がり、DC年金のポータビリティは老後資金形成への不安をひとつ軽減しました。これらは、転職を積み上げてキャリアアップを図る働き方を、政策面から下支えするものといえるでしょう。
ただ、会社を何度も変わることは、生涯収支の見通しをつかみにくくする側面があります。転職後の生活費、収支をシミュレーションし、生活の安定と当面のライフイベントを乗り切れる見通しを持つことがとても大事です。
そして、老後まで長い目でみた家計状況や必要資金の過不足を、定期的に確認し見直すことが欠かせないでしょう。
出典
(※1)総務省統計局労働力人口統計室 直近の転職者及び転職等希望者の動向について
(※2)日本年金機構 年金記録問題とは?
(※3)国土交通省 民間住宅ローンの実態に関する調査(令和6年度)
(※4)厚生労働省 令和2年転職者実態調査の概況
(※5)内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2024
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員