更新日: 2019.01.10 その他暮らし

奨学金批判のウソ! 奨学金に対する3つの誤解

執筆者 : 新美昌也

奨学金批判のウソ! 奨学金に対する3つの誤解

以前ほどではありませんが、未だに日本学生支援機構の奨学金への批判が後を絶ちません。

正しい批判は大いにすべきだと思います。しかし、奨学金のしくみについての誤解(無知)に基づく誤った批判は見過ごすことができません。

彼らの発言によって、奨学金の利用をあきらめて、進学を断念してしまうかもしれないからです、奨学金のしくみを正しく理解しましょう。
新美昌也

Text:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

 

誤解1 借りた金額よりも返済総額が高すぎる

 

返還誓約書に記載された利率3%で計算された返還総額を見て、「現在、私の借りている住宅ローンは、変動金利とはいえ、金利が1%を超えたことはない。住宅を購入するための金利をはるかに超える金利が、教育を受けるために課されている。驚くべきことではないか。」というのが典型的な反応です。

しかし、返還誓約書に記載された返還総額は、仮に同じ貸与月額を卒業時まで借り、卒業時の金利が仮に3%とした場合の見込み額にすぎないのです。

たとえば、月額12万円を4年間借りると、返還誓約書には、借入金額の見込み額570万円と利率3%で計算した返済総額約775万円が記載されます。なぜ、利率3%で計算してあるかというと、利率は貸与終了時(卒業など)に決まるからです。3%というのは利率の上限です。

では、実際の利率はどのくらいでしょうか。日本学生支援機構の利率の算定方式には「利率固定方式」とおおむね5年ごとに利率を見直す「利率見直し方式」があります。平成29年3月時点で、「利率固定方式」は0.33%、「利率見直し方式」は0.01%です。月額12万円を4年間借りた場合の元金は570万円、返還総額は利率3%では約775万円ですが、利率0.33%では約596万円になります。

過去10年間の3月時点の利率を見ると、最も高かったのは、「利率固定方式」で1.52%(平成21年)、「利率見直し方式」で、0.9%(平成9年)です。

一般的な金融機関では、貸付の申込時に返済能力に関する審査をします。返済能力がなければ貸付けをしません。しかし、機構奨学金は申込み時に返済能力のない学生にも進学の機会を与えるために低利で奨学金を貸しつけている点は素晴らしい、と思います。

 

誤解2 奨学金を借りても返せない

 

機構奨学金は貸与終了(卒業など)後7か月目から返還が始まり、3か月延滞すると、いわゆるブラックリストに載り、さらに、延滞が続くと4か月目から債権回収会社に回収が委託され、9か月を過ぎると、返還未済額等の一括請求がなされ、最終的には法的措置がとられ、強制執行に至ります。

機構の資料によると平成27年度、3か月延滞している人は16万5千人います。けっして少ない人数ではありませんが、返還者数全体(約393万人)からみると4.2%にしかすぎません。

月額8万円を4年間借りた場合、返還額は利率3%では、20年間、月額2万1531円、利率0.33%では、月額1万6561円です。月額8万円というのは私大文系の学費を賄える水準です。一流企業ではなくても就職できれば返還できる金額だと思いますがいかがでしょうか。

 

誤解3 サラ金並みに取り立てが厳しい

 

債権回収会社は、「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づく法務大臣の許可を受けた会社です。債権回収にあたり、人を威迫したりするようなことは禁止されています。債権回収会社が返還者の職場を訪問して返還を求めることや勤務先に電話することは基本的にはありません。

自宅へ何回も連絡したにも関わらず、連絡がつかなかったときに、やむを得ず勤務先に電話したり、訪問するというのが実態ではないでしょうか。

もし、返還が困難になりそうなときは、一般の金融機関と異なり、「返還期限の猶予」や「減額返還制度」などのセーフティーネットがあります。「返還期限の猶予」は通算10年間返還を先延ばししてくれる制度です。なお、猶予期間中、利息は付きません。

利息付き奨学金は借金ですので、安易な気持ちで利用すべきではありません。しかし、返還リスクに必要以上に慎重になり過ぎて、学びたいことがあるのに奨学金の利用を断念するのはチャンスを逃します。奨学金を借りることで学びたいことが実現できるのであれば利用をためらうことはないと思うのですがいかがでしょうか。

 

 
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。

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