更新日: 2022.05.30 働き方

パート主婦が夫の扶養から出る場合、収入が150万円を超えないと損するって本当?

執筆者 : 辻章嗣

パート主婦が夫の扶養から出る場合、収入が150万円を超えないと損するって本当?
夫に扶養されているパート勤務の妻は、社会保険料を負担することなく国民年金の第3号被保険者、および夫の健康保険の被扶養者となることができます。
 
しかし、妻の年間の収入が130万円の壁を越えると、夫の扶養から外れ、自分自身で社会保険料を負担することになります。
 
今回は、パート勤務の妻が夫の扶養から出て働く場合に、社会保険料を差し引いた実質的な収入を増やすことができる収入額について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

夫に扶養される妻の要件とメリット

1. 夫に扶養される要件

会社員などの夫に扶養されるためには、夫に主として生計を維持されており、年間収入が130万円未満である要件を満たす必要があります(※1)。
 
なお、年間収入とは過去の収入ではなく、年間の収入見込み額のことをいいます。
 

2. 夫に扶養されるメリット

会社員などの夫に扶養されている妻は、自分自身で社会保険料を負担することなく、以下のメリットを受けることができます。夫が収入に応じて負担する社会保険料は、被扶養者の有無によって変わることはありません。
 
(1)国民年金の第3号被保険者となることができる
国民年金保険料を負担することなく、第3号被保険者としての保険料納付済期間が将来の老齢基礎年金に反映されます(※2)。
 
(2)被扶養者として夫の健康保険から保険給付を受けられる
健康保険料を負担することなく、被扶養者として夫の健康保険から病気やケガ、死亡、出産について保険給付を受けることができます(※3)。
 

130万円の壁を越えて働く場合、年収152万円以上でプラスになる

パート勤務の妻の年間収入が130万円を超えますと、夫の扶養から外れるため、自分自身で社会保険料を負担する必要があります。これは「130万円の壁」と言われており、その額を超えないように勤務時間や日数を調整している方が多く見られます。
 
なお、2016年10月からの短時間労働者の社会保険の段階的な適用拡大により、現在、従業員数が501人以上の特定適用事業所で働くパートタイマーの方は、月額賃金が8万8000円(年収106万円相当)を超えるなど一定の要件を満たすと厚生年金・健康保険の被保険者となります。
 
さらに2022年10月からは、特定適用事業所の従業員数が101人以上に拡大され、雇用期間の要件も1年以上の見込みから2ヶ月超に変更されることで、厚生年金・健康保険の被保険者となる方が増えることになります。
 
ここでは特定適用事業所以外で130万円の壁を越えて働いた場合に、社会保険料を差し引いた後の収入が130万円以上となり、実質的に家計がプラスとなる収入額について考えてみます。
 

1. 負担する社会保険料

(1)厚生年金保険料
厚生年金の保険料は、標準報酬月額(給与を一定の幅で区分した月額)と標準賞与額(税引き前の賞与の額から1000円未満の端数を切り捨てた額)に、共通の保険料率18.3%を掛けて計算され、これを労使で折半して負担します(※4)。
 
(2)健康保険料
健康保険料は、標準報酬月額に保険料率を掛けて求められ、労使で折半して負担します。健康保険料率は勤務先の企業が加入する健康保険ごとに違いがあり、例えば、全国健康保険組合が運営する「協会けんぽ」では、東京都内の企業に適用される保険料率は9.81%です(※5)。
 

2. 実質的な収入を考える

収入から負担する社会保険料を差し引いた、実質的な収入額を見てみましょう。
 
なお、以下の保険料(年額)については、年間収入とそれぞれの保険料率を基に労使で折半した概算値を用いて計算しています。

収入額 130万円 140万円 150万円 160万円
厚生年金保険料 0円 12万8100円 13万7250円 14万6400円
健康保険料 0円 6万8670円 7万3575円 7万8480円
実質的な収入額 130万円 120万3230円 128万9175円 137万5120円

(※4)(※5)を基に筆者概算・作成
 
従って、130万円の壁を越えて働く場合、実質的な収入が130万円を上回るためには下式のとおり、152万円以上の収入を得ることが必要となります。
 
152万円×{1-(9.15%+4.905%)}≒130万6364円 > 130万円
 

130万円の壁を越えて働くメリット

夫の扶養を外れる130万円以上の収入で働いた場合、以下のメリットがありますので、壁にとらわれない働き方を選択することをお勧めします。
 

1. 2階建ての年金制度を利用することができる

日本の公的年金制度は2階建ての構造となっており、夫の扶養の範囲内で働いた場合に適用される年金制度は1階部分の基礎年金のみとなりますが、130万円の壁を越えて働いた場合は基礎年金と厚生年金の2階建ての制度を利用できるようになります。
 
その結果、将来受け取れる老齢年金を増やすことができるとともに、障害年金や遺族年金においても保障内容が充実します(※6)。
 

2. 健康保険の被保険者として手厚い給付を受けられる

健康保険の被保険者となることで、被扶養者にはなかった以下の給付を受けられるようになります。
 
(1)傷病手当金
被保険者が病気やケガで会社を休み、事業主から十分な報酬を受けられない場合は、傷病手当金が最長1年6ヶ月の期間で支給されます(※7)。
 
(2)出産手当金
被保険者が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合は、原則として出産の日以前42日から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、出産手当金が支給されます(※8)。
 

まとめ

夫の扶養を外れる130万円の壁を越えて働くことにより、年金と健康保険の保障内容を充実させることができます。
 
ただし、社会保険料の負担によって家計が実質的なマイナスとならないように、152万円以上の収入を得ることができるか、働き方などについて留意しておく必要があるでしょう。
 

出典

(※1)日本年金機構 従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き
(※2)日本年金機構 国民年金の第3号被保険者制度のご説明
(※3)全国健康保険協会 被扶養者とは?
(※4)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※5)全国健康保険協会 令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)
(※6)日本年金機構 公的年金の種類と加入する制度
(※7)全国健康保険協会 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
(※8)全国健康保険協会 出産で会社を休んだとき
 
※2022/5/30 記事に一部誤りがあったため、修正いたしました。
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士