副業・兼業先で残業したら、残業代の支給はどうなる?
配信日: 2022.10.25 更新日: 2024.10.10
この場合、残業代はどのように計算され、どのように支払われるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
残業代が支給される副業・兼業とは
副業・兼業の働き方を大きく2つに分けると、業務委託や個人事業主として働く場合と、従業員として雇用される場合があります。主に、前者は自分の専門性を生かして会社の終業後や休日に活動し、後者は複数の仕事の比重を決め、時間や曜日で切り分けて勤務する働き方といえます。
このうち、副業先から残業代が支給されるのは、雇用されて勤務時間管理の対象になる後者です。「副業」よりも「兼業」あるいは「ダブルワーク」のほうがよりイメージが近いように思いますが、これから説明する副業・兼業は、この「雇用される働き方」が対象です。
本業との勤務時間は通算される
厚生労働省の「副業・兼業の場合における労働時間管理の解釈通達」(※1)によると、労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含むとされています。
具体的な通算方法の手順は次のとおりです。
(1) まず、労働契約を締結した事業場順に所定労働時間を通算し、
(2) 次に、所定外労働の発生した事業場順に所定外労働時間を通算する
この結果、事業場ごとに時間外勤務発生の有無を確認し、対象になる場合は割増賃金を支払います。
ということは、会社は他事業場の勤務時間が分からないと通算できませんね。どうするのでしょう?
解釈通達では、他事業場での労働時間は労働者からの申告等により把握する、としています。また、労働者からの申告がなかった場合には労働時間の通算は不要で、もし申告内容が事実と異なっていても、申告で把握した労働時間で通算することでよいとしています。
労働時間の把握が本人の申告任せとなること、もし正確に申告されたとしても各社の事務が非常に煩雑になること、などから実効性に疑問が残ります。
そのため、上記の原則的な管理方法と別に、「管理モデル」と呼ばれる簡便な労働時間管理の方法を設け、現実的な対応を提示しています。
残業時間の計算方法
原則的な管理方法では、前出の手順のとおり計算します。
(1) まず、労働契約を締結した順に所定労働時間を通算する
自社と他社の所定労働時間を通算して、自社の法定労働時間を超える部分は、時間的に後から労働契約を締結した事業場での時間外労働です。
【図1.】
もし、企業Aの所定労働時間が8時間なら、企業Bの労働時間はすべて法定外労働時間になります。
(2) 次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算する
自社と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、各社の法定労働時間を超える部分は、それぞれの会社の時間外労働となります。
下図のケースでは、所定労働時間の通算では法定時間外勤務は発生しませんが、所定外労働時間を通算すると発生します。この場合は、法定時間外労働の発生した企業Aが支払います。
【図2.】
毎日の勤務実績について、自社と他社で相互に把握し、自社分の残業代を正確に支払うのは大変そうです。
簡便な「管理モデル」とは、時間的に先に労働契約を締結した事業場の法定外労働時間と、後から締結した事業場の所定労働時間+所定外労働時間を合計した時間数が、労働基準法上の時間外労働の上限規制の範囲内となるよう、事業場ごとに事前に労働時間の上限(枠)を設定しておき、その分の割増賃金を支払う方法です。
労使双方の負荷を軽くしながら、労働基準法の最低労働条件が守られやすくなる方法ですが、決して上限まで設定してよいというわけではなく、長時間残業にならない配慮が必要になります。
最後に
残業時間の算出には、通算労働時間の把握という難しい問題を避けて通れないことがわかりました。健康管理の面から見れば、長時間労働の影響は残業代のない業務委託や個人事業主の働き方でも同じでしょう。ただし、管理されないだけ、セルフマネジメントが重要になります。
複数社に雇用される場合は、自分自身が両社の勤務管理方法をよく確認するのはもちろんのこと、各社の人事総務部門にも相互に労働契約内容を認識してもらう必要があるでしょう。
出典
(※1.)厚生労働省 副業・兼業 施策情報/副業・兼業の場合における労働時間管理の解釈通達
(※2.)厚生労働省 副業・兼業 施策情報/副業・兼業の促進に関するガイドライン
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員