更新日: 2023.02.07 その他家計

令和時代の家計は経済成長がなければ可処分所得が減る可能性が高くなる?

執筆者 : 重定賢治

令和時代の家計は経済成長がなければ可処分所得が減る可能性が高くなる?
※この記事は2023年1月10日時点の情報を基に執筆しています。
 
前回に引き続き子どもに施す金融教育として、今回からわが子が大人になったときを想定した投資初心者向けガイダンスをお伝えする予定でしたが、2022年12月に日銀が事実上の利上げをしたことで日本経済の流れが大きく変わろうとしているため、今回は筆者が感じる、今後の社会経済的な変化について説明していきたいと思います。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

2022年は大局の変節点になった年

まずは2022年の大局的な変化ですが、意識しておく必要がある点は大国が大きく変節してきたことでしょう。ウクライナ戦争や台湾有事の可能性に象徴されますが、アメリカやイギリスなどの陣営と、ロシアや中国などの陣営の対立が、目に見える形で表れてきたことは周知の事実です。
 
このような大国のさま変わりは「脱グローバリズム」という言葉とセットで語られ、イデオロギー的には行き過ぎた自由をいかに管理・統制すべきか、経済的には自国の経済をどのように守るかといった経済安全保障という概念を、広く私たちに知らしめることとなりました。
 
近年、トランプ現象という言葉に象徴されたように、過度のグローバリズムに対する大きな揺り戻しが起こっているといわれていましたが、2022年は歴史的な大転換が極めて目立った年だったかもしれません。
 
個人的に注目したのは、サウジアラビアが中国との石油に関する貿易決済を人民元建てで行うという報道です。
 
マネーの流れに大きな変化があるとは言い切れませんが、軍事的にも経済的にも、アメリカと強い関係性を維持してきたサウジアラビアが、このような形で中国との関係強化を模索しているとするならば、今後はドル基軸通貨体制に多少の影響が及ぶことを想定しておく必要があるかもしれないと考えています。
 
また、脱グローバリズムにより高まった経済安全保障への意識は、それまでの非常に広範な自由貿易を阻害する要因になるため、必然的に石油資源や鉱物資源、食物資源などの資源価格が、かつてと比べ慢性的に高くなることにつながる可能性があります。
 
これらの資源の輸入依存度が高いわが国にとっては、企業の経営コストが上昇しやすくなり、生活コストも上がっていくことになるため、生活防衛という意識が今後はますます高まってくるのではないかと危惧しています。
 

税制でも変節となった2022年

このような大きな流れのなかで、昨年末、わが国においては防衛費の増額が取り上げられ、「防衛増税」なる言葉がニュースなどをにぎわしました。多くの国民がこの話題に関心を寄せ、近い将来の増税を意識した方も多いことと思います。
 
これに関連しているかどうかはさておき、2022年12月、日銀は事実上の利上げを行いました。日銀の黒田総裁は記者会見で「利上げではない」ことを強調していましたが、確かに長期国債(10年物国債)における指値オペの幅を単に変更したにすぎないため、政策金利を引き上げるという意味での金融引き締め政策への大転換ではありません。
 
しかし、長期国債(10年物国債)の利回りの変動幅の上限をこれまでの0.25%から0.5%に引き上げたことは、市場関係者に将来の「利上げ」を想起させ、これをもって「事実上の利上げ」と受け止められました。
 
日銀の次の一手を読むならば、いわゆるマイナス金利政策の解除が想定されますが、政策金利である無担保コール翌日物レートの引き上げが可能性としては考えられるでしょう。現在の無担保コール翌日物レートは、-0.1%を上限に制御されていますが、例えば±0.0%にするなどの上限引き上げは視野に入れておく必要があると思われます。仮にこうなった場合、本当の意味での利上げ開始です。
 
ただし、今後いずれかのタイミングで世界経済が景気後退局面に入る可能性があれば、日本経済にも大きく影響が出るため、そうしたタイミングで日銀が利上げを実施するとは考えにくいかもしれません。
 
しかし、日銀がマイナス金利政策を解除する場合、短期金利が-0.1%から±0.0%になるだけで日本経済にはそれほど大きな影響はないとし、ゼロ金利政策を維持するという名目の下で利上げを実施する可能性は高いように思われます。
 
ここからは多少うがった見方になりますが、仮に本当の意味で利上げが実施されるようになった場合、政府にとっては国債の利払費が増えることになります。利払費とは利息のことですが、利払費が増えるということは、国の歳出が増えることにつながるため、これを理由に増税をしなければならないといった議論が将来的に沸き起こる可能性があります。
 
防衛増税、利上げ、そして歳出増による増税議論の強化と、2022年の終わりに私たちの目の前には増税というレールが敷かれました。今後、国民はそのレールの上を我慢しながら歩いていかなければならないのかもしれません。
 

少子化対策の拡充は社会保険料の増加を意味する

年が明け、「異次元の少子化対策」の中身が少し見えてきました。
 
具体的には「国民1人あたりの月額保険料を総額で数百円程度引き上げ、全世代で子育てを支える仕組みを構築する」という内容です。また、現役世代や高齢者が加入する社会保険の保険料を少しだけ増額することが検討を進めるとのことです。
 
これまで支援が行き届かなかった人々も対象とすることで、社会全体で子どもたちのために支援の輪を広げようという政策意図があるようです。
 
おそらく今後、異次元の少子化対策について多くの賛否両論を耳にすることになると思いますが、おおむね、子どものために大人が負担するのは仕方ないという点で落ち着くように思います。これは防衛増税のときにいわれていた、「国を守るためには増税は致し方ない」という理屈と似ています。
 
個人的には防衛増税でも思いましたが、少子化対策も中身をしっかりと議論してほしいと考えています。
 
社会保険料の増加は避けられないことは分かりますが、現役世代や高齢者が納める保険料を少し引き上げ、それを財源の一部にして子育て支援に充てていくことになるため、特に子どものいない世帯や子育てが終わった世帯にとっては可処分所得が減少しやすくなるでしょう。
 
一方、子どもがいる世帯にとっては、社会保険料が多少上がったとしても、教育関連費について何らかの経済的支援を受けることができるため、可処分所得が少し増えることが予想できます。
 
国の予算配分で考えた場合、少子化対策は必然的に財源の移転を伴うことになりますが、今後10年、20年、30年は、ますますこのような傾向が強まると考えておく必要があるのではないでしょうか。そうであれば、特に現役の子育て世代が想定すべきことは子どもが独立した後の人生です。
 
子どもが独立すると、その世帯は子育て世帯ではなくなるため、社会保険料の負担が増える対象になります。つまり、退職準備世帯やシニア世帯になるため、特に老後の生活においては、それまでのライフステージ(子育て期)と比べて社会保険料の負担を強く感じやすくなります。
 
老後の生活はどうなるのか、家族が病気や要介護状態になった場合はどうすべきか。子育てが終わった現役世代では、こうした問題に対してどのように備えていけばいいのか早めに考えなければならないという人が、今まで以上に増えていくでしょう。
 

まとめ

今回は経済の成長力が乏しいわが国が、近い将来に増税や利上げ、社会保険料の増加といった政策を実施する場合、国民の暮らしにどのような影響があるのか探ってみました。
 
一言でいうと、可処分所得が減少する可能性が高まるということです。一方、将来のことも同時に考えるため、今まで以上に老後に向けた準備を真剣に検討しようとする人が増えるでしょう。
 
これからは子育てと老後の備えについて、かつてのように両立させることは難しく、どちらかを取れば、どちらかを失うことになるように思います。令和がいつまで続くかは分かりませんが、経済成長が実現しないかぎり、国民の可処分所得がはっきりと減っていく時代になるかもしれません。
 
次回は、このような機会損失の時代に、いかにして家計の面で備えていくか考えてみたいと思います。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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