更新日: 2024.10.10 働き方
2023年。年収の壁は解消される?
そんな中、現首相が「一定の年収を超えると社会保険料などの負担が生じて手取りが減る年収の壁」を解消するという案を表明しました。この案の実行は、早ければ10月から始まるそうです。今回は「年収の壁」を超えるかどうか考えるためのポイントを考えてみましょう。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
目次
103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁。「扶養」にはいくつも壁がある
「夫の扶養内で働きたいという妻」や「アルバイトをしすぎると、親の扶養から外れますか? と聞いてくる子ども」からの質問を受ける場面は多くあります。
この質問に対して、「税金を支払いたくないから?」、それとも「国民健康保険料や国民年金保険料を支払いたくないから?」のどちらかを本人に確認しようとすると、税法上の扶養なのか社会保険上の扶養かよくわかっていないということもよくあります。
社会保険の拡大の方針により、月収8万8000円(年収にして約106万円)以上で働くと、社会保険に加入し保険料を支払う義務が発生します。また、130万円未満で働いて扶養家族のままなら、国民年金や国民健康保険料を支払わないで済みます。103万円を超えれば所得税も一緒に支払うことになります。
このような事情から、年末に向けて、「扶養の範囲から外れると困るからシフトを少なくしてください」と申し出るときには、取りあえず勤務を減らしてしまうという方も多いでしょうが、どの壁を目指しているのかを考えて「扶養の範囲内で働くかどうか」考えたほうが良いということです。
手取りが減ることが損ではないという選択肢も考えてみよう
年収の壁を超えることで、所得税や社会保険料が天引きされることになり、かえって手取りが減ってしまうという現象のため、働くことを控えていくと、いわゆる年収の壁を超えられないという状態になります。税金や社会保険料を支払って、手取りを減らさないという逆転現象を起こすために、今回の制度改正において事業主への助成が決定したわけです。
ただ、「社会保険料を支払うこと」は損でないという考え方もあることは知っておいていただきたいものです。厚生労働省の社会保険適用拡大サイト(※)を見てみましょう。
メリットは2つ挙げられます。1つは年金が2階建てになること。2つ目は、病気になった場合、もしくは産休をしても補償があることです。年金を2階建てにすることで、公的年金を充実させ、老後生活の不安を和らげることができます。病気で休業した場合や産休を取得して給料がなくても、給与の3分の2相当額が補償されます。病気休業の場合、通算1年6ヶ月取得できますので、民間保険の負担も少なくできます。
社会保険上、配偶者の扶養内で働くことは、「今の負担が少ない」というメリットかもしれませんが、扶養を外れることで、「病気や老後など将来のリスク負担を減らす」ことにつながるという考え方もあるのです。
「年収の壁」を壊す制度は、労働者が受け取れるお金ではない
今年は扶養内で働くことを目指して働き方をセーブしている方に、もっと働いてもらう助成制度の創設が、雇用保険を財源として行われることが何度も報道されました。
もともと雇用保険は、「失業したとき」「再就職したとき」「職業訓練をするとき」「育児休業をするとき」「介護休業をするとき」など、労働者が働き続けて雇用保険料を支払い、給付の条件を満たした方に対して、雇用保険の給付が受け取れるという仕組みです。
コロナ禍で休業した事業所が多く、利用した雇用調整助成金のように、直接事業主に支給される助成金もありますが、年収の壁を超えるための助成のような制度はこれまでの雇用保険にはなかった新しい制度です。
新聞などの報道でも「年収の壁を壊すため」という目的が大きく報道されたために、「事業主に対して支給される」という部分が小さく報道されがちです。今後、扶養から外れて働こうと思っている方は、直接自分が受け取れると誤解しないようにしておきましょう。
いずれにせよ、年末に向けて労働調整されることを考えている方は、この助成制度によって、社会保険加入の手続きを勤務先から勧められることもあるでしょう。ただ、助成は事業主に行われて、労働者に金銭は支給されないことは覚えておいてください。もし、壁を超えて働くのであれば、自分が加入している医療保険や年金保険などの見直しをしつつ、将来のライフプランを考えるきっかけにするとよいでしょう。
出典
(※)厚生労働省 社会保険適用拡大ガイドブック
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。