更新日: 2024.10.10 働き方
大企業が「賃上げ5%以上」を目指す一方で、「中小企業」でその動きが鈍いそうです。一体なぜですか?
とはいえ、現実的に「賃上げ5%以上」を目指しているのは一部の大企業だけで、中小企業に至っては、その多くがまだまだ積極的ではありません。本記事では、連合が「賃上げ5%以上」を目指す背景や、中小企業でその動きが鈍い理由などを解説します。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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「春闘」とは何か?
春闘(春季生活闘争)とは、2〜3月頃にかけて行われる、労働組合と企業側との賃金や労働条件に関する話し合いです。多くの労働組合では2月頃から、新年度(4月)の賃金や労働条件に関する要求を経営者に提示します。この要求に対する企業からの回答が3月頃になることから、この期間の要求や交渉を総称して「春闘」と呼んでいます。
・春闘の要求とは
春闘で労働組合が必ず要求するのは「賃上げ」です。春闘における賃上げには、「ベア(ベースアップ)」と「定期昇給」があります。ベアとは基本給の底上げのことで、定期昇給は勤務年数などに応じて上がっていく賃金のことです。
春闘では、一般的にベアと定期昇給の両方が要求されます。また、賃上げの他にも、労働環境や労働時間などに関するさまざまな要求を行います。
・連合の役割
春闘の要求や交渉は各企業の労働組合が行いますが、そのまとめ役を担っているのが、700万人の組合員が加盟する連合(日本労働組合総連合会)です。
そのため、賃上げに関しても、連合が社会全体の経済状況や労働者の現状を見渡したうえで、全体方針を決定しています。その方針を受けた産別(産業別組織)が具体的な要求水準を決定し、単組(組合)がその水準に沿って要求をまとめて交渉します。
「賃上げ5%以上」を目指す背景とは
連合が2024年の春闘の目標に「賃上げ5%以上」を掲げた背景には、物価に賃金の上昇が追いついていない現状があります。2023年の現金給与総額は、前年比1.2%の上昇でした。これは、3.58%という、約30年ぶりの大幅な賃上げが実現した結果です。
ただ、その一方で、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)が前年比3.1%上昇したため、実質賃金は2.5%の減少となっています。このようなことから、連合では2024年の春闘に「賃上げ5%以上」という目標を掲げて、物価高を上回る賃金を実現させようとしています。
中小企業が「賃上げ5%以上」に消極的な理由
「賃上げ5%以上」を目指すことに対して、大企業と比べると、中小企業の動きは鈍い傾向にあります。その理由としては、原材料費などの高騰、人件費の上昇、コスト高を価格に転嫁できない特有の事情などが挙げられます。
・原材料費などの高騰
2022年に原材料費や資源価格の高騰が原因で、経常利益がマイナスになった中小企業の割合は約65%でした。2020年は40%程度だったことから、その後2年間の原材料費や資源価格の高騰によって、体力を奪われている中小企業が急激に増加していることが分かります。
・人件費の上昇
連合によると、2023年の中小企業(組合員300人未満)の平均賃金上昇率は、組合員1人あたり3.23%でした。慢性化しつつある人手不足の中で労働者を確保するためには、中小企業も一定程度の賃上げが必要になります。
ただ、多くの中小企業にとって、「賃上げ5%以上」というのは体力的に厳しいというのが現状です。
・コスト高を価格に転嫁できない
中小企業の多くは、大企業の下請けです。そのため、生産コストが上昇したからといって、その分の価格転嫁を取引先に求めるのは簡単なことではありません。
中小企業の中には、原材料費や資源価格の高騰分に関しては、交渉が可能な企業もあるでしょう。ただ、賃上げ分の価格転嫁まで取引先に求められる中小企業は、それほど多くないのが現状です。
春闘とともに、中小企業の課題解決のための動きにも注目しよう
前年の中小企業の平均賃金上昇率を考えると、どれくらいの企業が「賃上げ5%以上」を実現できるかは不透明な状況です。とはいえ、日本では、労働者の7割近く(2016年時点)が中小企業で働いています。
そのため、中小企業の賃金が物価高を上回らなければ、国全体の経済活性化は期待できません。中小企業が抱える課題の解決には企業努力とともに、国、連合、経団連、その他の関係機関などの取り組みが重要になります。春闘の行方とともに、中小企業の課題を解決するための動きにも注目していきましょう。
出典
厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報
総務省統計局 全国(最新の年平均結果の概要)
連合 2023春季生活闘争 第7回(最終)回答集計 平均賃金方式(2022年7月5日公表との比較)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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