更新日: 2022.06.07 年収

「10年前と比べて法人税が下がっているのに…」なぜ給料は増えないの? その理由と仕組みは?

「10年前と比べて法人税が下がっているのに…」なぜ給料は増えないの? その理由と仕組みは?
国税庁の「令和2年分民間給与実態調査統計」によると、令和2年分の平均給与は約433万円です。10年前(平成22年分)の平均給与は、同資料によると、412万円です。単純に計算すれば、10年間で平均給与は21万円(約5.1%)増えたことになります。
 
この間、会社が積極的な投資や賃上げを行える体質になるよう、法人税率は引き下げられました。平均給与が増えているため、法人税率の引き下げによる効果があったようにも捉えられます。しかし、実際問題として、給料が増えていないと感じられる方も多いのではないでしょうか。
 
本記事では、10年前と比較して法人税が下がっているのになぜ給料は増えないのかについて、解説します。
中村将士

執筆者:中村将士(なかむら まさし)

新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
 
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。

法人税率引き下げの恩恵をより受けたのは主に大企業

法人税利率は、法人の種類、資本金の額、所得金額に応じて異なります。一般的な会社は「普通法人」に分類されます。普通法人の場合、現在の法人税の税率は、下表のとおりです。

 

区分 税率
資本金1億円以下の法人など 年800万円以下の部分 下記以外の法人 15%
適用除外事業者 19%
年800万円超の部分 23.2%
上記以外の普通法人 23.2%

出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」より筆者作成
 
一方、平成22年の法人税率は、下表のとおりです。

 

区分 税率
資本金1億円以下の法人など 年800万円以下の部分 下記以外の法人 18%
適用除外事業者 22%
年800万円超の部分 30%
上記以外の普通法人 30%

出典:財務省「法人課税に関する基本的な資料」より筆者作成
 
現在と平成22年の法人税率の引き下げ幅は、資本金1億円以下の法人などの場合、「年800万円以下の部分」がマイナス3%、「年800万円超の部分」がマイナス6.8%です。それ以外の普通法人の場合、法人税率の引き下げ幅はマイナス6.8%です。
 
ここから、法人税率の引き下げによる恩恵をより多く受けられるのは「資本金1億円以下の法人であって、所得が年800万円を超える法人」と「資本金1億円超の法人」であると考えられます。
 

10年前と比べて給料の増加率が大きいのは資本金10億円以上の会社で働く方

法人税率の引き下げによる恩恵があったのであれば、それは平均給与にも表れている可能性があります。平成22年分の平均給与と令和2年分の平均給与について、株式会社の資本金階級別の平均給与を比較すると、下表のようになります。
 

  

  

株式会社
資本金階級
平均給与 増加率
平成22年分 令和2年分
2000万円未満 366.6万円 371.6万円 1.36%
2000万円以上
5000万円未満
386.2万円 404.4万円 4.71%
5000万円以上
1億円未満
398.7万円 412.8万円 3.54%
1億円以上
10億円未満
447.6万円 454.2万円 1.47%
10億円以上 553.4万円 607.6万円 9.79%
433.4万円 454.3万円 4.82%

出典:国税庁「令和2年分民間給与実態調査統計」「平成22年分民間給与実態調査統計」より筆者作成
 
資本金階級の「資本金1億円以上10億円未満」と「10億円以上」の欄に注目です。すると、資本金10億円以上の株式会社で働く方の平均給与は、増加率が高いです。一方、資本金1億円以上10億円未満の株式会社で働く方の平均給与は、増加率が高くありません。ここから、法人税率を引き下げることが、給料を増やすことに直結するわけではないということがいえます。
 

給料を増やすことは経営判断となる

法人税は、法人の所得に対して課税されるものです。計算式は「課税所得(益金から損金を差し引いたもの)×法人税率」です。法人税率を引き下げれば、会社に残るお金が増えるため、賃金(給料)が増え、景気が良くなることが期待されました。しかし、現実問題として、給料が増えたとはいえません。
 
会社の業績は、利益で評価されます。利益は、大まかにいえば収益から費用を差し引いたものです。給料は、会社から見れば費用です。給料を増やすということは、費用が増えることであり、収益が同じであれば利益が減ります。
 
給料を増やすかどうかは、経営判断となります。経営者としては、利益を確保することが最優先事項です。会社に資金を貯めておくことも重要です。資金を設備投資に回すかもしれません。利益や資金が十分にある場合は別ですが、給料を増やすことは、どうしても後回しになってしまいます。これが、法人税率が引き下げられても給料は増えない理由と考えられます。
 

出典

国税庁 令和2年分民間給与実態調査統計
国税庁 平成22年分民間給与実態調査統計
国税庁 No.5759 法人税の税率
財務省 法人課税に関する基本的な資料
 
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
 

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