『年収の壁・支援強化パッケージ』で、私たちの生活はどう変わる? 気を付けておきたいこと

配信日: 2023.12.24

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『年収の壁・支援強化パッケージ』で、私たちの生活はどう変わる? 気を付けておきたいこと
繁忙期にはパートやアルバイトにもっと働いてもらいたいところですが、会社員に扶養されている配偶者の場合、被扶養者のままでいたいがため、働き控えをしてしまう問題があります。配偶者手当が支給される会社でも、同様の問題があります。
 
そこで、対策として出されたのが「年収の壁・支援強化パッケージ」。働き控えの要因となる、「106万円の壁」「130万円の壁」「配偶者手当」への当面の対策に取り組むものです。サポート期間は2年ですが、そこからさらに制度の見直しが行われます。
林智慮

執筆者:林智慮(はやし ちりよ)

CFP(R)認定者

確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。

130万円、106万円の壁とは

会社員に扶養される配偶者(国民年金第3号被保険者)は、健康保険料の負担なしに保険診療を受けられ、年金保険料を負担しなくても将来国民年金がもらえます。被扶養者となる収入要件は、年収130万円未満、かつ、扶養をする人の収入の2分の1未満です。
 
収入要件を超えると扶養から外れます。自分で保険料を負担して健康保険か、加入要件を満たさなければ国民健康保険に加入しなければなりません。年金保険料も同様です。
 
その場合、支払う保険料以上に収入が増えなければ、手取りが減ってしまうのです。そのため、多くの人が働くことを控えるという問題がありました。これがいわゆる「130万円の壁」です。
 
また、短時間労働者でも、1週間および1ヶ月の労働時間が正社員の4分の3以上あれば、健康保険・厚生年金に加入しますが、4分の3未満であっても、健康保険・厚生年金保険の加入者が101人(令和6年10月からは51人)を超える事業所(特定適用事業所)に勤務し、


(1) 週の労働時間が20時間以上
(2) 2ヶ月を超える雇用が見込まれる
(3) 報酬が8万8000円以上
(4) 生徒や学生ではない

のすべてを満たすと、健康保険・厚生年金保険に加入となり、保険料を負担しなければなりません。(3)の報酬8万8000円×12ヶ月=105.6万円、これがいわゆる「106万円の壁」です。
 
ただし、健康保険・厚生年金に加入となる場合、保険料の負担(労使折半)はありますが、将来受け取る年金が増えることや、傷病手当金等、加入者であることのメリットを受けられます。
 

【130万円の壁】事業主証明による扶養認定の円滑化

被扶養者資格を認定されている方が、職場の繁忙期の人手不足により残業をしたため、「一時的に収入が増加」して130万円以上となる場合、次の被扶養者認定の際に事業主がその旨の証明を添付することで、被扶養者認定が迅速に行われるようにするものです。
 
一時的な事情での認定であるので、同じ者については連続2回までが上限とされます。「一時的な収入変動」とされる上限金額は設定されていませんが、扶養者の年間収入(別居の場合は扶養者からの援助額)を上回る場合は、被扶養者の認定が取り消されます。
 
今回の「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」については、令和5年10月20 日以降の被扶養者認定・被扶養者の収入確認に適用されるもので、その日より前の扶養認定や被扶養者収入確認まで遡及(そきゅう)されません。
 

【106万円の壁】キャリアアップ助成金に新コース

保険料を差し引いても手取りが減少しなければ、壁を意識しなくてもよくなります。キャリアアップ助成金にコースが新設されました。短時間労働者が新たに保険適用となる際、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対し、一定期間助成を行うものです。
 
労働者1人あたり、最大50万円の支援を受けられます。申請人数に上限はありません。令和7年度末までに、労働者に被用者保険の適用を行った事業者が対象です。
 
その他、社会保険加入することで、新たに発生した本人が負担する保険料負担を軽減するための「社会保険適用促進手当」を支給する場合も対象とされます。
 
社会保険適用促進手当の対象者は10.4万円以下の者で、上限額は標準報酬月額によります。社会保険適用促進手当は、給与や賞与とは別に支給されるため、被保険者の標準報酬の算定で考慮されません。
 

【企業の配偶者手当】見直しを促進

社会保険以外にも、企業による「配偶者手当」という壁があります。ここでも、「働かなかったらもらえるものが、働く時間を増やすことでもらえなくなってしまう」ことが働き控えの要因となっているためです。
 
配偶者手当を支給する企業は年々減少しており、配偶者手当を見直しし、子育て支援や障害者支援、能力に応じた処遇改善等に使う企業があります(厚生労働省 配偶者を対象とした手当に関する見直しが 実施・検討された事例等より)。
 
ただし、現在受給されている人にとっては不利益となる可能性がありますので、見直しは慎重に進めましょう。
 

出典

厚生労働省 年収の壁・支援強化パッケージ
厚生労働省 「年収の壁」への当面の対応策
厚生労働省 配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?いわゆる「年収の壁」対策
厚生労働省 配偶者を対象とした手当に関する見直しが実施・検討された事例等
首相官邸 年収の壁、突破へ
 
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者

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