遺言書をつくるには、いくらかかる?
配信日: 2018.04.02 更新日: 2019.01.10
意外によくたずねられる質問です。遺言書には種類があり、公証役場というところでつくってもらう遺言書が「公正証書遺言」ですが、費用がかかります。
ところが、遺言書についての記事や本等を見ても、多くは単に「費用がかかる」と記載があるのみです。それゆえ、「いったいどれくらいかかるのだろう? すごく高いのだろうか?」と迷うわけです。
ではなぜはっきりと費用が明示されていないのでしょうか。それは、公正証書遺言の費用は、その遺言に記載される相続・遺贈の財産額や相続人・受遺者の人数によって変わるからです。
さらに、ケース・バイ・ケースで加わる費用もあるため、一概に「これくらいかかります」とは明示しにくいのです。
ただ、そうはいっても、費用の例や目安だけでも知りたいという人のために、今回は、具体例を中心に紹介していきます。
Text:福島えみ子(ふくしま えみこ)
CFP(R)認定者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
マネーディアセオリー株式会社 代表取締役
リュクスセオリーFPサロン 代表
大学卒業後、都市銀行に入行。複数の銀行、法律事務所勤務中に、人生の悩みは結局のところお金と密接に関係することを痛感、人生をより幸せで豊かにするお手伝いがしたいとファイナンシャルプランナーに。FP会社にて勤務後、独立。これまで500件以上の個人相談を担当すると共に、セミナー、執筆と幅広く活動。相続・資産運用・住宅相談・リタイヤメントプラン等を得意とし、個人相談にも力を入れる一方で、セミナーや企業研修、執筆を通じてわかりやすくお金の知識を発信することに注力している。
そもそも公正証書遺言とは
その前に、「公正証書遺言」とは何かを確認しておきましょう。遺言書には、大きくわけて次の3つがあります。
このうち、思い立てば今日からでも作成できる手軽さがあるのが、自筆で遺言書を書く「自筆証書遺言」です。
手軽さが魅力の自筆証書遺言ですが、日付を忘れたりして必要な形式を損なうと、無効になってしまうおそれもあるうえ、いざ自分が亡くなったとき、誰にも存在を知られずそのままになってしまうおそれもあります。
そこで、公証役場で公証人に作成してもらい、公証役場で保管される「公正証書遺言」をつくるメリットがあるわけです。
公正証書遺言にかかる費用とは
公正証書遺言の費用は、基本的に相続や遺贈の財産額や相続人・受遺者の人数によると冒頭で述べました。まず、その遺言に記載される相続や遺贈の財産額による部分の手数料は、下記の表に基づき算出されます。
「目的の価額」の欄が、遺言の対象となる財産の価額です。この財産の価額による手数料は、相続人や受遺者ごとに個別に算出し、それを合算する点が注意点です。
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具体例で見てみると
では、具体例で見てみましょう。
【ケース】
●夫が遺言者
●妻と子ども2人(合計3人)に相続財産総額5000万円を残す遺言をする
●相続分を妻1000万円、子どもにそれぞれ2000万円ずつとする
「公証人手数料令」の表から、妻と子どもの相続財産額にもとづき、それぞれの手数料を算出すると、下記のとおりです。
配偶者 1万7000円
子ども1 2万3000円
子ども2 2万3000円
合計 6万3000円
さらに、全体の財産が1億円未満のときは、遺言1件につき「遺言加算」という手数料が1万1000円加算されますが、このケースもそれにあたるので加算します。
そして、公正証書遺言をつくると、公証役場に保存される原本と、遺言をした人に交付される正本・謄本が発行されますが、その用紙代についても4枚を超えた場合、枚数に応じた加算がされます。
●用紙手数料
原本(公証役場に保管) 4枚超のとき1枚につき250円加算
正本(遺言者交付) 1枚250円
謄本(遺言者交付) 1枚250円
●証人報酬(2人) 5000〜1万円(1人につき)
これを前提に、上記具体例で、かかる費用を算出すると、合計7万4000円となります。今回の例は、シンプルな遺言のため、遺言書の用紙は4枚以内として遺言書用紙は加算していません。
さらに公正証書遺言には、推定相続人や利害関係人以外の証人2名が必要ですから、その証人を依頼するならば、証人への礼金も費用に勘案しておく必要があります。
このほか、資料として提出する印鑑証明書等などの細々した費用も考えて、少し多めに見積もっておくに越したことはないでしょう。
同じ相続財産でも、費用が変わることも
いかがでしょうか? 具体例で費用を見ていただくと、公正証書遺言を作成した場合のだいたいの費用の感触をつかんでいただけたのではないでしょうか。
ただ注意しておくべきは、同じ相続財産額でも、相続分が変わると費用も変わる点です。
例えば先の具体例で、仮に相続分を変えて妻3000万円・子どもがそれぞれ1000万円ずつにすると、遺言加算を含んだ手数料合計は6万8000円となり、同じ相続財産総額5000万円でも先程の相続分の場合と比べて6000円の差が出ます。
とはいえ、手数料の多い少ないで相続分を決めるわけにはいかないでしょうから、相続財産総額が同じなら同じ手数料ではない、ということだけ知っておいていただければ十分です。
ただし、近い将来には事情が変わる可能性
ところで、ここまで公正証書遺言にかかる費用について説明してきましたが、公正証書遺言を検討する主な理由が、自筆証書遺言だと誰にも発見されないおそれがあるため、という人に朗報があります。
現在、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言の保管制度」の創設が検討されており、近い将来実施される見込みです。
さらに、すべて自筆で書き通さなければならない自筆証書遺言ですが、財産目録の部分はパソコン等で作成が認められる見込みであるとのこと。これらが実施されると、自筆証書遺言の使い勝手が格段によくなるため、公正証書遺言でなくともよいケースも増えてきそうです。
ただし、現在の時点では、具体的にいつから実施となるかがまだはっきりとわかっていないため、制度が実現するのを待つあまり、遺言書を残すべきタイミングを逸してしまわないようにしておきたいものです。
Text:福島 えみ子(ふくしま えみこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者 マネーディアセオリー株式会社 代表取締役 リュクスセオリーFPサロン 代表