子や孫への非課税贈与制度。条件が厳しくなる?
配信日: 2021.04.08
主なものは、教育資金、結婚・子育て資金、住宅取得資金の3種類ですが、非課税一括贈与については、富裕層に対する優遇措置との批判もあり、今後も議論になりそうです。
教育資金贈与の改正点
教育資金の非課税贈与は2013年から始まり、29歳以下の孫や子を対象に1500万円まで無償で贈与できる制度で、専用口座をつくり、教育資金に限定してその口座から支払うことが義務づけられています。
資金を使い切ると何度でも口座をつくり贈与できます。高校・大学などの入学金・授業料や、学習塾の費用などに利用できますが、生活費などはもちろん、お稽古ごとには原則使うことはできません。この1500万円という金額には、一切贈与税がかかりません。
例えば、4人の孫がいるケースを考えると、1人につき教育資金として1500万円、合計で6000万円を非課税で贈与できる計算です。もし孫の人数が多ければ、1億円以上を非課税で贈与することも可能になります。
教育目的とはいえ、所有財産の多くを、贈与税を払うことなく次世代へ移転できます。このため、これだけの財産をもっているのは富裕層に限られるため、彼らへの優遇措置だ、という不公平感を抱く人も多かったはずです。
2021年4月以降は、
(1)この制度の適用期間を2023年3月まで2年延長する
(2)未使用段階で贈与者が死亡した場合は、使い残しの金額は相続財産に加算する
(3)すでに孫に贈与し教育資金として利用中に贈与者が死亡した場合、残金にかかる相続税率は2割増とする
という内容に改正されました。
今後2年間、継続する一方で、未就学児が教育資金として利用する前に贈与者が亡くなった場合や、実際に教育資金として支払い中に贈与者が亡くなり、使い残しがある場合は、相続税課税対象になります。運用に関しては、これまでより厳しい条件になりました。
結婚・子育て資金、住宅取得資金の贈与
結婚・子育て資金の非課税贈与は、教育資金の贈与より遅れて2015年から始まりました。20歳以上の子や孫に対して、結婚式の費用や出産費用として、1000万円まで非課税で贈与できる仕組みです。教育資金の非課税利用と同様、専用の口座をつくり、そこから支払う仕組みです。
今回の改正では、
(1)制度の適用期限を2023年3月まで2年間延長する(教育資金と同じ)
(2)贈与者の死亡時に使い残しがある場合は、残った金額に対する相続税額を2割増とする
の2点です。
結婚などの予定がない人へ、資金の贈与はできませんので、教育資金の(2)に該当する項目はありません。教育資金同様、条件が厳しくなっています。
住宅取得資金の非課税贈与は、2015年から始まりました。1500万円までを上限に、子や孫の住宅取得を手助けする制度で、次の点が改正されました。
具体的には、
(1)制度の適用期限を2021年12月まで延長する
(2)4月からの非課税限度額の上限を最終変更し1500万円以下に据え置く
(3)購入物件の床面積を50平方メートル以上から40平方メートル以上に緩和する
(4)40平方メートルの住宅を取得する人の要件は、年間所得が1000万円以下とする
の4点です。
住宅取得資金の贈与に関しての主な変更点は、これまでは床面積50平方メートル以上の住宅で、贈与を受ける人の年間所得3000万円以下だったものを、床面積40平方メートルと狭い住宅にも適用した半面、この住宅の贈与を受ける人の年間所得を1000万円以下にしました。
また、非課税となる金額は、当初案は1200万円でしたが、最終的に1500万円に据え置きとなりました。対象となる住宅が、省エネ機能を備えているかなど、住宅の質によって、非課税となる金額が変わってきます。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
非課税特例は継続し条件は厳しく
教育資金の非課税贈与などに関しては、相続財産を非課税で次の世代へ移転できる仕組みです。この制度により、教育や子育てといった若い世代が高齢者から贈与を受け、資金として利用したため、眠っている金融資産を市場で動かすという効果はありました。
贈与を受けた人が、その目的に沿って消費するため、贈与された資金を、そのまま貯蓄として貯めこむことはできないからです。世代間の資金移動が進み、高齢者に集中し停滞しがちな金融資産を、若い世代が消費しました。
しかし一方で、1500万円以上、場合によっては1億円を超える金額を、相続税を支払うことなく子や孫の世代へ移転できる仕組みを利用できる層は、かなり限られます。
相続税の控除額が減らされる中で、相続税の支払いで苦労する人も出ています。1億円を超える金額でさえも非課税で移転できるため、相続税逃れに利用されやすい、富裕層に対する優遇策で不公平だ、との批判も多くあったと思います。
これまでは未就学児に対しても、将来利用することを前提に非課税贈与ができました。相続が近くなって時点で、この制度を利用し未就学児への贈与も行われていました。
今回の改正では、贈与者が亡くなった時点で、使い残しがあった分については、相続財産にカウントされ、なおかつその分については通常の相続より高い税率が課せられることになりました。このため、とくに相続の時期が近いと考えた駆け込みの非課税贈与や、利用期間がかなり長くなる非課税贈与に関しては、かなりの歯止めがかかることになりました。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。