土地登記の「義務化」で、土地の有効活用が促進される?

配信日: 2021.07.23

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土地登記の「義務化」で、土地の有効活用が促進される?
現在、日本全土で所有者が不明となっている未登記の土地は、ほぼ九州の土地面積と同じ、410万ヘクタールほどと推定されます(※)。
 
特に親が居住していた地方の不動産を、子どもが相続しても利用価値がないために、登記をせずに放置しているケースが非常に増えています。
 
こうした放置行為に対応するための法案が、2021年の通常国会で成立し、土地の再活用が促進されるのでは、と期待されています。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

放置空き家と所有者なき土地を減らす

2021年4月の通常国会で成立したのは、改正民法や相続土地国家帰属法などで、3年後に施行されます。これまでの制度では、土地所有をしていても登記は任意のため、義務はありませんでした。
 
しかし、人口減少社会が現実となり、土地に対する執着心が薄れ「負の遺産」と判断され未登記の土地が増加し続けると、将来は深刻になります。
 
実際、親が亡くなった後に、子どもなど親族が住まないため放置空き家も増え続けていました。
 
登記をすると、固定資産税などを支払う義務が生まれるため、あえて登記をせずに放置し、それが長期化することで所有者不明となるケースが急増していました。政府も今回その対策として、「相続登記の義務化」を盛り込んだ法案を成立させました。
 
相続時に、土地の登記を義務づけると同時に、放置された所有者不明の土地を、裁判所の許可を受けて自治体が売却できる仕組みや、公共用地として再開発ができる仕組みが盛り込まれています。所有者不明の土地をこれ以上増やさない政策に、国はかじを切りました。
 

相続した土地の登記を義務化

今回の改正法案の第1のポイントは、相続した土地について「登記の義務化」を決めたことです。
 
相続時を知ってから3年以内の登記を義務化し、違反に対しては10万円以下の「過料」(罰金)を課するもので、方針の大転換です。登記を先延ばしする行為を防ぐ目的です。
 
また親族間の協議が難航し、遺産分割協議がまとまらない場合、10年経過した時点で法定相続の割合で分割することも義務づけました。
 
これにより、現在増え続けている空き家にも効果が出て、放置空き家の減少に役立つことが期待されます。所有者が特定されている未登記の土地についても、登記を促す施策が行われると思われます。
 
また不動産所有者が、住所移転や名称変更をした際の登記も義務づけました。住所や名称の変更を2年以内に登記する必要があります。違反したときは、5万円以下の過料が課せられます。
 
これは不動産所有者の変更事項を把握する狙いがあり、法人の移転や名称変更や、海外への移住者の国内連絡先を厳しく確認します。これにより所有者の移転先が追えないことがなくなり、政策的な変更です。
 

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所有を望まない土地を国が引き受ける

第2のポイントは、土地の放棄を容易にし、その土地を国が引き受ける仕組みができたことです。
 
相続時に登記が必要なため、今後利用価値の低い土地は、相続後に手放すことを希望する人が増えると思われます。一定の条件を満たせば、その土地を国が引き受けることを可能にする「相続土地国家帰属法」の制定です。
 
土地を国が引き取る際には、
 

(1)建物がない更地である
(2)抵当権の設定がない
(3)境界争いや土壌汚染がない
(4)決められた管理料(10年分)を支払う

 
などといった条件があります。
 
引き取りを実現するためには、家屋の解体費用や管理料の支払いなど、かなりの費用負担も強いられます。
 
そのため、国への引き渡しをちゅうちょする人も出てくることも予想できます。相続による面倒な手続きを避けるため、多少の財産があっても、家屋・土地を含めすべてを「相続放棄」する人も増える可能性があります。
 
もし土地の国有地化が順調に進めば、所有者不明の土地の増加への歯止めがかかる期待感も出てきます。所有者不明の土地は、これまで都市開発には障害でした。
 
簡単ではありませんが、この仕組みが制度化され、用地買収なども円滑に進むことが望まれます。
 

知恵を出し合い再開発や住宅建設を推進

第3のポイントは、これまでは実施困難だった不動産の有効活用が可能になることです。
 
例えば空き家に関しては、放置を防ぐためには民間の知恵の活用がポイントになります。空き家を活用し、都会からの移住者を取り込む活動などが今以上に進められるべきです。また土地活用に関しては、官民協力による事業展開が必要です。
 
所有者不明の土地の集約化がうまく進めば、新規の住宅の建設、公園など公共用地として整備が実現できます。現段階では、まだまだ不確定要素は多いのですが、放置されてきた所有者不明の土地を、新たに再開発することも可能になります。
 
特に都市近郊の地域では、こうした土地の整理・統合が進み、広い土地が比較的安く入手できるかもしれません。ニーズが見込まれれば、民間の大型マンションや、官民一体となった公共施設の建設など、再開発事業が可能になります。
 
これまで所有者不明の土地が分散して存在していたために、広域開発の障害となってきました。地域ごとに事情が異なるため、一気に再開発が進むとは思えませんが、こうしたことを実現する第一歩となるのでは、と期待されます。
 

相続が近い人たちの対応も急務に

相続後に登記を行わないと、過料などの罰則が規定されるため、相続が間近な人たちも対応に迫られます。分割協議も10年が限度で、その後は法定相続の原則に従って分割・登記されます。本人が望まない相続・登記がされることも出てきます。
 
売却できればいいのですが、交通が不便で居住者も少ない地域だと、売却も簡単ではありません。そのためには、利用予定のない不動産は、前もって親族間で対応法を協議しておく必要があります。
 
空き家のままの放置ができなくなるため、他に資産もあり相続放棄ができない場合は、国に提供するケースも増えてきます。そのために、費用負担についての合意形成も必要です。
 
出典
(※)朝日新聞DIGITAL「持ち主不明の土地、九州より広く 「満州国在住」登記も」

 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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