11万円の生前贈与のデメリット。どんなことに注意すべき?
配信日: 2021.07.30
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
なぜ11万円の生前贈与をするのか
生前贈与の目的はズバリ、節税のためです。相続税は基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数で算出)を超える部分についてかかります。
例えば、相続財産5000万円を相続人2人で相続する場合、基礎控除の4200万円を超える部分の800万円に対して相続税が発生します。
しかし、生前贈与で4000万円まで相続財産が減少していたらどうでしょうか。
この場合は基礎控除である4200万円以下となるため、相続税がかからないということになります。
さらに贈与は年間110万円までが非課税であるため、数年にわたって毎月11万円程度の贈与を行っていけば、わずかな贈与税のみの支払いで済ませ、相続税を全く払うことなく全財産の5000万円を相続させることができるのです。
なぜ11万円なのかといえば、これは相続税対策になります。例えば、11万円×12ヶ月で年間132万円の贈与をしたと税務署に申告して贈与税支払うことで、きちんと贈与を行っていますよとアピールし、税務署から疑いの目が向けられないようにしているのです。
毎月11万円の生前贈与のデメリットとは?
ここまで述べると毎月11万円の生前贈与は税金が安くなって、しかも税務署へのおうかがいも立てられる素晴らしい方法だと思われる方もいることでしょう。ただし、生前贈与には注意しておきたいデメリットもあります。
安心してしまい不備が生じる
贈与税もしっかり納税しているので大丈夫と安心していると、それが気の緩みにつながり、不備が指摘され、税務調査の対象となって最終的に課税されてしまう恐れがあります。
例えば、贈与する側の親や祖父が、贈与を受ける側である子や孫の名前で、子や孫が行うべき贈与税の申告手続きまでしてしまう場合などがこれに該当します。
税務署は筆跡までしっかりと確認するため、少額のみの贈与があると、その点を突いて本人の筆跡かチェックしてくる可能性があります。贈与税を払うことに意味があるわけではなく、手続きを正しく行う必要があることを理解しておいてください。
具体的には、贈与する側と贈与を受ける側で贈与の意思を明確にし、契約書を毎年作成しておくこと、金額や時期を毎年少しずつズラして、節税のための小分けではなく全て独立した個別の贈与であると明確にしておくことが求められます。
3年以内の贈与は相続税の対象となる
贈与は毎年110万円までは非課税とされますが、相続開始の前3年以内にあった贈与は相続財産であるとみなして相続税の対象となります。節税のつもりが結局、課税されてしまっては意味がありません。生前贈与をするのならば、早め早めの実行をおすすめします。
相続時精算課税制度との併用ができない
相続時精算課税制度とは、贈与された金額のうち2500万円までが非課税となり、その後、実際に相続が発生したときにまとめて相続税を支払うという制度です。
この仕組みを使うと一度に大きなお金を贈与できる、結果的に税金が安くなるといったメリットがありますが、この制度はいわゆる通常の生前贈与と併用はできません。つまり、毎月11万円ずつ贈与していると、相続時精算課税制度を利用できなくなるのです。
生活費を圧迫する恐れがある
毎月11万円は決して少ない金額ではありません。11万円というと国民年金で受け取れる月額(満額)の倍近い金額です。無理に毎月11万円を贈与していると何かしら突発的なトラブルがあったとき、資金が足りずに生活を圧迫する恐れもあります。
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生前贈与は手続き面や金銭的な負担も考慮して!
毎月11万円ずつ生前贈与していくことは相続税対策として有効ですが、他の制度との併用や有効な贈与と認められるように内容を確認した上で、贈与後の手続きまでしっかりしておく必要があります。
また、節税にばかり目を取られ、現在の生活を圧迫してしまうのも決して良いこととは言えません。生前贈与は、手続きと制度面、金銭的負担を考慮して現実的な範囲で行うべきでしょう。
出典
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
執筆者:柘植輝
行政書士