「相続」と「遺贈」ってどう違うの? 事例で見る両者の違い
配信日: 2021.07.30
つまり、対象となるのは相続人だけとなります。そして、遺言によって財産を相続人などに移転することを「遺贈」といいます。この場合には、相続人以外の人が財産を承継することもあります。
ここでは、遺言書の記載による「相続」と「遺贈」の違いについて、具体的な事例で確認してみたいと思います。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
包括承継と特定承継
民法では、相続の一般的効力として、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」と定めています。
この一切の権利義務を承継することを「包括承継」といいます。また、遺言により財産の承継を指定した場合は、「包括遺贈」といわれます。
一方で、特定の財産や権利だけを承継することを「特定承継」といいます。最も分かりやすいのは、売買によって権利が移転する事例です。同じく、遺言で指定された場合は、「特定遺贈」といわれます。
遺言書の記載による「相続」と「遺贈」の違い
それでは、遺言書への記載内容における「相続」と「遺贈」の違いを、具体的な事例を基に見ていきたいと思います。
(1)「預貯金を相続人Aに、自宅不動産を相続人Bに相続させる」と遺言書に記載
この場合は、被相続人が遺言によって遺産分割方法を指定しているものと解されます。当然「相続」と解されます。
(2)「自宅不動産を相続人のうちAに遺贈する」と遺言書に記載
この場合は、被相続人が遺言で特定の財産(自宅不動産)を「遺贈」すると解されます。
(3)「相続人の全員(ABC)に、全財産を3分の1ずつの割合で遺贈する」と遺言書に記載
この場合は、相続人の全員に対して、全財産を一括で承継させることになります。そして、遺言で相続人ごとの相続分を指定しています。
つまり、相続人全員が包括承継していることとなり、「相続」であると解されます。
(4)「相続人の全員(AB)と第三者のDに、全財産を3分の1ずつ遺贈する」と遺言書に記載
この場合は、(3)と同じく包括遺贈となりますが、相続人以外の第三者であるDが入っていますので、相続ではなく「遺贈」と解されます。
(5)「相続人以外の第三者Dに、甲不動産を相続させる」と遺言書に記載
この場合は、当然ながら相続人以外の者に「相続」させることはできませんので、「遺贈」と解されます。
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「相続」と「遺贈」による登記手続きの違い
被相続人の財産に不動産が含まれている場合、「相続」と「遺贈」によって登記手続きについて以下のような違いが生じます。
(1)相続を原因とする所有権移転登記(相続登記)
「相続」を原因として新たな所有者に所有権を移転する、いわゆる相続登記の場合、相続人が申請者となって単独で申請することができます。
仮に、所有者が複数の場合でも、そのうちの1人が申請することが可能です。また、登記申請の際に必要となる登録免許税の税率は、4/1000(%)となります。
(2)遺贈を原因とする所有権移転登記
「遺贈」を原因として所有権を遺贈者から受贈者に移転する場合、権利者(受遺者)と義務者(遺贈者)の共同申請が必要となります。また、登録免許税の税率は、20/1000(%)となり、相続の場合よりも高くなります。
ただし、受遺者が被相続人の相続人であり、そのことを証明できる場合には、税率は相続と同じ、4/1000(%)が適用できます。
まとめ
「遺贈」の場合でも、相続税がかかります。その場合に、配偶者、子、父母以外の人が財産を引き継いだ場合、原則、相続税額が2割加算されることになります。いわゆる「2割加算」にも注意が必要です。
遺言書の記載内容によって、財産の承継が「相続」となるケースと「遺贈」となるケースの具体例を見てきました。遺言の記載内容に直接的に関与できるか否かは別のこととして、両者の違いについて、相続発生時の基礎的な知識として覚えておくと良いと思います。
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー