更新日: 2021.08.08 贈与
知っておきたい暦年贈与のデメリット。一体どんなものがある?
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
暦年贈与とは
暦年贈与とは、年間の贈与額が110万円までであれば贈与税が非課税となる仕組みに着目し、その非課税の範囲で毎年贈与を行っていく方法であり、相続税対策の1つです。
本来なら相続財産のうち、3000万円+600万円×相続人の数を超える部分について相続税が発生するところ、暦年贈与によって毎年少しずつ贈与を行うことで相続発生時までに相続財産を減らし、できるだけ相続税が非課税となる額に近づけるようにしていきます。
また、相続人以外に財産を遺すために利用したり、生前に各相続人に相続対策について話しておき、少額ずつ贈与することで未然に相続争いを防ぐことができるという点があります。
暦年贈与は、相続税対策において最も簡単な方法であり、一番多く採用されているといっても過言ではありません。
暦年贈与のデメリットは?
暦年贈与は手軽に相続税対策をすることができますが、次のような点に注意が必要です。
死亡から3年以内の贈与は相続税が発生する
死亡からさかのぼって3年間の間に贈与された部分については相続財産と見なし、相続税の対象となります。そのため、暦年贈与によって非課税だと安心していた贈与分についても、相続税が発生することがあります。
暦年贈与をするのであれば、この点を覚えておき、できるだけ早い時期から贈与を行っておく必要があります。ただし3年以内の贈与とはいえ、父母などから受ける住宅資金の援助など、一定の特例が適用される範囲については相続税の対象とならないケースもあります。
贈与が定期的なものだと見なされると贈与税がかかる
贈与の額が年間110万円以下であっても、それが毎年同じ時期に行われていると、本来は一括で贈与するものを税金対策でわざと分割していると判断され、贈与税が発生することがあります。
これを否定するためには、贈与の時期を毎年ズラすこと、そして贈与のたびに単発の贈与であるといった内容の契約書を作成しておくことなど贈与が定期的なものだと見なされないよう工夫が必要です。
知らぬ間に遺留分を侵害していることもある
遺留分とは、相続人に最低限認められた相続分のことです。贈与によって遺留分を侵害していると遺留分侵害額の請求を受け、相続の開始1年前までさかのぼり、贈与を受けた金額のうち遺留分を侵害する部分については他の相続人に返還することになるのです。
また、遺留分を侵害することを贈与した側と贈与を受けた側の双方が認識していた場合は、1年以上前の部分についてもさかのぼって返還しなければならないこともあります。
さらに、亡くなった方から過去10年以内に扶養の範囲を超える資金援助を受けているなど、特別な援助を受けている場合は特別受益が存在すると見なされ、その分、遺留分が少なくなります。
暦年贈与をするのであれば、遺留分を侵害しない範囲にとどめておくか、他の相続人も含めて話し合った上で行うのがよいでしょう。
相続時精算課税制度との併用ができない
相続税対策として利用される制度には、暦年贈与の他に相続時精算課税制度があります。こちらは2500万円まで贈与税が非課税となる上、一度に大きな金額を非課税で贈与できることから、節税と生前贈与による相続争いの防止を兼ねて利用されることもある制度です。
しかし、暦年課税と相続時精算課税制度は選択制であり、相続時精算課税制度を選ぶと、同一の当事者間においては暦年課税を選択できなくなります。
例えば、父と子の間で相続時精算課税制度を一度選んでしまうと、これ以降は父と子の間では暦年課税は利用できないということです。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
暦年贈与は簡単だが安易に行うべきではない
暦年贈与は届け出や許可などの必要がなく、非常に簡単に相続税対策が行えるものです。しかし、安易に行うと後から思いもよらないタイミングで税金が発生したり、遺留分を侵害してしまうなどの問題が生じることもあります。
簡単に行える暦年贈与だからこそ、正しい方法を知り、準備と事後の対応をきちんとした上で利用していきたいところです。
出典
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
執筆者:柘植輝
行政書士