更新日: 2021.10.05 その他相続

後継ぎの長男に財産を相続させたい。弟たちに「遺留分」を放棄させることが可能ってホント?

執筆者 : 柘植輝

後継ぎの長男に財産を相続させたい。弟たちに「遺留分」を放棄させることが可能ってホント?
跡継ぎ問題から「相続財産は全額を長男に。弟たちには財産を相続させない」という相続模様をテレビドラマなどで目にしたことはありませんか?
 
これは法律上、可能なのでしょうか。長男に財産を全額相続させるため、相続人となる第2子以降の弟たちに遺留分の相続放棄をさせることが可能なのか考えてみます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

長男に全額相続させる遺言は有効か

前提として、相続人のうちの誰か1人に財産を全額相続させるという遺言自体は有効です。ただし、後述する遺留分について問題となるだけです。従って、長男にのみ財産を相続させることは理論上、可能となります。
 

遺留分とは

遺留分とは相続人のうち、亡くなった方の兄弟姉妹以外の方に最低限保障された相続分のことです。遺留分は遺言を無効にするようなものではなく、基本的に遺留分に抵触する部分について金銭で支払いを受けられるという権利に過ぎません。そのため、遺留分を抵触する遺言も有効となります。
 
なお、遺留分は遺留分権利者が行使することで初めて効果が生じます。
 

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遺留分を放棄させることは可能なのか

では、本題である「弟たちに遺留分を放棄させることができるのか」という問題について考えてみましょう。結論から申し上げれば、遺留分を放棄させること自体は可能ですが、相続の開始前か後かによって詳細が異なるため、それぞれに分けて見ていきます。
 

相続の開始前

相続の開始前であっても遺留分の放棄は可能です。しかし、相続開始前の遺留分の放棄は本人の意思に反した放棄をさせないなど、相続人の権利を保護するために厳格な取り扱いがなされています。
 
被相続人の生前に遺留分の放棄をする場合、遺留分を放棄する相続人本人が家庭裁判所に申し立てを行い、許可を得ることが必要になります。その際、次のような点に関して主に審査が行われます。
 

●本人の意思に基づく放棄であるか
●遺留分の放棄をするだけの理由があるか
●遺留分を放棄するために何らかの代償を受け取っているか

 
上記を考えると、遺留分を放棄させることは簡単ではないことが分かるでしょう。ただ単に「家を継ぐのは長男だから」といった理由で、他の子どもに遺留分の生前放棄を行わせるのは現実的ではありません。
 
生前に遺留分を放棄させるのであれば、他の子どもが相続財産を受け取らなくてもいいほどの援助を受けている、あるいは代わりとなる財産を与えられる予定であり、本人の意思に基づいて放棄するような状況でなければ難しいでしょう。
 

相続の開始後

相続の開始後における遺留分の放棄には特に要件はなく、相続人本人が遺留分を行使しないだけで実質的な放棄となります。だからといって、本人の意思に反して無理やり放棄させることはできず、仮にそのように家族間で取り決めたとしても、実際に本人の権利行使を妨げることはできません。
 
そう考えると、相続の開始後でも遺留分の放棄は少なくとも本人が納得した上でということが必要になるでしょう。
 

どうしてもというなら相続人の廃除についての検討も

廃除とは、著しい非行や亡くなった方への重大な侮辱など、相続人として適切ではない方の相続権を消滅させ、遺留分すら与えないものです。どうしても特定の相続人以外に相続させたくないという場合は、この廃除の利用も有効です。
 
しかし、単に跡継ぎである長男に相続させたいからという理由での廃除は認められません。廃除には、あくまでも相続人にふさわしくない非行など相続廃除となる理由が必要であり、容易に認められるものではないことを覚えておいてください。
 

遺留分の放棄は簡単ではない

他の相続人に遺留分を放棄させ、特定の相続人が全ての財産を受け取れるようにすること自体は可能です。しかし、遺留分は法律によって最低限保障された相続分であることとの関係上、放棄や権利の行使をさせないというのは困難です。
 
どうしても特定の相続人のみに財産を相続させて、他の相続人には遺留分すら引き渡したくないという場合、今一度、本当にそこまでする必要があるのか考えてみてください。もしかすると、他に適切な方法や解決案が見つかるかもしれません。
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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