認知症の親が作成した遺言書。納得いかないけどあきらめるしかないの?
配信日: 2022.01.28
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
有効な遺言書は認知症でも作成できることがある
意外に思われるかもしれませんが、遺言書は認知症であっても有効に作成できる場合があります。つまり、認知症の親が作成した遺言書だからといって無効となるわけではないのです。
なぜ認知症でも遺言書が有効となるのか
遺言書を有効に作成するには「遺言能力」と呼ばれる能力が必要です。
遺言能力は、遺言を残す本人が認知症であったとしても即座に否定されるわけではなく、その内容や効果について理解していれば、認知症の方であっても有効な遺言書を作成できるとされています。遺言においては、遺言書を作成した当時に遺言能力があればよいとされるためです。
実際、認知症がかなり進行して成年被後見人として登記もされており、単独では売買や契約などができない場合であっても、一時的に事理弁識能力(自分の行為と、その後の結果について把握する能力)を回復し、かつ医師2名以上の立ち会いがあれば認知症の方でも有効な遺言書を作成できます。
さらに遺言能力の判断については、成年被後見人などの規定は適用しないとされており、通常の認知症の方とは異なる基準となります。そのため、普段は認知症患者として物事を正確に判断できない方であっても、法律上は有効な遺言書が作成できるという流れになり、認知症の親でも遺言書を有効に作成可能な場合があるという結論になるのです。
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遺言書の内容に納得がいかないときはあきらめるしかない?
認知症できちんと意識がある状態で遺言書が作られたのか怪しく、遺言書の内容に納得がいかないという場合でも、あきらめることはありません。遺言執行者が指定されておらず、相続人全員と遺言の利害関係人全員の同意があれば、遺言書の内容を無視して遺産分割を進められる場合があるからです。
もし、遺言執行者が存在するなどの理由から遺言書を無視できない場合、遺言書が有効か無効かは家庭裁判所での遺言無効確定調停、地方裁判所での裁判で判断することができます。その際、遺言書の有効性については下記のような観点から総合的に判断されます。
●作成時の心身の状態
●内容の複雑さ
●内容に整合性があるか、不自然な点がないか
単純にいってしまえば、遺言書の作成時に寝たきりで入院しており、日常のことを何もできず意識もはっきりしていないような状況で、遺言書の内容が複雑であったり、遺族が不自然に感じる内容だった場合は無効となる可能性があります。
しかし、事実はどうであれ、よほどの証拠がない限りは遺言書の無効を調停または裁判で認められるのは難しいのが現状です。特に裁判においては無効を主張する側が証拠を取り寄せるなどして、裁判官に認められる必要があります。
また、仮に調停や裁判で無効と認められたとしても、それはあくまで遺言書が無効であることが認められるだけで、遺産の分配方法についてはその後、相続人同士で話し合って決めなければならないことに注意してください。
まとめ
認知症の親が作成した遺言書の内容に納得がいかないという場合、相続人全員および利害関係人との話し合いによって遺言書と異なる内容で遺産分割したり、遺言無効確定調停や裁判で無効の判断を下してもらうことができます。
しかし、遺言書と異なる遺産分割や、裁判で遺言書が無効と認められるのは難しい場合が多いのが実情ですので、まずは相続人たちで話し合い、その後、弁護士など専門家に相談して今後について決めていくのがよいのではないでしょうか。
執筆者:柘植輝
行政書士