更新日: 2022.05.11 贈与
孫の教育費を負担したら税金がかかる? その1
この記事では、その点について3回に分けて説明したいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
目次
教育資金の贈与に関する非課税制度
孫への教育資金の贈与を非課税で行おうとすると、以下に述べる3つの方法があります。
1. 教育資金の一括贈与の非課税制度
2. 扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」または「教育費」の贈与を受けた場合は、原則として非課税
3. 暦年贈与
上記を見ると、孫に援助した教育資金には贈与税がかからないと思ってしまうかもしれませんが、それぞれに条件があったり、各制度の関係がよく分からず、混乱してしまうこともあります。
以下では、それぞれの制度と制度同士の関係について説明していきます。
教育資金の一括贈与の非課税制度
税金のことをいろいろ調べた方は、「教育資金の一括贈与の非課税制度」についてご存じだと思います。また、インターネットでも税理士やファイナンシャルプランナーの方が制度について解説しているので、記事を読まれた方もいると思います。
ただし、この制度にはさまざまな条件が付いています。
1. 2013年4月1日から2023年3月31日までの時限立法であること
2. 受贈者(教育資金の贈与を受けた人)の年齢が30歳未満であること
3. 贈与者は金融機関等と契約し、金融機関の営業所を通じて教育資金の非課税申告書を提出すること
4. 非課税になるのは1500万円が限度であること
5. 契約期間中に贈与者が死亡し、残額がある場合、その残額は相続税の対象になること
など
「孫に教育資金を一括であげようと思うと、かなり手間がかかるんだな。しかも、2023年3月までに手続きを済ませなければならない」と考えた方も多いと思います。孫に教育資金を贈与するのは、こんなにハードルが高いのでしょうか?
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扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」または「教育費」の贈与を受けた場合
一方で、2013年(平成25年)に国税庁が作成した『扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A』(以下、Q&Aと略します)という資料があります。
Q&Aには、『扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象となりません。』とあり、扶養義務者の中には、直系血族および兄弟姉妹が含まれています(Q&A 2ページ参照)。
祖父母は直系血族で、同居していなくてはならないとは記載されていないので、祖父母か孫の教育費を払っても贈与税の対象にはならないということになります。
また、以下のただし書きもあります。
『「教育費」とは、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません。』
これにより、小学校や中学校の入学金などだけでなく、高校や大学の入学金や授業料を支払っても、贈与税の対象にならないということになります。
それでは、孫への教育費の贈与は贈与税がかからないと考えていいのでしょうか?
教育資金の一括贈与の非課税制度と、『扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合』の違 い
ここまでの説明を読まれた方は、教育費の贈与に贈与税はかかるのか、かからないのか、一体どっちなんだと思われたかもしれませんが、税法はどんな考え方をしているのでしょうか?
Q&A(5ページ参照)にその答えがあります。重要なので、少し長いのですが以下に全文を引用します。
『[Q1-3] 数年間分の「生活費」又は「教育費」を一括して贈与を受けた場合、贈与税の課税対象となりますか。
[A] 贈与税の課税対象とならない生活費又は教育費は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与を受けた財産であり、したがって、数年間分の生活費又は教育費を一括して贈与を受けた場合において、その財産が生活費又は教育費に充てられずに預貯金となっている場合、株式や家屋の購入費用に充てられた場合等のように、その生活費又は教育費に充てられなかった部分については、贈与税の課税対象となります。
(注) 「教育費」については、別途、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法第70条の2の2)」が設けられています。』
ここに記載があるように、教育費の贈与については「必要な都度直接これらの用に充てるために贈与を受けた財産」であれば非課税で、「生活費又は教育費に充てられなかった部分については、贈与税の課税対象」というのが、基本的な考え方です。
すなわち、「その都度贈与」なら非課税、「一括贈与」なら原則課税。ただし「教育資金の一括贈与の非課税制度」の条件に当てはまる場合ならば、特別に非課税となる。ということになります。
まとめ
教育費の贈与に関する贈与税の考え方については、お分かりいただけたかと思います。この考え方に基づくのであれば、通常は「その都度贈与」をする方が手間もかからずにいいということになります。出典のQ&Aをよく読んで実行に移してください。
しかし、それではなぜ「教育資金の一括贈与の非課税制度」が設けられているのでしょうか。また、納税者にとって利用する意味はあるのでしょうか?
その点については、次回「その2」で解説していきます。
出典
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」
国税庁 扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー