更新日: 2022.05.18 葬儀

「墓じまい」を進める人が増加中。墓石はいらない? 埋葬に変化も

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

「墓じまい」を進める人が増加中。墓石はいらない? 埋葬に変化も
墓石を建てる「お墓」が少なくなり、埋葬の様式が大きく変化しています。底流にあるのが、少子高齢化の進行と、いわゆる「イエ」に対する意識の変化です。
 
ひと昔前までは、自分の死後は先祖代々が眠る墓石付きお墓に入るという考えが一般的でしたが、最近ではその傾向に変化がみられます。

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黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

増える「墓じまい」、その理由は

昭和の時代までは、墓石のある先祖代々の墓が一般的でした。寺院や霊園の管理のもと、決められた敷地に墓石を建て、永代供養料(土地を借り続ける権利料)を支払うタイプでした。
 
しかし、この先祖代々続いた墓が減少しています。都会に住む地方出身者は、墓参りのために帰省するのが大変だと考え、地方にある墓地を閉じる「墓じまい」(「改葬」という)をする方が増加傾向にあります。墓を守るという従来の発想が、大きく揺らいでいるのです。
 
将来は墓の管理ができないと思い、地方の墓を改葬して、現在の住まいの近くへ移すのです。墓を改葬するには、遺骨の搬出、墓石の解体・撤去、さら地への復元、離檀料の支払いなど、かなりの経費も発生します。
 
一例ですが、安い場合は20万円ほどで済むことが、由緒ある寺院墓地だと離檀料も含め100万円を超えるところもあります。地方の寺院では、檀家(だんか)の減少に危機感を持ち、改葬には消極的な住職もいらっしゃるかもしれません。
 
それでも現在では、かなりの数のお墓の改葬が進んでいます。地方の墓を改葬する最大の理由は、自分の死後に墓の世話人がいないことですが、それでも改葬手続きはかなり大変です。
 
勝手に遺骨を持ち出し、移すことはできません。現在の墓地の管理者に「改葬許可申請証」を提出して了解を得た後に、墓地のある市町村から「改葬許可証」を受け取り、遺骨を取り出します。
 
そして新しい墓の管理者に「改葬許可証」を提出し、新しい墓に遺骨をおさめます。手続きが煩雑にもかかわらず、改葬する方は増加傾向にあるのです。
 

従来タイプの墓は建てない

特に大都市に墓地を移転し、同規模の墓を建てるとすれば、多額の費用がかかります。墓石をそのまま運搬したとしても、費用は安くありません。
 
そのため地方の墓の改葬に合わせて、これまでのお墓の様式を変える方がいらっしゃいます。コロナ禍で葬儀の簡素化が急速に進みましたが、同時に埋葬様式の簡素化も進んでいます。
 
もちろん、従来型の墓を踏襲しながら、区画や墓石をミニサイズに変更する方もいます。そのため、都会の寺院では、ミニサイズの墓石付き区画を、比較的安い価格で販売し始めました。
 
しかし、墓石自体をやめ、別の形に変更する方もいらっしゃいます。埋葬様式を簡素化し、その中で、できるだけ「自分らしさ」を実現する発想が定着しつつあります。
 
これまでの主流だった墓石付きの墓が減少傾向にあります。特に従来の縦長タイプの墓石は、東日本大震災で多くが倒壊し、安定感に欠けるという弱点も明らかになりました。
 
地震による墓石の倒壊を契機に、墓の改葬を決断した方もいらっしゃったと思います。「墓じまい」に合わせて、従来の墓石付きの墓にとらわれることなく、自由な埋葬様式を選択する方が増加する傾向がうかがえます。
 
従来どおりの墓石付きの墓を選択する方でも、倒壊しやすい縦長の墓石は好まないかもしれません。例えば、丸みをもったデザインを重視する横長の墓石に、「寂」「心」「誠」といった、気に入った1文字だけを彫るなど、工夫を凝らす墓づくりが進んでいます。
 

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樹木葬などの埋葬様式が定着

新しい埋葬様式もいくつかあります。例えば、「樹木葬」という様式があります。都会の喧騒を離れた自然に恵まれた丘陵地などに、特定エリアを樹木や草花で囲んで、そこに区画を作り埋葬する方法です。生前から気に入った場所を選び、区画の予約をする方もいます。
 
こうしたニーズの高まりを意識してか、大都市の寺院でも、樹木葬ではなく「花壇葬」と名づけ、敷地内に季節の草花で囲んだ花壇をつくり、その専用区画を積極的に販売しています。
 
「納骨堂」と「永代供養墓」は墓石がないため、少スペースで納骨できる都会型の埋葬方式で、都会で多くみられます。「納骨堂」は、建物内に遺骨をまとめて安置する施設で、納骨ロッカーを鍵で開ける、カードをかざすと遺骨が運ばれてくるなど、技術革新が急速に進んだ様式です。
 
「永代供養墓」は、寺院が管理と供養を担い、多くの方と一緒に合祀(ごうし)する形式で、大勢が同時に収納できるため、比較的コストはかかりません。墓参りも必要もないため、子どもがいない夫婦などに喜ばれています。
 
遺骨を粉骨状態にして、海洋や森林にまく「散骨」も増えています。有名な文化人や経済人の中にも、自分の死後、散骨を希望する方がいらっしゃいます。ただ、遺骨を勝手にまくことはできず、条件を満たして実施します。
 

墓石付きお墓はコストがかかる

墓石付きの墓を新規に作ると、かなりのコストがかかります。地域により差があり、東京など大都市での購入費は、地方と比較すると割高です。おおよその目安ですが、土地の賃借料(永代使用料)は、50~200万円で、区画の大きさや寺院墓地か公営墓地かで異なります。
 
墓石代は工事費を含めると、合わせて40~150万円で、墓石のサイズや材質で金額は大きく変わります(金額はあくまで一例です。詳しくは各寺院・墓地などに問い合わせてください)。
 
樹木葬は、一定期間の区画使用料を払い埋葬する方式で、目安の費用は20~70万円です。都市の有名寺院では80万円を超えます。納骨堂は、その所在地の地価、寺院の格、納骨方式などで差があり、費用は30~120万円です。永代供養墓は、集団で合祀されるため、費用は5~25万円で、かなり割安です。
 
海洋散骨や森林散骨は、人の生活圏から離れた場所に散骨する必要があり、紛骨費用や船舶のチャーター料などで20~60万円です(金額はあくまで一例です。詳しくは各寺院・墓地などに問い合わせてください)。
 
日本人のお墓に対する意識も、明らかに変化しており、今後は墓石のある一般墓が急速に減り、墓石のない多様なタイプのお墓が増えていくと思われます。
 

出典

独立行政法人国民生活センター ウェブ版国民生活8より 「特集 現代の墓事情に関する知識とトラブル」
横浜市 改葬(遺骨の移動)の手続き
厚生労働省 墓地経営・管理の指針等について
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。