更新日: 2022.05.18 その他相続

【2023年4月から順次施行】遺産相続を巡る争いは、早期解決が鉄則に

【2023年4月から順次施行】遺産相続を巡る争いは、早期解決が鉄則に
遺産分割や登記など、相続に関する法律の一部が改正され、いよいよ2023年4月から一部施行されます。
 
親族間での遺産相続争いが長期化し、遺産分割方法などを決めないでいると、困った事態になります。相続にあたっては、できるだけ早期に問題点を洗い出し、合意に導く努力が求められます。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

分割協議は10年が限度に

遺産分割に関する協議がなかなかまとまらず、相続の詳細が確定しないため、登記業務などができないことは、これまで多々ありました。
 
分割協議の継続中であれば、登記手続きをせずに済んでいました。分割協議中にその対象者が亡くなったために、新たな相続人が生まれ、さらに収拾がつかなくなる事態も生じていました。
 
特に土地評価額の低い地方では、長期間にわたり分割協議がまとまらず、相続人が亡くなるケースも多くありました。こうした事態を防ぐために、民法・不動産登記法などの関連法規がすでに改正され、2023年4月から順を追って施行されます。
 
その中で、まず「遺産相続の分割協議期間は10年が限度」の運用が、23年4月から始まります。10年を経過しても遺産分割の話がまとまらない場合は、「法定相続に従った割合で分割する」ことになります。
 
例えば、残された不動産の相続方法を巡って、誰か1人が相続するのか、売却して相続人全員で分けるのかが決まらずに協議を継続していたとしても、期限となる10年以内に決める必要があります。
 
特に法定相続以外の方法を希望する方にとっては、合意形成を急ぐ必要があります。今回の法改正での留意点は、法律の施行前の遺産分割協議案件でも、この法律の対象となる点です。
 
これまでの法律は、施行前の案件は対象外となることが通例でしたが、今回は猶予期間はありますが、この法律が機能します。そのため、10年以上が経過し、現在でもまとまっていない案件は、施行後5年の猶予期間2028年3月までには、分割方法を確定しなければなりません。
 

個人の土地を国が引き取ることも可能に

今回の改正では、これまで土地の相続を望まず、そのまま放置してきた人に対して、一定条件を満たせば、国がその土地の引き取りができるよう制度化しました。
 
これまでは、資産価値が乏しい土地の登記をすると、固定資産税などの税金を取られるだけでメリットがないと感じ、登記はもちろん相続さえも消極的な人が存在したことも事実です。
 
こうした事態は、所有者不明の土地の増加を招き好ましくないため、新たな法律「相続土地国庫帰属法」を制定しました。2023年4月から施行され、相続を望まない土地所有者に対して、国が所有者から土地を無償で引き取り、公共用地などに転用できるようになりました。
 
これまでは、国が無償で引き取ることに関しては、法的根拠がありませんでした。利用可能な土地は、市区町村などの地方自治体が寄贈を受け、公園などに整備する方式が採用されてきました。
 
この法律により、国が引き取ることは可能なりますが、すべての土地が該当するわけではありません。その土地に「建築物がない」「境界争いがない」といった一定条件を満たす必要があり、その上で10年分の管理費用の負担が求められます。
 

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土地・建物は相続登記の義務化

「登記の義務化」こそ、今回の法改正で最も国が力を入れた点であり、従来の土地政策の大転換になる政策です。これまでは、仮に土地などを相続したとしても、登記する義務はありませんでした。
 
そのため、人口減少が進む地域などでは土地の登記が進まずに、所有者不明の土地が急増しました。日本全国で、なんとほぼ九州全体と同じ面積の土地が、所有者不明の土地になってしまっているのです。
 
こうした事態に国も危機感をもち、今回「不動産登記法」を改正し、相続開始から3年以内に、誰がどれだけの土地・建物を相続したかの登記を義務づけました。この施行は2024年4月からですが、施行後の猶予期間が3年しかありません。そのため、現在係争中の分割協議を長引かせることも難しくなります。
 
多少の猶予期間はあっても、登記が必要になるため、協議の早期決着が求められます。国が長い間、土地登記の義務化を実施してこなかったツケが、所有者不明の土地の増大につながってきたことは明白です。
 
固定資産税などの徴収も、登記を前提に行われるため、所有者不明の土地の増加は由々しき問題といえます。土地所有者の間でも、登記をしている人と登記をしていない人との不公平感も生まれます。
 
そのため現在でも、未登記だが所有者が確定している不動産に対して、国は調査を強化しており、登記を促す姿勢を強めています。
 
また今回の改正で、相続後3年以内に登記がなされない場合は、10万円以下の過料が課せられます。相続に関して過料という罰則が導入されるのも、ある意味では画期的なことといえます。
 

相続人申告登記制度の新設

決められた期間内に相続登記ができない場合に、新設された「相続人申告登記登録制度」を利用することが可能になります。この制度も、2024年4月から施行されます。
 
誰がどの不動産を相続するのか、その具体的な相続内容が決まっていないゆえに登記ができない際に、この制度を活用できます。ここで登録された方が、将来の相続人であることを確定する狙いがあります。
 
相続人となる人が、住所、氏名など必要情報を届け出ていれば、相続の開始から3年を経過して後でも、過料の対象にはなりません。ただし、相続人であることはすでに登録され確定していますので、なるべく早く相続を解決する必要があります。
 

出典

国土交通省 所有者不明土地の実態把握の状況について
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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