更新日: 2022.07.23 その他相続
認知症になったら相続対策ができない? 事前にできる対策とは?
高齢者の認知症と切っても切れないのが相続対策です。親であれば、相続税を減らして、できるだけ多くの資産を承継したいと考えるでしょう。
しかし、認知症になっても相続対策は有効に行えるのでしょうか。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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認知症の人は相続対策を行えるのか?
認知症に関連する法律として、民法2条3項の「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」という規定があります。
認知症の状態は、「意思能力がある」とはいえないので、法律行為が無効と判定される恐れがあります。
したがって、相続対策についても支障が出る恐れがあると解釈できます。
認知症だとできなくなる相続対策とは?
問題は、認知症の場合、どのような法律行為が無効と判定されるかです。相続対策に関連する法律行為とは以下のようなものが挙げられます。
●不動産の売買契約・賃貸契約
●生前贈与
●遺言の作成
●議決権の行使(株主の場合)
●生命保険への加入
不動産や生命保険は相続対策として幅広く活用されています。
また、生前贈与によって相続財産を減らしたり、相続発生後の争続を回避するために遺言を作成することもあるでしょう。
つまり、一度認知症になってしまうと、有効な相続対策は何ら行えない状態になる可能性があります。
遺言と認知症の関係
遺言には財産の分配方法を指定する力があり、残された財産を巡って相続人が争う事態を回避することができます。そのため、遺言は円滑な財産の承継のために広く活用されています。
ここで疑問なのが、「認知症の人が書いた遺言は無効なのか」といった点です。
この点については明確に法律の規定があります。民法963条によれば、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」とあります。
「その能力」とは、遺言能力を指します。遺言能力とは、遺言作成者が遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力です。
認知症の人には、このような能力があるとはいえないので、遺言が無効になる可能性があります。これは自筆証書遺言だけではなく、公正証書遺言でも同様です。
実務上は、被相続人が認知症であるために遺言の有効性が争われると、有効性について裁判官が判断します。
法定後見人制度を利用すれば相続対策ができる?
法定後見人とは、本人が認知症や精神上の障害によって判断能力が不足しているときに、申し立てによって家庭裁判所が成年後見人を選定し、本人に代わって、財産上の権利を行使する制度です。
「この制度を利用すれば、相続対策ができるのではないか」という疑問がありますが、結論として、法定後見人制度では相続対策はできません。
法定後見人制度は財産保護や資産管理に重点を置いています。法律行為はすべて本人の利益のために実施されることが前提なのです。
争続を避けるための遺産分割対策や生前贈与、不動産の購入は本人ではなく、相続人の利益のための行為です。特に本人の資産を減らし、相続人が受け取る資産を増やすような行為は認められません。
このように相続人と被相続人の利益を考えて、法定後見人が相続対策を実施しようとしても、本人の利益のためでない限り、相続対策はできません。
認知症になる前にできる相続対策
被相続人が認知症になってしまうと、意思能力を喪失し、法律行為が行えません。また、法定後見人の法律行為も制限を受けるため、相続対策は著しく制限されます。
つまり、一度被相続人が認知症になると、相続対策は大きな制限をかけられ、相続財産を減らす、財産の分配方法を指定するといった行為が行えなくなる可能性が高いです。
相続対策は被相続人が認知症になる前に行うべきでしょう。
任意後見人制度
任意後見人とは、将来的に自己の判断能力が不十分になったときの備えとして、代行してもらいたいことを後見人と契約する制度です。
法定後見人と異なり、任意後見人は、本人の意思によって後見人を選定します。したがって、財産の処分を委託し、相続対策を行わせることもできるのです。
ただし、任意後見人について「任意後見契約」を締結できるのは、本人に「意思能力があること」が必要です。認知症になってからでは、契約締結はできません。
家族信託
家族信託とは、老後に備えて、本人が保有する不動産や預貯金などの財産を、信頼できる家族に託し、管理運用処分を委託する行為です。本人が認知症になるリスクに備えて相続対策ができるとして、注目されている制度です。
家族信託を契約することで、以下のような法律行為が可能になります。
●銀行預金の管理
●不動産の売買契約締結
●不動産の賃貸契約締結
●受益権の分配
不動産を使った相続対策ができるので、選択肢が大きく広がります。法定後見人や任意後見人よりも本人の財産運用について、より柔軟に対応できるでしょう。
ただし、家族信託についても認知症発生前に契約が必要です。いつ認知症になるか分からないので、可能な限り、早めの対応が望まれます。
出典
内閣府 第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(3)
総務省行政評価局 認知症高齢者等への地域支援に関する実態調査―早期対応を中心として― 結果報告書(令和2年5月)
e-gov法令検索 民法
家族信託普及協会 制度の概要
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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