土地と家屋の相続 「共有名義」は避けることが最良の選択
配信日: 2022.08.09
そのため土地を分割できずに、相続人の「共有名義」とし、問題解決を先送りすることもあります。
「誰も住みたがらない」などの事情で解決策が見つからず、取りあえず「共有」という選択をしてしまうかもしれません。しかし、時間の経過とともに問題も発生します。
土地・家屋が中心の相続が多い
相続が発生した際に、預貯金や株式などの有価証券は、相続人が複数いても分配することはさほど難しくありません。しかし住んでいた家屋や土地をどう分配するかは、結構大変です。
売却をして現金化、それを分配できればよいのですが、誰が住むのかを決められない、親が住んでいた家を売却するのは心苦しい、希望する価格での売却ができない、といった事情で、対応策が決まらないケースが見かけられます。
その際に、取りあえず相続人同士が「共有」にする形態がとられる傾向にあります。特に預貯金や有価証券などの金融資産の額が少なく、土地と家屋など分割しにくい不動産が中心の相続となると、相続人の意見がまとまらず、協議が長引くからです。
国税庁の資料(※)によると、相続財産の内訳は、金額ベースで、土地・家屋が約40%、預貯金が約34%、株式等有価証券が約15%、それ以外の財産(宝飾品など)が約11%となっています(2019年調べ)。
特に住んでいた家と土地が、相続財産の中で多くの比重を占めると、それだけ相続方法が難しくなります。
共有を避けるための方法は
相続財産を共有名義にすると面倒なことがわかっていると、それを避ける方法を真剣に考えます。
1つの方法は、その土地と家屋を売却し現金化し、売却代金を相続人同士が分けるもので、これを「換価分割」といいます。
もう1つは、相続人の1人が、土地と家屋をすべて相続し、他の相続人に対して、相続に見合う額を金銭で支払うという方法で、これを「代償分割」といいます。どちらも共有という事態を避けることはできますが、事は簡単には進まない場合が多いのです。
前者の場合は、「親が住んでいたので手放したくない」「いまは売却の時期ではない」などと1人が言い出すと、売却話がまとまりません。後者の場合は、1人で相続する相続人に資金的余裕がないと、他の相続人に、相続額に見合う金銭を支払うことができません。
そのため、どちらも実現できないときは、取りあえず「共有にして様子を見よう」という選択になってしまうことがあります。
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共有名義は自由度がなくなる
親から相続した不動産を、何人かの子どもたちで共有していると、何かと不都合な事態に直面します。特に不動産は簡単に分割ができないために、方針を決めずに「取りあえず」共有にした場合は、問題が生じやすくなります。
すでに空き家となり、土地・家屋が売却できる状態であったとしても、全員の同意がなければ「売却」はできません。共有者の1人が「すぐにでも売却し現金化したい」と考えたとします。
しかし、別の共有者が「もう少し不動産価格が上がってから」と反対すれば、売却はできません。さらに、将来の売却を考え、旧宅を取り壊し建て替えたりすることも、全員の同意がなければできません。
また親戚への贈与や、借り入れの担保としての提供も、全員の同意がなければできません。基本として、共有不動産の大幅な現状変更はできないのです。
しかし、家屋や土地の劣化を防ぎ、現状のままで保存しようとする行為は、共有者の同意は必要なく、1人の判断でできます。例えば、家屋の窓や扉の改修や、庭に生えた雑草の駆除など、不動産の価値を保持するための行為が該当します。
また不法に建物を占拠された場合の立ち退き請求も、共有者1人の判断で行うことができます。短期間の賃貸や不動産評価を上げる駐車場や境界の改良など、変更行為と保存行為の中間に位置する行為については、共有者の過半数の同意で実施できるものもあります。
維持・管理コストをどうシェアするか
共有名義のまま不動産を放置すると、管理や維持のためのコストがかかります。空き家になっていると、壁や扉、窓などの修繕費、塀や門扉などの保全費、電気・水道など公共料金、さらに固定資産税などもかかってきます。
共有になっているため、誰がどのように負担するのかを、前もって決めておかないと面倒なことになります。固定資産税などの税金や電気・水道など公共料金の支払請求は、共有名義であっても、代表者1人のところに送られてきます。
共有者全員に個別に分けて請求をしてくれません。そのため支払った代表者に対して、他の共有者が支払うコストが定期的に発生します。実際にこれが結構面倒です。
この負担額を全員が払わないと、共有者の間で不信感が生まれます。共有にする場合は、こうしたことも考慮し、あらかじめ保存のためのコストを全員で確認し、支払方法などを調整し決めておく必要があります。
さらに共有名義のうち、自分の持ち分だけを、不動産販売会社などに売却することでトラブルが起こります。実際に不動産販売会社では、1人の共有名義者から、その1人の持ち分だけを買い取ることも行っています。
多くのケースは、1人から持ち分を買い取ることで、会社が共有名義人となり、ノウハウを生かし、他の共有者からも、その持ち分を買い取るように誘導するのです。共有者同士の摩擦を起こしかねないため、マイナス面といえます。
このように、共有状態が続くことで多くの問題が発生しかねないため、相続不動産に関しては、できるだけ共有を回避することが望ましいといえます。
出典
(※)国税庁 令和元年分の相続税の申告状況について
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。